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真面目な王子と公爵令嬢は平民令嬢について学んでみた

作者: ひよこ1号

煌びやかな装飾と楽団の演奏に彩られて、学園では夏の夜会が行われていた。

一握りの優秀な平民と、大多数の貴族。

生徒達だけで気軽に楽しめる夜会である。

既に華々しくお披露目デビューは飾っているものの、低位貴族と高位貴族という身分の垣根や派閥によって招待されるパーティーは違う。

平民達は言わずもがな。


学園の中に用意された舞踏会場には、着飾った生徒達が笑いさざめいていた。

その中、一際光輝く一団が現れる。

王子アルナートとその側近達、そして……。


「まあ、ご覧になって。素敵な御召し物ですこと」

「あら、どなたからの贈物なのかしら」


淑女達が扇の下で言葉を交わして冷たい目線を向けるのは、男爵令嬢のマリカである。

栗色の髪に、大きな緑色の瞳をもち、庇護欲をそそる見た目の天真爛漫な少女。

ただし、婚約者のいる男性にも構わず近寄ることで、令嬢達からの評判はすこぶる悪い。

男爵が小間使い(メイド)に産ませた庶子で、平民育ち。

学園入学前に引き取られて、正式に男爵家の養女になって学園へと通い始めたのである。

当然ながら、礼儀作法マナーは学んでおらず、そこでも令嬢達からの顰蹙を買っていた。

最初は交流を持って、お茶会などにも呼ばれていたが、軒並み全滅したのは自業自得。

令嬢達よりも、令嬢の母親である女主人からの厳命なのだ。

あのような奔放で自由なご友人とは、距離を置いた方が良いわね?と釘を刺されもするというもの。


アルナートは金髪碧眼の爽やかな美貌を持つ王子だ。

奔放な令嬢、マリカを側に置いているせいで、彼の人望は下落の一途を辿っていた。

そして、勿論の事ながら幼い頃から婚約している公爵令嬢も存在する。

彼は高らかにその婚約者を名指しで呼んだ。


「ハリエット・エバーグリーン公爵令嬢。君に問い質したい事がある」


「何でございましょう、殿下」


静々と前に進み出たのは、今しがた呼ばれたハリエットだ。

銀の髪に淡い緑の瞳の涼し気な美女で、学園でも憧れの的である。

これから何が起こるのか、と一同は息をのんで見守っていた。


「ここにいるマリカ・ボンダ男爵令嬢が、君に虐めを受けたと言っているのだが本当か?」


「いいえ、身に覚えがございません」


「そうか。それではマリカ、君が嘘を吐いたのか?」


えっ??と皆がマリカへと視線を移すが、マリカが一番驚いた表情をしている。

大きな瞳に涙を溜めて、震えるようにマリカは言った。


「そ、そんな、嘘じゃありません!私に、殿下の相手には相応しくないと嫌味を……」


「ふむ。ハリエット嬢」


「言いましたが、少々違います。殿下に相応しい女性である為には、勉学や礼儀作法マナーもきちんと学ぶ必要があると助言いたしました。……逆にお伺いしますけれど、今の彼女は王子殿下に釣り合っていると言えまして?」


