廃墟の空き家
これは僕が、幼い頃に起こった出来事である。
僕が住んでいたのは、地方にある、とある村だった。
あたり一面、自然しかないような場所で、娯楽施設も無かった為、よく川で魚を釣ったり、山で虫を取ったりして遊んでいた。
そんな平和な村の中で、とある言い伝えがあった。
『とある山の、立ち入り禁止の看板の向こう側には、行っちゃいけないよ。』
小さい頃から、口を酸っぱくして、言われていたことだった。
放課後、小学校の帰り道、幼馴染の千代が、このようなことを言いだした。
「ねぇ、気にならない?立ち入り禁止の山。」
「うーん、どちらかと言ったら、気にはなるけど……。」
「そこに、私たち三人で行ってみようよ!それで、山の中に何があったのか、学校の皆んなに知らせるの。」
それに、幼馴染のまさやんが同意する。
「おう、それ、いいな!そしたら俺たち、超有名になるじゃん!それに、もうここら辺で遊ぶのには、飽きてきたところだったし。」
「……でも、やめようよ。きっと、危ない場所だから、看板が立ってるんだよ。」
「そうだけど、気になるじゃんか。大人に聞いても、教えてくんねーし。」
「そうだけど……。」
「ね、拓也!ちょっと見るだけ!おねがい!」
「はぁ……わかったよ。本当に、ちょっと見るだけだからね。」
「よっしゃ!そうと決まれば、早速いくぞ、おまえら!」
まさやんはそう言うと、笑いながら駆け出した。
止めたとはいえ、僕自身も、自身の好奇心には、勝てなかった。
僕達もそれを追いかけ、立ち入り禁止の山へと向かった。
ーーー
立ち入り禁止の看板を過ぎ、トラロープをかい潜り、僕達は山道を歩き始める。
山道は、他の山道と何ら変わりはなかった。しかし、立ち入り禁止、と書かれていたからか、周りの木々でさえも、不気味で仕方がなかった。
暫く歩くと、何かの影が見えてくる。
「えっ……。なんだ、これ……。」
そこには、だいぶ前に空き家になったであろう、木造の家が一軒、ポツンと建っていた。
「こんなところに、家?」
「だれか、住んでたのかなぁ……。」
「なんか、わくわくするなぁ!なぁ、ここに入ってみようぜ!」
「や、やっぱり帰ろうよ。何があったかは、知れたわけだし」
言い出しっぺだった千代も、怯えながら話す。
「そうだよ。持ち主がいない家でも、はいっちゃだめだって、ままやぱぱが言ってたよ。」
「……なんだよ、お前ら、こわいのか?俺は、ぜーんぜん、こわくないね!」
まさやんに挑発され、僕達は、ムッとしながら言い返した。
「こ、こわくなんてないもん!」
「怖くなんかないよ」
「じゃあ、はいれるだろ?」
そう言うと、彼は、躊躇なく、その家へと入っていった。
僕達は、顔を見合わせ、意を決した後、その後に続いた。
「お、おじゃまします……。」
「……!」
「……変な感じは、しねーけどな。」
「え?何か言った?」
「なんでもねー。」
入り口は荒廃としており、物が散乱としていた。様々な物が割れており、歩くたびに、ジャリジャリと音が鳴った。
中へ入ると、左手側には、沢山の襖があり、正面には、真っ直ぐに伸びた廊下、右手側には、2階へと上がる階段があった。
「ね、ねぇ……。」
千代が何か言おうとしていたが、先に進んで入ったまさやんが、廊下の奥ではしゃぎながら、それに被せた。
「なぁなぁ、ここでかくれんぼしようぜ。なんか面白そうだし」
「え!?ここで……?」
「だって、せっかくここまで来たんだぜ?それに、お前ら、またここにくる気はなさそうだし。遊んでおかないと損だろ。」
「……。」
流石、幼馴染だ。僕達のことをよくわかっている。まさやんは、強制的に、話を進め始める。
「ほら、じゃんけんするぞ!じゃーんけん……ぽん!」
結果的に、僕が一人負けしてしまった。
「じゃあ、拓也が鬼な!千代、隠れるぞ」
「う、うん……」
僕は、仕方なく、柱に腕を当て、目を閉じ、数字を数え始める。
「いーち、にーぃ、さーん……。」
ドタバタと足音が聞こえる。
「……十!もういいかーい?」
「「もう、いいよー!」」
「はぁ……。探すか……。」
目を開け、聞こえた足音を頼りに探し始める。一人は、一階の廊下奥へと行ったようだ。進むと、突き当たりの右に、洗面所がある。そこを除くと、僅かに、パリ……と、何かを踏んだ音が聞こえた。
