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33 間違った色仕掛け

第三章

 ……ふざけたマネを。


 目を覚ますなり、目に飛び込んできたのは。

 黒い下着をひらひらと目の前で揺らしながら、こちらを覗き込む少女の姿だった。


 薄目を開けながらどうしたものかとしばし悩み、俺はとうとう諦める。


「……分かりましたって。見えてますよ。声も聞こえてますゼヘタ様」


「おお、本当か! 嬉しいのぅ、朝から見張っていた甲斐があったわ!」

「認めたんで、その下着どっかやってくださいって」


 そうか、と言って少女はつまんでいた下着を放る。

 黒い布は宙を舞い、積み上がった本の上にぱさりと着地した。

 

「やはり、おなごの下着で釣れたか」

「釣られたわけじゃないです」

「ならば無視することも出来たじゃろうに」

「無視してどうするんですか。そのまま起き上がって、パンツをかぶればよかったとでも?」

「な、なんじゃあ……? きゅ、急に変な願望を語り出しおって……」


 体をのけ反らせて怯えた表情をする神様。

 なんで俺が引かれなきゃいけないんだよ。

 他に方法無いだろ、目の前にあったんだから。


「で、なんか用ですか? 俺忙しいんですけど」

「用ですか、ではない! わらわの大事な信者らを奪いおったのはそちじゃろ!」

 

 ばんばんベッドを叩くのをやめなさい、ほこりが立つから。

 しかしやっぱりその話になるか。

 これが面倒で、見えないふりを貫こうとしてたんだけど。


「奪ったってのは人聞きが悪いですね」

「なんじゃあ? 盗人猛々しいのぅ」

「俺は別に、最初からゼヘタを名乗ってたわけじゃないですよ。あなたの大事な信者たちが勝手に勘違いしたんじゃないですか」

「嘘を吐くでない! もしそうならば、訂正するのが筋じゃろうて!」

「それは……そうですが」


 俺だって本当はそうするべきだと思ってる。

 けど、仕方ないじゃん。偽物だってバレたら死ぬんだから。


「大体、俺がどうやって信者を奪ったって言うんですか」

「それは……何かしら怪しい幻術を使って、惑わして……」

「そんな事できませんよ。というか信者たちも神様の事、全然知らないんですね。俺がたまたま予言の日、処刑台に落ちてきただけで勘違いしちゃって」

「そ、そうなのか? あやつら、わらわのことを忘れておるのか?」

「そうなんじゃないですか。じゃなきゃこんな、似ても似つかない男を祭り上げないですよ」


 俺の指摘に神様はわなわなと肩を震わせ、急にしおれだす。


「そ、そんなぁ……わらわの、わらわのかわいい信者たちぃぃぃ……」

「あ、でも。俺の正体がゼヘタ神じゃないって主張する人たちもいますよ」

「ほ、本当か!」

「ええ、教皇派に楯突く派閥の親玉、ディアロとか言うんですけど。知ってます? 後ろに流れるような角の、鬼族の……」

「なんじゃ、そりゃ当たり前じゃ」


 角の形を手のジェスチャーで教えていると、白髪の少女は急に仏頂面になる。

 当たり前?

 見破った事が当たり前ってことか?


「というか、ディアロは鬼ではない。アクマじゃ」

「……は? 悪魔?」

「見ればわかるであろう。鬼族にあんな角の生え方をする奴はおらぬ。それになにより、眼が緑だったじゃろう。鬼族なら例外なく赤のはずじゃ」


 あれ……確かに。イザヤは眼が赤かったよな。

 それに対して……確かにディアロの目は緑だったはず。


「でも悪魔がどうして下界に……。神様に使命を与えられてるとか?」

「いやぁ? わらわの臣下ではないぞ」

「え? この教会にいるってことは、ゼヘタ神を信仰してるんじゃないんですか?」

「わらわのことは好いておらんじゃろうな」

 

 ゼヘタ神を信仰してないのに、次期教皇になんてもてはやされてるのか?

 こりゃ……結構ヤバい匂いを感じる。


「時に、そちの体はどうじゃ? 不便に感じぬか?」


 神様はベッドの上に座り直す。

 長話でもするつもりなのか?