そう問われれば、側近もマリカも言葉を無くす。

成績は下から数えた方が早いし、礼儀作法マナーの授業ではいつも補講を受けているのだから。


「うむ。相応しいと言われたら不敬にあたるな」


あっけらかんとアルナートが言い放ち、側近達は擁護の言葉を失った。

女性らしいとか、優しいとか、明るいとか、女性としての魅力はあったとしても、だ。

王子の相手に相応しいのは、マリカよりもハリエットだと誰の目にも明らかである。


「ううっ、そんな、アル様までひどいですぅ……それに、平民育ちだって馬鹿にされました!」


再びの糾弾にマリカの伝家の宝刀が振るわれる。

平民差別という主張は、今まで何度もマリカが使ってきた技だ。


「ハリエット?」


「正しくは、平民として過ごしてきた期間が長いと言っても、これからは貴族として生きてゆくのですから、貴族としての在り方を学ぶように指導させて頂きました」


生徒達はしらーっとした目でマリカとそれを囲んでいる男達を見遣る。

ハリエットは何も間違った事を言っていない。

これが虐めだというのなら、大抵の注意は虐めになってしまう。


「マリカ嬢も努力して、慣れない中頑張っているのですよ!」


満を持して取り巻きが庇い始めた。

ハリエットはこてん、と首を傾げる。


「例えば殿方に対して腕を組んで胸を押し付けるのをやめるように言いましたが、何故未だに行っているのでしょう?努力しないと止められないものでしょうか?」


「お、押し付けてなんか、ないですっ!」


顔を真っ赤にして反論するが、アルナートが今度は首を傾げる。


「いや、私は押し付けられたことが何度もあるが?」


「そっそれは、あの、ぶつかってしまっただけで、わざとでは……」


今度は涙目で可愛く抗議をするが、アルナートはマリカの背後で目を泳がせている側近達に尋ねる。


「正直に答えよ。其方らはどうだ」


「……は、いえ……た、多分そういう事もあったかもしれません」


毎回だろ?と会場中の生徒達が心の中で突っ込みを入れる。

そこでハリエットがまた静かに言った。


「一度目は偶然だとしても、二度目は奇跡、三度目は必然と申します」


「つまり、故意だという事だな」


アルナートの言葉を他所に、マリカはまたハリエットに向けてきゃんきゃんと吠えたてる。


「だって、平民ならこの位、普通だもん!!」


これも伝家の宝刀二本目である。

平民なら普通、で今までマリカは色々と押し通してきた。

言葉遣いに眉を顰める者達もいる。

身分の高い公爵令嬢に投げかけて良い言葉ではない。

だが、ハリエットは真剣な顔で一つ頷いて穏やかに言い放った。


「わたくし、ボンダ嬢について知ろうと思いまして平民の勉強いたしましたの」


「ハリエット……君は勉強家だな」


「畏れ多いことでございます」


何故か褒めるアルナートと、礼を言うハリエットに思わずえ?え?とマリカは出鼻を挫かれた。

それに、平民の勉強って何??と生徒達もマリカも頭に疑問符を浮かべる。


「平民の生徒達には勿論お話を伺いましたが、局地的で特殊な環境だった可能性も考えて、ボンダ嬢がお住まいだった地域に赴いて、お話を伺って参りました」


とんだ社会科見学である。

王妃教育や社交の合間を縫って、そんな事をしていたのか、と生徒達は驚きに包まれた。


「パン屋の女将さんでいらっしゃるモリータさんに拠りますと……

『そりゃ性悪な女がするこったね!平民だってそりゃお貴族様みたいに上品じゃないさ。けれど他に相手がいる男に擦り寄る女は泥棒猫って呼ばれて嫌われるもんだ!平民にとってそれが普通な訳ないだろ』