「……千代。みーつけた」
彼女は、古びたお風呂場の内側に立っていた。
「見つかった……」
そう言いつつも、彼女は見つかり、安堵した様子だった。
「じゃあ、いっしょにまさやんを探そう。」
「うん……。」
「……どうしたの?ここに入ってから、げんきがないよ」
「あのね……言いそびれてたんだけどね、この家の玄関に……赤黒く塗りつぶされた、紙みたいのが貼られてたの」
「えっ?」
「この家、こわいし、やばいよ。早く、まさやん見つけてかえろう。」
「……うん、そうだね。」
冷や汗が流れ始める。早くこのかくれんぼを終わらせなければならないと思った。
「まさやーん、どこー?」
「は、早くでてきてー!」
二人がかりで一階を探すも、まさやんの姿は見当たらない。
「……一階には、いないみたいだね。」
「う、うん……。じゃあ、2階かな?」
2階は、明かりが入らない場所なのか、暗くて何も見えない。僕は、生唾を飲み込んだ。
「……まさやん、よくここを上れたね。」
「うん……。危なそうだから、僕が、先に行くよ。」
「わ、わかった。」
僕が階段に足をかけると、ギシ……と、腐りかけの木の音がした。
2階へあがると、そこも襖の部屋だった。恐る恐る、少しだけ襖を開ける。カビ臭い匂いが、僕の鼻を通り抜けた。
「まさやん……?」
返事はない。嫌な予感がし、僕は、思い切って開ける。そこには、目は窪み、歯茎を剥き出し笑っている、人型のナニカに、赤黒い鋭い鎌のようなもので心臓を貫かれ、生気のない目でこちらを見つめ、血を流すまさやんの姿があった。
「ま、まさ、やん……!」
「ど、どうしたの……?キャァァア!」
後から来て、覗き込んできた千代が、悲鳴をあげた。
そのナニカは、僕達を見据えてくる。すると、ソレの背後から、青白い子供達の無数の手が、僕達に襲いかかってきた。
「うっ、うわぁぁあ!」
僕は急いで駆け出したが、後ろを振り返ると、恐怖で固まる千代が目に入った。急いで彼女の手をとり、引っ張り、駆け降りた。
僕達は、家を飛び出し、死に物狂いで走った。後ろを振り返ると、手は、ついてきていなかった。
その後、山の麓近くにある公民館へと入り、そこにいた村長さんに、全ての事情を説明した。
「アンタら!あの山に入ったんか!」
こりゃあ大変だ、と村長さんは、どこかに電話をかけていた。
あのことが、現実として受け止めきれなかった僕は、時間が過ぎるのがあっという間だった。
その後、僕の両親、千代の両親、そして、まさやんの母親が、公民館へと集まった。
それから、何があったのかと事情を聞かれた。
「そこに、家が……まさやんが……まさやんは……へ、へんな奴に……血が……、いっぱい……」
「……うぅっ、うえ〜ん!!」
千代が、両親が来たことにより安堵したのか、大きな声で泣き始める。
すると、まさやんのお母さんが、山の方へと見やった。そして、目に大きな涙をいっぱいに貯め、膝から崩れ落ちる。
「そんな……そんな……!イヤァァアッ!勝うぅうっ!」
まさやんのお母さんの嘆く叫び声が、公民館の部屋に響き渡った。
「……山の呪いを受けたやもしれん。君たちは暫く、この村から離れなさい。いいね。」
村長さんにそう告げられ、僕らは、公民館を後にした。まさやんのお母さんの泣き崩れる後ろ姿が、目に焼きつき、離れなかった。
ーーー
あの出来事から、12年が経ったある日。
僕は、ローカル線の電車に揺られていた。
まさやんのお母さんから、連絡が来たのだ。
まさやんの一件で、協力して欲しいことがある、と。
勿論、僕の両親には、村には戻らずにいろ、変なことには首を突っ込むな、と猛反対された。
しかし、僕の意思は固かった。あの時、彼を置いていってしまったこと、最後に見た、まさやんのお母さんの姿のことを思い出し、後悔していた。
だからもし、彼の為に何か、できることがあるのなら、協力しようと思ったのだ。
僕は、久々に、故郷の地へと降り立った。
「ここも、久しぶりだな……。」
まさやんの家への道を歩いていると、ある人物の後ろ姿が目に入る。僕は駆け寄り、声をかけた。
「ねぇ、君。……もしかして、千代?」
「うん。……拓也?」
