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42閑話 ゼタ様の推察

 何の変哲もない世界。

 ゼタがその世界から受けた印象は、そんなものだ。

 すぐには滅亡の兆しは見えず、逆に平和過ぎるという事もない。

 

 しかしそれはおかしい。

 ここまでの推理が正しければ、何かがあるはずなのだ。

 あのロナ君がこの世界を意図的に選んだのだとしたら、きっと何かがあるはず……


 考えながら、目の前に浮かぶ情報をぼーっと眺めていると。

 破滅指数の欄に違和感を覚えた。

 この世界は、ここ百年ほどずーっと、指数がどちらにも振り切っていない。

 破滅指数というのは十年単位に上下するのが普通で、これが百年間ほとんど動かないというのはあまり見たことが無いような。


 天界で罪を犯したものは、身を潜めるために平和な世界を好む。

 破滅指数の高い世界は、そもそも世界が長続きしない可能性が高いうえに、ゼタ達のような救済課が世界に介入してきた際に見つかる恐れがあるからだ。

 よって犯罪者を探すとき、公安課は指数の低い、平和な世界から調べていく傾向にある。


 つまりこの世界は、ここ百年の間、公安課にも救済課にも見向きもされない世界だった、という事になる。


 気になって軽く調べてみる。

 すると、無数にある世界の中で、百年もの間破滅指数がどちらにも振り切れていない世界は数十万ほどしかないことが分かった。

 これが偶然という可能性ももちろんあるが……


 さらに調査を進めてみると、その世界の気温推移のグラフに目が留まった。

 この世界はここ二十年で、氷期が来ているらしい。

 それより以前は温暖な気候が続いていた……にもかかわらず、破滅指数はそれ以前と以後でほとんど変わっていない。

 これは……かなり珍しい現象だ。


 文明の興亡についての研究によって、気温と破滅指数には明らかな相関があることが分かっている。

 文明は、食糧生産の増える温暖な時期に人口を増やし……

 寒冷な時期に食糧生産量が減ることで、増えた人口を養うことが出来なくなる。

 そうすると外に解決策を求め――戦争が起こり、勢力図が変わる。

 多くの文明が温暖な時期に勢力を増し、寒冷な時期に滅びているのは歴史が示唆している所だ。


 よって気温が上下しているにもかかわらず、破滅指数が常に安定している世界は珍しい。

 その条件でデータベースを調べてみると、同様の傾向を示している世界は数千まで減ってしまった。


 ここまで来ると、これが偶然でない確率も無視できない。

 となるとやはり、これには何者かの意思が絡んでいる?

 もし仮に、犯人が世界に干渉することで、破滅指数を安定させ……

 公安と救済の両方の目に止まらないような状況を、意図的に作り出していたとしたら?


 世界の均衡を保つというのは簡単なことじゃないはず。

 全く目立たずに世界の隅に潜みながら世界を動かす、なんてことは不可能だ。

 なら、それを手掛かりにロナ君はその世界に居る犯人を見つけ出そうとしている?


 いや、流石に広大な世界の中から、たった一人の人物を見つけ出すというのは無理か。

 なら他に方法は……


 ゼタは腕を組んでしばらく考えた末に、思わず立ち上がった。


 方法なら、ある……!

 犯人がせっせと保とうとしている世界のバランスを(・・・・・・・・)崩してやれば良い(・・・・・・・・)んだ!


 一つの国の文明を意図的に発展させ、世界のパワーバランスをぶっ壊してやる。


 ロナ君くらい優秀な人材なら、不可能な話じゃないだろう。

 いつの時代も、世界を統一するような勝ち馬の大国というのは存在する。

 

 仮に弱小国家なんかに落ちてしまった場合は大変だろうが、さっさとそんな所は捨てて、覇権を握る大国に忍び込めば良いだけだ。


 そうしてバランスを崩してやれば、その国はすぐに公安の目に止まる。


 もしくはバランスを取り戻そうと、犯人が介入をより強め、その結果正体にたどり着くことも出来るかもしれない。

 

 ――と。

 そういえば……最後にこの世界が介入されたのはいつか調べていなかったな。

 世界介入は一度行ったらその後百年間は原則行ってはいけないという規則があるはず。


 記録を調べるとこの世界は、九十四年前に極度の破滅状態に陥り、救済課が介入したとある。

 九十四年前か。やっぱり百年以内だ。


 先ほど絞り込んだ数百の世界から、最後の介入が百年以内の世界を探すと……


 ――たったの八十七個か、なるほど。

 ここまでくればもう、しらみつぶしに調べることが出来そうな数だ。

 ロナ君がなぜこの世界を選んだのか、その答えはほぼ確定したと言って良いだろう。


 ……けど、犯人の居場所が突き止められたのなら、なんで天界にいるうちに直接通報しなかったんだろう?


 ――と、また一つ、彼の言っていたことを思い出す。

 彼は、公安課から左遷されて……この窓際職の救済に異動してきたとか。

 犯人の正体に近づきすぎて、良からぬ力が働いた……?


 そう考えると、ロナ君が私に何も相談せずに処刑されたことにも納得がいく。

 彼は私に相談することで、危険が及ぶこと心配したんだ。


 ふん。そうだよね。

 ロナ君は私を信用してなかったんじゃなくて、私のためを思って相談しなかったんだ。

 もう。本当にあの子はもう、一人で全部抱え込んで。

 周りを信頼することを学ぶべきでしょ。

 ……でもよかった。これでもやもやが晴れた。


 というかこの世界……

 『魔族の支配が進み、これを退けるために『テイム』の能力を持たせた転移者を送り……』

 これって、ロナ君が担当した、イナゴに埋め尽くされた世界じゃないの?


 なるほど。ロナ君はこの世界についての知識を事前に持っているらしい。

 ならもっと話は早い。

 言語とか文化で困ることは無いだろうし、どの国が一番強いのか、みたいな事前調査もしただろう。


 彼ほどの能力の持ち主なら、今頃既に、世界をまたに掛ける大帝国を作ってしまっていたりして……

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