……と仰っておられましたわ」


まさか、腹の底からの大声量でパン屋の女将の真似をするとは思わなかった生徒達はまたも目を剥いた。

麗しの美女の背後に、見た事のないパン屋の女将が目に浮かぶような演説である。

とんでもない才能に一同は言葉もない。

アルナートは何故か、満足げにうんうんと頷いている。


「ちなみに、誰だいそんな馬鹿な事言う奴は?と言ってらしたので、ボンダ嬢の名前を言ったところ、嘆いてらっしゃいました。

『ああ、あのお貴族様に貰われてった嬢ちゃんだね。愛想は良かったけど…ずいぶんとまあ、下品になったもんだ。ああでも、昔っから男の子ばっかり連れてたね』

と、お隣の花屋さんでお仕事中のエリーさんを紹介して頂きました」


まだ続くの!?と怖いもの見たさと聞きたさで生徒達は固唾を呑んで見守る。

だが、待ったをかける者がいた。

マリカだ。


「ちょっとあんた!何でそんな勝手な事してくれてんのよ!何なの!やめなさいよ!」


「行き違いがあってはいけないと思いまして、ボンダ嬢の成長を見守ってくださった方々にきちんとお話を伺って参りましたので、ご清聴くださいませ」


穏やかに微笑まれるが、マリカは髪の毛を振り乱して抗議を続ける。


「はぁ?!ふざけ……」


暴言を吐きかけて、ハッと周囲の目を気にして、マリカは慌てて可愛く言い直した。


「やめてよ!やめてったら!」


「私は聞きたい。マリカ嬢、静かにしたまえ」


王子は興味津々である。

ハリエットは返事の代わりに一礼して、勉強の成果をまた一つ披露した。


「エリー様は幼い頃にボンダ嬢と過ごした事のある女性でした。そこでモリータさんと一緒に事情を説明するとこう仰っておりました。

『ああ、あいつね。めちゃくちゃ性格悪いよあいつ。だって女と男じゃ態度が全然違うもん。ああいうのをぶりっこって言うんだよね。だから女の子の友達なんていなかったよ。向こうもいらないんだろうしね。それにちょっといいなって男の子がいて噂になるとすっ飛んでって奪う様な女だからね』

……わたくしが愚考するに、『ぶりっこ』とは『思わせぶりな態度をとる』ところから派生した言葉ではないかと思うのです。皆様もそうではありませんか?

『あなたが一番好き』ですとか、『あなただけが特別』などと言いながら、複数の男性を侍らせる虚言を用いるらしいのですが、皆様の中でどなたが本当の唯一なのでしょうね?」


今度は蓮っ葉な女性の真似である。

芸達者な公爵令嬢に、またも会場がざわめいた。

皆様、とは言っているものの、それはマリカを囲んでいる令息達に向けた言葉だ。

自然と皆の視線も、その男達に集まる。


言われた言葉に心当たりがあったのか、彼らは何とも言えない表情でお互いの顔を見合わせていた。

小声で、自分がとか自分だと言い争いも始まる。

暴露されたマリカは顔色が悪い。

何かを言おうとマリカが口を開いたところで、ハリエットが再び声にした。


「それと、複数の男性を繋ぎ止める為に『皆大好き』などと言う事もあるようですので、ご参考までに」


今まさにそうまとめようとしていたマリカはぐぬぬと口を閉ざした。

けれど、起死回生の一手とばかりにマリカはアルナートを見上げる。


「私が好きなのは、アル様ですっ!」


「そうか、分かった」


必死に涙目で言い縋ったのに、あっさりと分かったと返されて、マリカの目が点になる。

分かったって、何?とマリカが首を傾げれば、アルナートも首を傾げた。


「君の気持ちは解ったが、それで?」


「それで……?」


そう告白すれば、相手が答えを用意してくれるものだ。

マリカは幼い頃からそうしてきたし、前世に楽しんだ乙女ゲームだってそうだった。


「私を恋人に……」


「私には婚約者がいるのにか?」


はっきりと問い返されて、マリカはハリエットを見る。

激高するでもなく、悔しそうにするでもなく、さりとて見下す訳でもない。

ハリエットはアルナートと同じように不思議そうに見守っているだけ。

だが、ハリエットはハッと気づいたように、アルナートを見上げる。


「ああ、そういう事でしたの?……アルナート殿下、彼女は愛妾になりたいと希望されているのでは?」


「……ああ、そうか。だが、我が国では公妾は許されていない。王妃が病に倒れ社交が儘ならないなど、条件は限定されているし、マリカ嬢は社交に向いていないだろう」


「え……」


向いていないと笑顔ではっきり言われて、マリカは固まった。


「貴族社会で生きるのに必要な礼儀作法マナーが出来ていない者を誰が尊ぶのだ?学園であるからこそ許される無礼を将来にまで夢に見るのはさすがに逸脱している」


「そ、んな……でも、じゃあ、今まで何で……」


何で側に置いていたのか?