あの頃の特徴を残したまま、大人になった千夜に出会った。話を聞くと、千代の方にも、まさやんのお母さんからの連絡があったらしい。
それから、二人で、彼女の元へ一緒に向かうことにした。
あの頃と変わらない、まさやんの家のインターホンを押す。すると、玄関の引き戸が開き、女性が出てきた。
「……久しぶりね。」
「はい。お久しぶりです。まさやんのお母さん。」
久々に会った彼女は、面影はあるが、皺が多くなり、すっかり痩せ細っていた。
僕達は、勝の仏壇に手を合わせた後、和室に通された。机に置かれたお茶を眺めながら、口を開く。
「それで、協力して欲しいこととは、なんでしょうか。」
「……何から話せば良いかしら。」
彼女は、一呼吸置き、話し始める。
「私達は代々、ご先祖から、霊に対して対抗できる、特別な力があったの。だから、勝が生まれた瞬間も、直ぐに気づいたわ。この子も、私達の能力を受け継いだのだと。だけど……勝は、第六感が欠けている状態で生まれてきた。」
「第六感って、何ですか?」
「直感のことよ。あなた達、その家に近づいた時、嫌な感じがしなかった?」
「……!だから、あの時……。」
千代がそう呟く。そう、僕達二人が恐怖を抱いていたのに対し、まさやんは、何の躊躇いもなく、その家へと入っていったのだ。
彼女は目を伏せ、話を続ける。
「……あの山はね、ある時から、頻繁に、神隠しがおこっていたの。」
「神隠し、ですか?」
「そうよ。何度も、探索隊が調査をしたけれど、原因はわからなかった。だから、あの山全域、立ち入り禁止になったのよ。そんな中、あなた達は無事に戻ってきた。」
「何故、僕達は助かったのでしょうか。」
「恐らく……あの子が、無意識に、最後の力を振り絞って、あなた達を守ったのね。あの時、貴方達から、あの子の力を感じたもの。」
「っ……!まさやん……。」
千代は、大粒の涙を流し始める。僕は、膝に乗せた拳に力が入った。
「あの日……私があの山を霊視したところ、複数の魂、勝の魂、そして……悪霊である、黒い魂が見えた。とてつもない力を持っていたわ。祓いたいけれど、私には無理ね。探索隊の話が本当なら、恐らく、その家は、子供にだけ見えるみたいだから。」
「仮に、それが事実だとしたら、僕達はもう成人してしまいましたよ。家を見つけることは、不可能なんじゃ……。」
彼女はゆっくりと、左右に顔を振る。
「……あなた達は、悪霊の呪いをかけられている。だから、必ず家を見つけられるはずよ。」
「では、どうして僕達は、成人してから、集められたのですか?」
「……あの子の力が、無くなったからよ。」
「ど、どういうことですか?」
「あの子は、あなた達に悪霊が手を出せないよう、守りの加護を付与したの。それもあって、あなた方の守護霊様が、悪霊の力を抑え込むことができていた。だけど、あの子の力も限界があって……
貴方達が成人したのと同時に、無くなってしまった……。」
「そんな……!」
千代が声を荒げる。
「それから、悪霊の力が、守護霊達よりも勝ってしまった。だからいずれ、私が声をかけずとも、あなた達がここに戻ってくるように、悪霊から仕向けられたことでしょう。
例えば、この村にいる、あなた達の家族に、影響を及ぼしたりしてね……。」
「……だから、今、呼ばれたんですね。」
僕の発言に、彼女はコクリと頷いた。
「それで、何か解決案は、あるのでしょうか。」
「えぇ。……勝に、悪霊を祓ってもらうわ。」
「え!?でも、まさやんは……。」
「死んでいても、魂の存在は、まだあの山の中にある。感じるの。ただ、悪霊の側に長らくいたから……正気を保っているかどうかは、わからない。そこで、あなた達に協力して欲しいの。」
「……私たちは、どうすれば良いんですか?」
「あの子の名前を……昔のように、何度も呼びかけてあげて欲しいの。いつも一緒にいた貴方達の声なら、きっと、届くはず。」
「……成功する確率は、」
「100%、確実とは言えないわ……でも、貴方達を救うこと、そして、これから被害にあう子ども達を無くすためには、これしか方法がないの。」
彼女は目を閉じて、真っ直ぐな瞳で僕達を見つめる。
「……勝は、私に似て、とても強い子です。だから、あの子を、信じて欲しい。」
笑いながら、先頭を突き進む彼の背中を思い出す。僕らはお互いに顔を見合わせ、頷いた。
