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41 全部、手のひらの上

 悪ノリをするなオニキス。

 ここまでの俺の推理はどうなったんだよ。

 

「しかしオニキスお前、俺達を試したのかァ……?」

「まぁ……ありていに言えばそうですね。ここにたどり着くことも出来ないような方々なら、私が関わる価値もないでしょうし。しかし、ズーさんの劇的な推理によって真相を暴かれてしまいましたね」

「俺にはちょーっと簡単すぎたけどな! 新入りも、途中までいい線いってたが……最後は俺の勝ちだったな!」

「……はぁ。もうそれで良いですよ」


 こいつの頭の中はいつもハッピーだな。

 俺がため息を吐くと、今度はオニキスの方がズーに……俺の知らない話を始める。


「そんなわけで。これで分かりましたよね、何故私が、先週の段階でもっと大きな融資を受けるよう助言したのか」

「借りた分だけ儲かるから……で、あってるよな、新入り?」

「……その他に何があるんですか。というか、そんなことまでしてたんですか……?」

「あァ……。今は仕事にあぶれた農民が多いからな、人手はある。人件費を安くできるチャンスだってんで……そいつらに漕がせる船を融資で大量に作らせたんだ」


 返すつもりのない融資を受けて事業拡大と来たか。

 やってる事がむちゃくちゃだな。

 

 そもそも高利貸しを意図的に資金ショートさせて、それで金を稼ぐとか頭おかしい。


 何とか真相を暴いて、この才能を確保できたのは幸いというべきか。

 この子が関われば貿易会社はもっと成長するだろうし、ヴィストが吊るし首にされていた世界よりも、穀物の価格はぐんと下がっていることだろう。

 そうすればゲティアはより豊かに……

 

 ……あれ?

 そういえば、今のゲティアの問題って……


 噴火被害を受けた農民の土地の問題と、

 国民の半数が借金漬けになっている問題、

 それに食料価格の問題……


 こんなの、一人で解決できるわけがない。

 ついさっきまではそんなことを考えていたんだけど。


 いつの間にか、その全部が解決してしまった。

 それも、たった一人の少女の手によって。


「てかさ、オニキスよぉ。あの子って次いつ会えるんだ?」

「あぁ、あの修道女さんですね。私もここ一週間は会っていませんが」


 つまり、この子は詐欺という明確な罪を犯すことで、数万の命を救った。


 薬屋のイグナート爺さんと違うのは、これが善意百パーセントではないという点だ。

 オニキスはその分物凄い富を得て、少なくともベシウスという男を一人、不幸にしている。

 しかし彼もまた、見せしめに農民の子供を殺すような奴で。


 ……この罪もまた、土地の詐欺と同じ、判断の難しい罪だ。


「マジかよ……。また会いてぇなぁ、あの子、めちゃめちゃかわいかったなぁ……」

「そうですね。でも、ズーさんがお金持ちになれば、彼女もきっとメロメロになると思いますよ」


 ……おい。考え事している間に話が変な方向に行ってるじゃねーか。


「ほ、ほんとか……? 俺が頑張れば、あの子も興味持ってくれっかなぁ……?」

「勿論です! ですからもっと働いて、もっとお金を稼ぎましょう!」

「そっかぁ……! ならオレ、もっと頑張るぜ! そんであの子といつか……!」


 バカ野郎、マジでやめろ。

 その馬鹿に変な期待をさせるんじゃない。

 と、口には出さずに心の中でオニキスを呪っていると。


「頑張ってください! 一生懸命な人は格好いいですよ。ね? ロナさんも、そう思いませんか?」


 どこか含みを感じる言い方で、オニキスはそう笑いかけてきた。

 まさかオニキス、こいつ……


「そんでオニキスよォ、てめェはこの貿易業に嚙みてェって言ってたよな? 約束は守るつもりだが……ウチで何をしようってンだ?」

「そりゃ、お金の計算とか取引とかしてくれんだよな?」


 俺もそう思っていた。

 借金なんか抱えて破産しないように、上手い事経営をやってくれると嬉しいのだが。

 しかしオニキスは首をかしげると。


「……? そういう経理の仕事は、既に行っているのではないのですか? もしかして、海賊の中にはそういう事が出来る人が居ないとか……」

「あー、昔はそんな細けぇこと誰もやりたがんなかったんだけどよ、アニマが来てからは勝手にやってくれてんだ」

「アニマさん、という方が。教養をお持ちの方がいらっしゃるんですね」

「そうらしい。あいつはみょーにかしこいんだよな」


 言い方からしてズーは何故アニマが賢いのかを知らないらしい。

 俺だけが知らないんだと思ってたけど、違うのか?