それは生徒達も疑問に思うところだったが、うーむ、とアルナートは言葉を濁した。


「理由を言ったら君を傷つけることになるかもしれないから伏せておこう。ただ、私の婚約者はハリエット嬢で、いずれ王子妃として私の隣に相応しい女性である事は揺るぎが無い事実だ。それは折に触れ何度も君に伝えてきたはずだが」


確かに、そう言っていた。

マリカはどうにでもなると思って無視していただけだ。


「私にはハリエット・エバーグリーン公爵令嬢という婚約者がいる」

「ハリエット嬢は素晴らしい女性だよ」


幾度も彼はそう言っていた。

だが、その立場は覆せると、何の根拠もなく自信を持っていたから。

それに、マリカが寄り添う腕も振り払われはしなかった。


「そんな…おかしい……バグ?……テンセイシャがいるの?」


頭を抱えてアルナートやハリエットを見るが、不審な点は今まで無かった。

アルナートは優しく、冷酷に突き放された事は無い。

ハリエットも、虐めはしなくとも無関係を貫いた訳ではない。

正しく、節度を守った注意を与えて来たのだから。

転生者に有りがちな無関係を貫く、ような行為もない。

ゲームの画面では意地悪そうに見えたけど、台詞は一緒だ。

先程の勉強発表会だけがおかしいだけで。


「うーむ、何かの外国語かな?」


「何処の国の言葉でしょうか。不勉強で理解出来なくて申し訳ありませんが……」


バグ、転生者、という言葉に二人が食いついてくる。

でもマリカには説明のしようがない。

言ったら最後、狂人として片付けられてしまう可能性が高いのだ。


「ああ、それにほら、マリカ嬢。君には片付けねばならない問題がある。あの者達のうちの誰かを伴侶に選ぶのだろう?幸い、彼らに婚約者はいないのだから、好きに選びたまえ」


婚約者はいない、と断言された彼らは顔色を無くして婚約者の方を見る。

だが、婚約者だった者達は、扇で口元を隠したまま冷たい硝子玉の様な目で見返すだけ。


「お、王子、我々には婚約者がいますが……?」


中の一人がどもりながら疑問を投げかけるが、アルナートは困ったように眉を顰めた。


「ああ、だが、蔑ろにしていただろう?破棄や解消も頭の片隅にはあった筈だ。婚約者殿から注意を受けていた者もいるな?それらを無視し続けたのだから解消されるのは当然だ」


何も知らされていない彼らは唖然としたままアルナートを見上げる。

ハリエットはアルナートの言葉に続けて言った。


「僭越ながらわたくしが取り纏めましたの。婚約とは婚姻の約束です。両家が結びつきを強くするために約束した、いわば契約の様なもの。贈物を贈らない、同行エスコートをしない、助言を無視する、こういった行為は今後の結婚生活においても双方の関係を壊す不利益と見做されますわ。愛情どころか信頼関係さえ保てない間柄に意味などございませんもの」


「ハリエット嬢が君達と縁づく予定の貴族家と令嬢を含めて話し合い、結果を私に書面で託したのだ。王の裁可は下りているし、君達の家にも通達済だ。だから自由に恋愛を謳歌して良いのだよ」


大衆向けの娯楽小説や観劇にある「真実の愛」だ。

けれど、それは。


「ですが、私は違います!将来貴方の隣に立つ方だと思って…」


尚も食い下がる者が居たが、アルナートは笑顔で溜息を吐いた。


「マリカ嬢も話を聞かないが、君達も大概だな。それは、礼儀作法マナーも知らない男爵令嬢を正妃にすると私が言い出したら、失脚させようという企みか?それとも妻の教育の無さを笑う為の布石か?どちらにしても不敬だ、と私は先ほども言ったが?」