 あんまりここで時間を取りたくないんだけど。


「正直、めちゃめちゃ不便です。体も動かしづらいし弱いし……なによりなんでこんなに稼働時間が短いんですか。一週間に一度しか起きれないですし」

「それはこの日に、定例の礼拝があるからじゃな。毎日礼拝の時間はあるが、週に一度は多くの人が教会に足を運び、信仰を深める。そこで得た信仰を糧にそちは生き、そして自由に動き回れるのじゃな」


「なるほど、それで。……でも神様は自由にこの部屋から出られないみたいですけど?」

「誰のせいじゃバカタレ!」


 神様は寝転がる俺の体の上に飛び乗ってきた。

 そのままぐいぐいと頬を引っ張って来る。


 ……あまり痛くないので、追い払う気にもならない。

 しかしなるほど、俺が信仰を奪ったせいで神様は力を失っている訳か。


「……そうじゃ、時空転移の事を言うのを忘れておったな」


 俺の頬を両手で挟んだまま、急に呟く。


「……時空転移?」

「分からぬふりをするな、ほれ貴様、いつもきざったらしく『遡行』! などと大げさに叫んでいるじゃろう」


 神様は頬を弄るのに飽きたのか、今度は胸に耳を近づけて鼓動を聞く遊びを始めた。


「ちょ、ちょっとまってください。遡行のこと、知ってるんですか? どうして……いや、神様だから分かって当然なのか……」

「うおお! すごい声が響くのー!」

「……何やってるんですか、こっちは真面目なんですよ」

「いや、すまぬ。しかし見ていられなくなってな、貴重な残数をどうでも良いことに使いすぎるゆえ……」


 貴重な残数……?


 なんだそれ。


 あれ。

 貴重な残数……って……

 貴重な、残数…………


「あ、あ、あああああああ……!」

「な、なんじゃ急に叫びおって! うるさいぞ!」

「わ、忘れてました! 自分で設定したのに、何で今日までずっと……!」


 そうだ、遡行能力には回数制限があるんだった……!


「見ていれば、ずいぶんひどい使い方をすると思っていたのじゃが……そうか、制限を忘れておったのか」

「み、見てたならもっと早く教えてくださいよ! ああもう、残り何回だ⁉ 数えてないけど、あれだけ使ったらもう……」

「……先に無視してきたのはそちじゃろうて。まったく」


 むっと不機嫌そうにしながら神様は、耳を胸に押し当てたり、放したりを繰り返して遊んでいる。

 えーと、一日目は確か薬屋で、一回、二回、三回か。

 それで二週目は、えーっと……


「ところでじゃな、一つ取引をせぬか?」


 神様はそのまま、こちらを見上げて来る。

 先ほどからこれを切り出すタイミングをうかがっていたようだ。

 正直遡行の残り回数のことで頭が一杯なのだけど……


「そちはいま、時間の制約に悩まされているじゃろう。週に一度、朝の礼拝から夜の礼拝の時間まで、それしか動けていない。それでは短すぎる、そうではないか?」


 ……なんだって?

 どうやら同じくらい重要そうな話をしている。

 流石に聞かざるを得ない。


「そこでじゃな。晩の礼拝、その時間をわらわに譲ってはくれまいか」

「……時間を、譲る?」


 頷くと、神様は体の上で立ち上がる。


「その時間、わらわが代わりに礼拝を受けるという事じゃ。その間、そちは自由に動けるじゃろう」

「その分、晩の礼拝で受ける信仰はそちらに行くってことですか」

「そうじゃな。しかしそちは多くの修道士に姿を覚えられている。週に一度、晩の礼拝を逃したからと言って力を大きく失うわけではない」


 うーむ。なんだか怪しい話だ。


「どうでしょうね。信仰のバランスが崩れれば、俺が今度はこの部屋から出られなくなったりするんじゃないですか」

「ま、大幅に信仰を失えばの。そうならぬよう、得られた時間でこのゲティアを立て直すが良い。そうすれば信仰もおのずと増えよう」


 なるほど?

 それは確かにすじは通っているが。


「で、どうなんじゃ? 提案を受ける気にはなったかの?」

「どう……でしょう。まだ信用が出来ない、というか」

「なんじゃあ、腑抜けめが! 時間というものは有限なのじゃぞ!」

「それは分かってるんですが……。ちょっと? 何してるんですか?」

 

 神様はベッド下に手を突っ込み、がさがさとやっている。


「ほら、あの女の下着じゃ。ほーれ、そちの好きな下着じゃぞぉ」

「ば、馬鹿にしてるんですか? ふざけるのもいい加減に……こ、こら!」

 

 終には膝立ちになって、そこらにあった下着を顔に押し付けて来た。

 俺を何だと思ってるんだ、この神様は。


「やめ、やめろ! 俺は、下着なんかで興奮するような変態じゃ……!」

 

 ガチャ、と音がして扉が開いた。


「あ、グラシア様! こいつをどうにか……!」


 あ、あれ……?

 視線を戻すと、そこに居たはずの神様は姿を消していた。


「あんた、何やってんの……?」


 下着を顔に張り付けた男が一人叫びながら、ベッドの上に座り込んでいる――

 グラシア様は、そんな光景を見ることになってしまったらしい。


 いや、これは、その。

 違うんです。

 目には見えない幼女が、グラシア様の下着を俺の顔に押し付けてきて……

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