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34 ボロボロのゲティア教皇領

「やっぱり礼拝の日だけなのね、あんたが出てくんのは」

「は、はい……そう、みたいです」


 執務机につき、当たり前のように会話を始めるグラシア様。

 さっきまで俺、あなたのパンツを顔に被ってたんですけど。


 しかしまぁ、こうして教皇様がここにいるという事は、一週間経ってもまだ暴動は起きていないという事で。

 窓の外を覗いても、世間はいたって平穏そのものだった。


「それで? 先週はあんた、どこに消えてたわけ?」

「えと……まぁ、なんというか、海に出ていたと言いますか」

「……のんきなもんね。こちとらまともに寝れずにゲティア中を走り回ってたってのに。何をやっても結局はぜーんぶゼヘタ様のお陰だってことになるんだから、勘弁してほしいわ」

「それは……お疲れ様です」


 実際海賊の件は、グラシア様の働きによるところが大きい。

 アレが無ければ、今頃俺は死んでいた事だろう。


 いつもなら文句ばかり言う教皇を小ばかにしたかったのだが、どうも見る目が変わり始めている。


「もう……ほんと最悪。大きな問題が解決された直後はやれゼヘタ様の奇跡だなんだって盛り上げるくせに……それに慣れるとすーぐ次の問題に文句を言い出すの。キリがないわ」


 教皇様はイライラしてらっしゃるようだ。

 お綺麗な顔が台無しですよと言ったら普通に蹴られる。


「まぁ、文句を言いたくなる気持ちもわかるけどね。確かに穀物の物価は物凄く下がったけど、それでもまだ平時の二倍程度はあるから。多くの民衆にとっては、まだまだ苦しい状況は変わらないのよ」

「まぁ……他国からの輸入じゃ、平常の値段まで下げるのは無理でしょうね」

「そう。バカみたいな価格つり上げは解消されたけど、結局根本的な問題は解決してないのよ」

「えっと……根本的な問題ってのは……?」


 膝をさすりながら俺が尋ねると、グラシア様は一度窓の方を向き。


「一か月前の噴火被害よ。オルロ山の麓には多くの農民が住んでて……被害に遭った農民は、人口で言うと五万人くらいいるの。中でも、彼らの命でもある畑が溶岩に飲まれたケースが深刻で。それだけでも二万人以上は確認されてるわ」


「畑がダメになるって……それもう、生きていけないじゃないですか。物価とか言う次元の話じゃ……」

「そう。だから本当ならそういう人たちを支援しないといけないのに、その法案もなかなか通らないのよ。……工作のお得意な誰かさんのせいで」


 言いながら頭の上に角を示すジェスチャーをする。

 またディアロか。あの悪魔はこの国を潰す気らしいな。


「まぁ、その財源もカツカツだから……妨害が無くても通るかは怪しいんだけどね。それで現状、農民の多くは生きるために高利貸しに頼らざるを得なくなって、借金漬けになってんのよ」

「……なるほど。しかし、彼らに返す当てはあるんですか?」

「あるわけない。って言うか、貸す方もそれを分かってて……最後には奴隷身分として働かすのが前提なのよ」

「……そんなことして良いんですか? 流石にそこにはメスを入れた方が良いような気がしますけど」


 俺が言うと、グラシア様は手元の書類をめくりながらため息を吐く。


「このゲティアで、金持ちに口を出せるわけ無いじゃない。そもそも利息を取ることは罪だって、聖典にも法律にも書いてるのに……おとがめなしで金貸しなんてやってるんだから」

「え……? じゃ、じゃあ、その高利貸しは、大っぴらに犯罪を行ってるんですか?」

「そんなとこね。一応建前では無利子での融資に、謝礼金として利子のようなものを徴収するって事にはなってるみたいだけど。もう貴族たちとずぶずぶだからどうしようもないの」


 流刑地に出来た国にモラルを求めてはいけないのだろうが、なかなかに酷い話だ。

 利息を取ることを禁じる宗教というのはどこの世界も多い。

 そもそも宗教というのは人口の大半を占める弱者を取り込む方が強いため、金持ちに不利になるようなことを掲げるもので。


「しかし……多くの農民が活きるに困って金を借りに来るとなると、高利貸しは笑いが止まらないでしょうね」

「そ。火山被害に遭った人に限らず、国民の半数以上が借金で首が回らなくなってる、みたいな指摘もあるくらいだし……ドルエズもそれを聞いて喜んでたわ」


 グラシア様は吐き捨てるように言うが、俺は少し引っかかる。

 ドルエズと言えば、俺が頭にお茶をぶっかけた、貧乏人嫌いの小太り貴族だったと思うが。


「……ドルエズさんも、高利貸しを生業(なりわい)にされてる方なんですか?」

「いや? 違うけど。ゲティアにある金貸しは一か所だけ。そいつが貴族たちを抱き込んでるから暴利を貪れるの。そもそもが犯罪だから、ライバルも直ぐにつぶせるのよね」


「ならなんでドルエズが喜んで……?」

「金貸しは儲かるから、貴族はみんな出資をしてるの。いまみたいに借り手が増えると資本が足りなくなるでしょ? そうなれば出資の利率も良くなるから喜んでるってわけ」


 あ、なるほど。そういう事ね。

 考えてみればそうか、十万人都市で高利貸しをする以上、一人で資本金を準備する方が無理な話だ。


「まぁ、問題なんて山積みなんだけどね。こないだの疫病が落ち着いてきたかと思えば、また新しいのが流行り出してるみたいだし……魔族軍の侵攻状況も日に日に悪化してる。ただでさえ国内のことで忙しいのに……! あああああああ……! もー! もー……!」


 グラシア様は机に突っ伏してしまった。


 ……なるほど。ゲティアの未来は暗いな。

 

 収入源である畑を失った農民が何万人もいて。

 その上国民の半数以上が借金漬けになっている?


 これを解決せずに他国に攻め込まれると、そのままゲティアは終わり……か。


 疫病の話も初めて聞いた。

 爺さんが抑えたものとは違うのが流行り始めたのか?

 もう、どこから手をつけていいやらわからない。


 二度も窮地を切り抜けては来たが。

 今まで以上にどうしようもない問題だ。


 流石にこれは、政府の介入なしに解決するのは無理じゃないか……?

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