訴えかけた令息はヒュッと息を呑んだ。

そう、とられてもおかしくはない。

相応しいなどとは口が裂けても言えはしないのだから。

途端に、マリカを得る意味が地の底まで落ちた。

王子の寵愛があるならまだしも、側妾にすらなれないただの男爵令嬢である。

確かに可愛く、そそられる部分はあるが、貴族令嬢としては足りない部分が多過ぎた。

それどころか、会場の冷たい視線で分かる通り、社交界では爪弾きに遭うだろう。


「ふむ。皆の前で話し合えというのも酷だ。別室に案内したまえ」


アルナートがさっと手を挙げれば、侍従が彼らの元まで歩み寄り、別室へと連れて行く。


「では、心置きなくパーティーを楽しもう。ハリエット嬢、どうか私と舞踏ダンスを」

「はい、殿下。喜んでお受けいたします」


差し出されたアルナートの手に、ハリエットが手を重ねたのを合図に、会場ホールの中央が開けられて二人の舞踏ダンスが始まる。

笑顔で踊る二人の美しい姿形や所作にほう、と生徒達は溜息を吐いた。

やっと抱えていた学園生活のもやもやが解消されたのもある。


踊りながらハリエットはアルナートに静かに囁いた。


「わたくしには、理由をお聞かせいただいても?」


「ああ。……あまりに珍しい生物だから観察していたんだ。言葉が通じないから動物だと思ってね。将来あのような人物が現れぬとも限らないだろう?いい機会だと思った」


動物、と評されたマリカの様子を思い浮かべ、ハリエットはくすりと微笑む。


「殿下はわたくしの事を勉強熱心だと仰いますが、殿下も勉強熱心でございますわね」


「私達は似たもの同士だな」


それはハリエットにとって最高の賛辞でもある。

アルナート自身が、アルナートの隣に相応しいと言ってくれるのだから。



二人が周囲に祝福されつつ、幸せに過ごしている間、別室では暗い沈黙が支配していた。

マリカという存在の価値は暴落したが、かといって婚約者がいないというのも体裁が悪い。

とりあえずの相手として留保すべきか、捨てるべきか令息達は迷っていた。

呆然としていたマリカも、仕方なくアルナートの次に身分の高い公爵令息に乗り換えようと考えを纏めていた時、部屋に一人の人物が入って来た。


先程案内をしてくれて、扉の前で別れたアルナートの侍従が、紙片を持って現れたのである。

「皆様にお伝えいたします。本日を以て、貴方がたは正式に廃嫡とされ貴族籍から抜かれました事をお伝えいたします。また当主と学園の恩情によって、卒業までの学費と寮費はそれぞれの家門から支払われるとの事にございます。荷物は寮へと送られる手筈になっているので、ご実家へは戻られぬように」


言い終わった侍従はさっと、一礼をすると風のように部屋からいなくなった。

マリカは再び唖然とする。

全員廃嫡だなんていう落ちがあるなんて思わなかったのだ。

さっきまでは忙しいから王子妃になんてならなくて良かったかも~などと悠長に考えていたが、これでは元の木阿弥である。

平民に逆戻りENDだ。

マリカはまだいい。

けれど、令息達は天国から地獄への一方通行ジェットコースターだ。

逆上されて殺されかねない、と戦慄したマリカはそろそろと出口に移動した。


「皆頑張ろうねっ!平民の生活なら、私に聞いて?じゃあ、また学校で!」


可愛くガッツポーズを作りながら言い逃げて、とりあえずマリカは今日のドレスを売りに走った。

お金があればしばらくは何とかなるだろう。


アルナートとハリエットの恩情により、廃嫡された側近もどき達も役職に就くための資格試験には挑戦出来る段階での断罪であった。

元々素地の悪くない者達は、平民として狭き門を潜り抜け、一部は文官や武官として仕官する事になる。

これは何も恩情からだけではない。

一時的に実家が負担した婚約者への慰謝料を一生支払い続けさせる為である。

若き日の過ちで、結婚をする事は適わない収入しかないが、浮気をするような男は結婚などしなくて良いと周囲には思われている。

また、努力を怠り資格を得られなかった者達は辺境の一兵卒になるか、鉱山夫となって厳しい環境で返済に足る給金を得るしかなかった。

不貞行為も冤罪も未遂だったマリカが責任を問われるのは不敬罪のみだが、アルナートとハリエットは取るに足らない罪だとして告発はせず。

手痛い罰を受けなかった彼女は何も学ばぬまま、短い生涯を下町の片隅で終えることになるだろう。

七色の声の王妃様のリアリティ溢れる紙芝居は子供達に大人気となりました。

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― 新着の感想 ―
こっそり追加されている後書きに、作者の高いセンスを感じました。
短い生涯、下町の片隅……早々に娼館行きになりってことだろうなぁ~と想像しました。 出来るのは男に媚び売るだけ。取り柄は見た目と若さのみ。人脈も生き抜く知恵もなくって思えばそらそうよ。
平民から見た評価が出てきたのは画期的でしたね。 すごい説得力。
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