38 明かされる手口
「……宝石ですか? それがなんで農地なんかに……」
「その、一か月前の噴火によって、火山内部にある物が沢山噴出してきましたよね……? それが近くの土地に被害をもたらしたわけですが……しかし同時に、地中深くに眠っていた宝石が噴出してくることもあるんですぅ……」
宝石が……地上に……?
確かにそういう話は聞いたことがあるが……
「さ、最初に土地を購入したドルエズ卿は、それで大儲けしたそうです。それからは、次々と貴族たちが土地を欲しがるようになって……」
「なるほど、一個でも質の良いものが見つかれば金貨千枚は下らないから……すぐに元が取れるわけですか」
「ま、まぁ……あまり良い買い物とは思えませんけどぉ……」
……え?
オニキスは袋から金貨を取り出し、日に当ててその光を楽しんでいる。
「なんでですか。簡単に元が取れるなら、買っただけ得なんじゃ……」
「そ、そんな美味しい話があるなら私がこっそり土地を買って、宝石を掘り続けてます……。そうじゃないから、商品として売ってるんですぅ……」
「で、でもそんなの分からないじゃないですか。実際ドルエズは一山当ててるってさっき……」
「そ、それはたぶん、私が宝石の原石を運んでいる時に、たまたまその場所にいくつか落としてしまったから……かもしれません……」
…………は?
「それってわざと……」
「も、もちろん偶然ですよぉ……。まさか、金貨千枚の価値を持つ宝石を見知らぬ土地にわざと落とすなんて、そんな勿体ない事しませんって……ううぅ……」
おい。
それダメな奴だろ。
「は、はじめドルエズ様はその土地の購入に乗り気ではなかったんですぅ……。しかし次の日には、なぜか目の色を変えて土地を売ってくれと頼んできまして……」
「宝石を見つけたんですよね。どう考えても」
「い、いえいえ……ドルエズ様は慈悲深い方ですから。困っている民を助けるために購入を決意したに違いありません……」
少女はおどおどとしながらも、どこか含みのある言い方をする。
「それからは注文の嵐でした……。ドルエズ卿は良い広告塔になってくれたみたいで……最初に彼を選んだのは正解でした。金持ちのガキのように顕示欲が強いので黙ってる事なんてしませんし、それに有力者ですから周りも疑いませんし……」
そこまで計算ずくでドルエズを狙った……と。
ガチの詐欺師が居るんだけどここに。
誰かこいつを捕まえてくれ。
「いつかはバレますよ、そんなことしてると。掘っても掘っても宝石が出てこないんですから」
「な、なに言ってるんですかぁ……? 彼らは慈善事業として土地を買っているんですよぉ……? そ、そこで宝石が採れるなんて、私は一言も言っていません。文句ならドルエズ卿の方へと行くはずです、ううぅ……」
まるで被害者のような口ぶりでオニキスは続ける。
「そ、それに、本当にそこで宝石が採れるなら、金貨千枚は安すぎですぅ……。ですから、彼らはその価値があることを私に黙って安く買い叩こうとしていたってことになりますよねぇ……? なら詐欺を働いているのはむしろ、ゴミ貴族たちの方じゃないですかぁ……!」
反論しようとして、言葉が出てこない事に気づいた。
確かに、悔しいほどに、理論に穴が無い。
初めから少女は、そこで宝石が採れるなんて言っていない。
地面にたまたま落ちていた宝石をユグノが見つけて勘違いをして、慈善事業を理由に購入しただけ。
貴族たちはそれに続くように土地を買い出した。
しかも宝石の話は持ち出さずに、無垢な商人の少女を騙して安く買い叩いている。
構造だけで言えば、確かに騙されてるのはこちらだ。
「そ、それに彼らは、宝石が土地に埋まっていることを黙って、生活の苦しい農民たちから土地を買い上げているんですぅ……。なんてひどい話なんでしょう、もとはと言えば、彼らが手にするはずの宝石だったはずなのに……」
……どこまでも計算ずくってわけか。
慈善事業をしているという建前で金儲けをしている、なんて知られたら貴族としての信用が地に落ちる。
だからもし宝石が全く出てこなかったとしても、文句は言えない。
なんせ、この少女はただ土地を売っているだけなんだから。
「それでいくら稼いだんですか」
「い、いえ、これはまだまだ始めたばかりですからぁ……。けっこう、わたし一人では怪しまれて、土地を売るのを渋る人も居まして……。でも、今日は大きな収穫になりました。教会の人を隣においておけば、皆さん喜んで売ってくださるんですね……」
……なるほど。
正史ではそのせいでこの事業は上手くいかず……
救われない人々が多くいたんだな。
「えと、稼いだ額で言えば……現時点ではいくらでしょうか……。まぁ、金貨をざっと数万枚ほど……?」
「…………は?」
「とうに最初に落とした宝石の分は取り戻しましたね……。というか、贅沢をしなければ一生働かずに生きていけるかも……」
す、数万枚……⁉
ちょっと前まで道端でイカサマをしていたのに、今ではもう豪邸を買えるほどの小金持ちか。
……明らかに、この子のやっていることは罪だ。
そもそも自分のものではない土地を、法外な値段で売っている。
神の立場としては、罰を与えるべき存在。
けど結果的に損をしたのは、楽な稼ぎに目がくらんだ貴族たちだ。
彼らは莫大な財で、貧民を騙して宝石の眠ると言われる土地を安く買い叩いた。
が、そこに宝石は無く、投資した分だけ彼らは損をすることになる。
それに対して貧しい人々は助かった。
使い物にならなくなったはずの土地を、何故か高く買い取って貰えたわけだから。
困っていた人々は救われて、悪事を働いた人は損をした。
少女は裁きを下した。
完全なペテン、詐欺によって。
彼女自身だけは裁かれずに。
これもまた、知らない罪の形――――
「――ボス! ど、どうだったっすか? 返済期限の延長は……上手くいったんすか⁉」
「あァ。なんとかなった。が……かなりマズいな。これ以上は待ってもらえそうにねェ。思ったより相場の下がりが早ェのが……」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはヴィストとズーが歩いていた。
気がつけば港近くの高利貸しの前まで歩いて来ていたらしい。
なんという偶然。
俺が二人に見える所で手を振るも、二人は返してくれない。
見えてないんだろうか。
「お、おーい、お久しぶりです、ヴィストさんズーさん。もしかして、あの高利貸しに融資を……?」
一度オニキスをおいて二人に声をかけてみる。
が、どうも海賊二人の反応がおかしい。
何故かヴィストは眉を潜め、ズーに至っては興奮した様子で……
「ボ、ボス……! こ、これって……逆ナンってやつじゃないっすか……⁉」
……は?
なんだコイツ、逆ナン……?