「しかし……そう言った素養のある方が居て、どうして返済の出来ない借金なんかを?」

「あいつは陸に上がれねーからな。それに直接人と会って交渉するとか、そういうのが苦手で出来ねぇんだ。おつむは悪くねぇんだが、根性がねぇのよ。簡単にあきめちまいやがって、なっさけねー野郎だぜ」


 けらけらと冗談交じりに笑うズー。

 こいつはどこかパワハラ気質がある。そういう時代性なんだろうが。


「なるほど、ならズーさんは?」

「はっ! 俺に難しいことは分かんねーよ」

「ならズーさん、あなたがアニマさんに習えばいいじゃないですか」


 鼻で笑いながら手をひらひらとさせるズーに、オニキスは首を傾げる。

 そうだそうだ、言ってやれオニキス。


「は、はぁ⁉ なんで俺があいつに……! だいたいそれはお前の仕事じゃねーのかよ!」

「いえ? 私は他にやることがありますので。毎日船に何時間も揺られるなんてことはしません。交渉や会計等はあなたがたでおこなってください」

「は、はぁ⁉ 話がちげーぞ! 俺らにはそういう難しいことができねぇから、代わりにやってくれるんじゃねーのか?」


 いやー。俺もそうだと思ってたんだけど。

 ズーは焦った様子だが、オニキスは相変わらず平然としている。


「そんなものは勉強と経験でどうにでも出来ます。『簡単にあきらめるのはなっさけねー』じゃ、ないんですか?」

「そ、そりゃあそうだけどよ……でも、それは無理だろ……」


 と、追い詰められてたじたじのズーに。


「……なら俺がやらァ」


 と、ヴィストが横から口を挟んできた。


「ボ、ボス……⁉ で、でもボスは今でさえめちゃめちゃ忙しいじゃないですか! これ以上……」

「あァ、でもズーが無理だってんなら他にやれる奴はいねェだろ」

「ボ、ボス……」


 こいつら……なんか誘導してないか?

 しゅんとするズーに、オニキスはにっこりとヴィストに笑顔を向ける。


「分かりました。アニマさんがどれくらいの知識をお持ちなのか把握していませんので、あとでその方とお話をさせてください。どういうコトを教えればいいのか、話し合いましょう」

「分かった、頼むぜ先生よォ」

「一から学ぶとなるとかなりの時間を覚悟した方がいいでしょう。お忙しいとは思いますが、当分はこちらの方に注力して頂かなくてはなりませんね。指導者の立場と兼業ならば、寝る間を惜しんでやらなければ、身につくものも身に付きません。体を壊すことも覚悟の上で……」


 追い詰めるようなことをいうオニキスに、おろおろとしていたズーが意を決したように。


「ああもう!」

「どうされました? 何か、問題でも?」


 叫ぶズーに、オニキスはすっとぼけた顔で尋ねる。

 全部、手のひらの上だ。


「わーったよ! オレがやる! アニマに頭下げて、教えてもらうっすよ!」

「……ズーお前ェ、根性あんじゃねーか」


 ニヤリとして背中を叩くヴィストにズーは首を振る。


「ボスの手を煩わせるわけにはいかねーっすよ。そうなるくらいなら、俺がやります」

「では、生徒はズーさんですね。よろしくお願いします」


 笑いながら言うオニキスは相変わらず、人を動かすのが好きなようだ。けど。


「そうだ、ズーは数字どころか、文字ひとつも読めねェからな」

「……えっ」

「そうだがよ。それがなんか困んのか?」


 固まるオニキスに、良くわかっていない顔のズーはとぼけ顔でそう言った。

第三章を最後までお読みいただき、本当に本当に本当にありがとうございます!


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