5 悪徳貴族の脱税対策
「確か……貴族のお屋敷が、修道院という登記になってるから税が取り立てられないんでしたっけ?」
「そうだけど。財産はそのまま持ってると税金がかかるから、殆どの貴族どもは非課税の教会とか修道院として資産に変えてんの。だからゲティアには修道士の居ない修道院が何百とあるわ」
……なんだその馬鹿げた話は。
けど逆にこれは、好都合でもあるな。
「なるほど。ところで……今、この修道院に疫病患者の方はどれくらいいらっしゃるんですか?」
「……何よ急に。多分ここには……百人くらいはいるんじゃないの? 疫病が広がって来たころから受け入れるように命じてるけど……」
「そうですか。なら、彼らの『修道院』にも同じ責任を負わせましょう」
「……は?」
目をぱちくりとさせる教皇様に、俺は説明を続ける。
「法的にそこが『修道院』として認められているなら、教皇権限で全国に『疫病の感染者百名を、明日から皆様の修道院で保護・収容するように』って命令することもできますよね?」
「う、うーん。施政のことは議会を通さないとだけど……たぶん、教会とか修道院に命令を下す権限はある……はず」
「そしたらさっさと命令を出しましょ。個人の家に病人をたくさん入れろなんてことは言えませんが……宗教施設なら話は別です。もし嫌なら、今すぐ『あれは嘘でした、個人の別荘です』と自白させて、過去の脱税額と罰金を払わせるだけです。そうすればほら、道端の病人が減るか、税収が上がるかの二択になるじゃないですか」
「な、何よそれ……」
グラシア様は困惑している様子だった。
考えれば考えるほど、筋が通っている。横暴なのに、反論できない。
相手の決めたルールを利用する、そういう策略なのだ。
「あと先ほど言ってた税収の監査にしても……必ずしも全部の貴族の家を監査する必要は有りません。いまから全土の貴族の中から、ランダムに十人だけ監査を行うと宣言をするんです」
「……ランダムに? なんでそんなこと……」
「条件として、そこで脱税が発覚した場合、全財産を没収することを事前に宣告するんです。ただ、過去の申告漏れについては、今日から三日以内に自主申告して不足分を払えば、一切のお咎めなしとする……と」
そうすれば、貴族たちは現実的な確率で全財産を没収されることに怯えなくてはならなくなる。
そうなるくらいならと、自主申告してくる貴族も多いだろう。
まぁ、心臓に毛の生えた貴族が一部賭けに出る事もあり得るだろうが……
「……そういうこと。自主申告する貴族が増えれば母数が減って、監査される確率もまた上がる。そうなればあいつらは我先に、税金を持って来てくれる……わけね」
考え込むようにしながら、グラシア様はそう呟く。
……正直そこまでは考えてなかったけど、確かにそうだな。
最初は数%のギャンブルかもしれないが、時間と共に確率はどんどん上がり……彼らはそれを計算することが出来なくなる。
確率不明のギャンブルで、しかもその対価が全財産没収となると、殆どの貴族は疑心暗鬼になって折れてしまう事だろう。
しかし……いまの一瞬で、これを見抜いたのか? この人。
「……ねぇあんた、本当に何者なの? 何でそんな……いま、ちょっと問題になってる事を話しただけで……」
グラシア様の方も、俺の能力に驚いていたらしい。
正直こっちの台詞でもあるんだが……
「まぁ一応、世界を救う事をなりわいにしてきたもので。本当はこんな事しにここに来たわけじゃないんですが」
俺はそう、少しはにかみながら言うと、グラシア様は――
……やめろ。
哀れなものを見るような目でこちらを見るな。本当なんだよ。
「てなわけで、この俺に資料を見せても、全くの無駄じゃない事は示せたんじゃないですか? 同じように、他の問題だって……」
「たしかに、資金と派閥の問題はあんたの言う通り解決できるかもしれない。でも今一番ヤバいのは、一瞬のうちに神の力で疫病がなくなる、そういう奇跡を民衆が期待してることなのよ。こればっかりは理屈じゃどうにもなんないでしょ?」
「それは流石にファンタジーですけど……でも、出来る事はあるはずです」
俺が言うと、グラシア様はげんなりした表情をする。
……教皇様か何か知らないが、まだ俺を舐めてるな?
国家存亡の危機なんか、天界でいくつも解決して来た。
致死性の疫病に自然災害、他国からの侵攻。
典型的な国家滅亡のパターンだが、天界で何百回と見てきた盤面だ。
それらの問題を分析して、それに応じた能力を持ったものをその世界に送り込む。
ひとつの国を俺一人の体で完全に立て直すのは難しいだろうが、この国にだって優秀な人材はいるだろう。
それらを動かせば、こんなどん底の国であろうと一瞬で立て直せる。
ちゃちゃっとこの国を安定させれば、俺の命の源を心配する必要もなくなる。
そうなれば俺も、本腰を入れて『使命』の方に取りかかれるわけで。
「……わかった。今の解決策は確かに勉強になった。どうしても見たいなら、案内できないことは無いと思うわ。ねぇニーア、こいつを資料室に連れてくのって、問題ないわよね?」
グラシア様は後ろに体を伸ばしてニーアさんの方に顔を向けると。
「は……! もちろ……げほ、ごほ! もちろん……で、ござ……います」
「ご、ごめん、変なタイミングで……!」
ニーアさんはちょうどをお茶に口をつけていたところだったらしく、口を押えてむせこんでいた。
驚いたあまり耳としっぽがぴこぴこと激しく動いている。
「……なら、すぐに読ませてください。俺に任せてくれれば、この状況もひっくり返して見せますよ」
「……けどあんた、本当に魔族軍とかエンデ王国とかのスパイじゃないんでしょうね? やっぱ素性の知れない人に重要書類を読ませるのは……」
またか。せっかくいい策を教えてやったのに。
ならここはやっぱり……
「駄目なら全然いいですよ。でも俺、良く扉をあけっぱなしにする癖があるんで……気をつけないと、廊下から教皇様の汚部屋が丸見えになってしまうかもしれません。読ませてくれるなら気をつけます」
「……さっきから汚部屋汚部屋って、女の子相手に失礼じゃない? ……まぁ、ちょーっとだけ散らかってはいるけど? ほんの、ちょっとだけね? それを汚いだのなんだのっていうのは」
「ちょっと? ちょっと散らかってるってレベルじゃないですよ。あれじゃニートの子供部屋じゃないですか。何なんですかあれ」
俺が尋ねると、グラシア様はため息を吐いて。
「……人の出入りがある部屋であんなふうに暮らしてたら、教皇のイメージが崩れるでしょ。あそこなら他の人は入れないから、ちょっと気を抜いて生活できて……気づいたらちょっとだけ、ちらかっちゃって」
「……なるほど。ちょっとだけ、ですか」
「なに? 今笑った? 笑ったよね?」
「い、いえ……笑って……なんて……いま、いませんが」
顔を逸らしながら頬を噛む俺の顔を、がっちり掴んで振り向かせようとするグラシア様に抵抗していると。
ガチャン! と、ガラスの割れる音が鳴った。
「ニ、ニーア……⁉ 大丈夫⁉」
床に飛び散るカップの破片のそばで。
今しがたむせこんでいたニーアさんが真っ青な顔で、床に倒れこんでいた。
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