「はい……勿論、信じます。」
「私も。」
「……二人とも、ありがとう。」
そう言って、彼女はハンカチで、自身の目元を拭った。
『あの山に行く前に、ここの山神様のお力を借りなさい。そうでないと、とても危険よ。」
彼女の助言を聞いた後、僕達は、山神様が祀られている、祠へと向かっていた。
「……。母さん達は、まさやんの遺体は、見つからなかったって言ってた。つまり、他の神隠しにあった子供達も……」
「そうだね。きっと、家族のところに、帰れてないよね……。」
「せめて、魂だけでも、供養してやりたい。」
「うん……。それに、私、最近、頻繁に見るの。……。まさやんを殺したヤツが……私を見て、不気味な顔で笑う、夢を。」
彼女は、震える手を抑えながらそう言った。僕は、彼女を励ますように答える。
「……僕達で、あの家の、神隠しを終わらせよう。そして、僕達も、助かる為に。」
「うん……うん……絶対。」
涙声になる彼女と共に、長い長い石の階段を上り、一礼をし、鳥居を潜る。僕達は、村の守り神、山神様の元へと訪れた。
そして、祠の前で手を合わせる。
(どうか、僕達に、彼らを助けさせてください……)
すると、右手の親指の付け根に、針に刺されたような痛みが走る。
見てみると、そこには、葉のような、小さい模様が刻印されていた。
「ねぇ、拓也。これ……。」
「あぁ。僕にも、同じものが。」
彼女も、同じ場所に刻印されたようだ。
(……守ってくれる、ということだろうか。)
僕は、そのマークを手で摩り、神社を後にした。
ーーー
「……ここも、変わらないね。」
「……そうだね。」
看板とトラロープは、あの頃の記憶のまま、残されていた。僕達は覚悟を決め、それらを通り抜け、山の中へと入っていく。
歩いてからしばらくして、あの時のように、僕達の前に、廃墟の家が現れた。
目を固く閉じ、家の中へと入ると、木々のざわめきが聞こえぬほど、静かになった。
「……。」
まさやんは最後、二階に居たはず。そう思い、階段の方へと向かおうとする。
すると、バタン、バタンと音が聞こえ始める。音のする方を見やると、僕達以外、誰も居ないはずなのに、茶の間へと繋がる襖が、何度も何度も開閉される。
「な、なんだ……!?」
それに気を取られていると、急に千代に抱きつかれ、横に押し倒される。
「拓也、危ない!」
ヒュッ……と何かが通り過ぎ、ドアにぶつかり、ガシャンと割れた。後ろを振り返ると、粉々になっており、わかりづらかったが、それは、白い花瓶のようだった。
「イタッ……!」
「千代!大丈夫か!?」
「うん、平気……。倒れた拍子に手をついたら、少し切れただけ……。」
起きあがろうとする間にも、こけし、ほうき、空のガラスケース……休みなく、様々な物が飛んでくる。
「ポルターガイストか……!」
2階へ、行かせまいとしているのか、はたまた、俺たちを直ぐに殺そうとしているのか。あの時よりも、家が攻撃的になっている。
「千代、早く立て!」
「う、うん!」
僕達はなんとか立ち上がり、それらをかわし、2階の階段へと走った。そして、あの時の大きな襖と対峙する。
「……!」
勢いのままに襖を開けた。するとそこには、足が浮き、顔は青白く、目と心臓から血を流した、変わり果てた拓也の姿が、そこにはあった。
『……。』
「……う、うぅっ……!」
千代は、思わず、口を手で押さえる。
「まさやん……!僕だよ、拓也だよ!」
名前を呼びかけるも、反応がない。彼が、僕に手を翳したかと思うと、僕は念力のようなもので浮き上がり、壁へと打ち付けられる。
「ぐっ……!」
千代は、その光景に震えながらも、彼の名前を呼ぶ。
「まさやん、しっかりして!私達を思い出して!」
千代がそう声をかけるも、またしても反応がない。
「きゃあっ!」
千代も、念力により、捕まってしまった。力は更に強まり、首を締め付けられる。苦しい。息が、できない。
更に、あの時の、無数の青白い手が、僕の体を大の字に押さえつけた。
彼の後ろから、あの時のナニカが顔を出す。
あの時と同じく、歯茎を剥き出しにし、ニタニタと笑っていた。ユラユラと揺れながら近づき、ナニカは、鋭く尖った刃物のようなものを分裂させ、僕達に向けてくる。
(あれは、まさやんを貫いた……!)
僕達は、正に、四面楚歌の状態だった。
(ここで、なす術なく、死んでしまうのか……。)
鎌のようなものが、僕達に迫る。
意識が飛びかけながらも、僕は、最後の力を振り絞り、掠れながらも、彼の名前を呼んだ。
「まさ、る……。」
『……たくや……ちよ?』
彼の声が聞こえたと思った瞬間、念力の力が解け、僕達は床に落とされる。喉を抑え、咳をしながらも、大きく息を吸って吐くと、目の前の状況が好転していた。
僕達を殺そうとしたナニカを、まさやんが念力で押さえつけていたのだ。ナニカは、呻き声をあげる。
『グギィ……ギギギッ!』
『ダメだ。俺の、大切な友達なんだ。』
そう言った、まさやんの目と心臓からは、血が消えていた。
あの頃の、まさやんだ。
僕は、自然と涙が溢れ出した。
「まさやん……!まさる……!ごめん、本当にっ……ごめん!僕達は、君を置いていってしまった……!」
『……良いよ。あん時、俺はもう死んでたし。』
千代も同じように、泣きながら訴えかける。
「まさる、ごめんなさい!毎日、後悔してた……!あの時、私が、山に行ってみたいって言わなければ……!」
『俺が、ここに入りたいって言ったんだぜ?あんまし、自分を責めんなよ。つーか、俺より大きくなっても、お前らは変わんねーな!』
彼は、あっけらかんと笑いながら、そう答えた。あぁ、あの時のままだ。昔のままの、まさやんだ。
涙は、ずっと止まらなかった。
そう言うと、彼はナニカに手をかざし始める。すると、黒いモヤが浄化され、様々な年代の服を着た子供達が、何人も現れた。
その中で、指をしゃぶり、おかっぱの頭をした女の子だけが、まさやんと手を繋いでいる。
『コイツらは、俺が責任持って、向こう側へ連れてく。おかあちゃんに、よろしくな。』
「うん……。」
「まさやん!またいつか……会えるよね?」
『おう。輪廻は繰り返す。生きていれば、いつかは会えるぜ!』
彼は笑顔でそう言うと、僕達に背を向けた。子供達も、それに続く。
「勝……僕達を守ってくれて……ありがとう。」
「ありがとう……!」
彼は、後ろを振り向いたまま、僕達に手を振った。すると、光が僕達を包み込む。
それと同時に、家が、大きな地震が起こったかのように揺れ始めた。
「きゃあっ!」
古い木造建築の為、あっという間にガラガラと天井の木材が崩れ始める。
(逃げきれない……!)
僕は、咄嗟に千代を庇った。
折角、まさるに会えたのに、そのことを、まさるのお母さんに伝えられないのか……。そう考えていると、腕の中から、千代の声が聞こえた。
「っ、……お願い、山神様っ……!私達を、お守りください!」
すると、手の親指の付け根が痛み始める。
痛みに襲われる覚悟をしていたが、いつまで経ってもやってこない。
揺れが収まり、目を開けてみると、僕達は、山の枯葉の地面に佇んでいた。そして、後ろを振り返る。先ほど、あったはずのものが、無くなっていた。
「家が……消えている……?」
「……終わった、のかな。」
「……守って、下さったのか?」
痛んだを箇所を見やると、刻印されていたマークが消えていた。
「ありがとうございます……。山神様……。」
全てが終わった後、僕達は、まさやんのお母さんの元へと訪れた。
まさやんのことを伝えると、そう、と言った後、無事に戻って良かった、と、僕達の身を案じてくれた。
その後、霊視した、まさやんの母親曰く、なんでもその昔、その山に住んでいた家族が、村八分にされていたそうだ。
そこの家族は、心身ともに病んでいき、心中自殺をした。
そして、同年代と遊びたいという、未練を残した子供が地縛霊となり、時を経て悪霊となり、あの家を作り出したらしい。
もしかすると、子供達を家へと招き、友達を作り、ただ、共に遊びたかっただけのかもしれない。
僕達は、全てが終わった後、また、勝の遺影に手を合わせた。
一粒の涙が、頬を伝うのを感じながらも、強く、強く願った。
どうかまた、来世でも、勝に会えますように、と。




