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30 侮蔑の怒り

 まずい、まずいまずいまずい……! 最後の最後でこんな……!

 

 監査官の上げた声によって、俺たちはあっという間に衛兵に取り囲まれてしまった。


「お、おい! 俺らは何もしてねーだろ! だから、さっきのやつを探してこいって……」

「黙れ獣人風情が、適当な嘘ばかり吐くな!」


 獣人……風情?

 周りを囲む兵士の中で、ひときわ身分が高いのだろう。

 隊長のような男が、大声を上げて詰め寄って来る。

 辺りが騒然とし始め、野次馬で周りに人だかりができて来た。


「ウソじゃねーよ! 通商許可証がなきゃ、そもそもこの港に入ってこれねーんだから!」

「黙れと言っている! 貴様ら、何を企んでいた? 言い訳などせずに、正直に答えろ‼」

「は、はあ……⁉ オレたちは普通に、穀物をゲティアで売るために買い込んで……」

「まだ嘘を吐くか! 薄汚い獣人が‼」


 弁明をするズーだが、一斉に突き出された槍に身を凍らせる。

 今日に限っては本当のことなのに、誰も信じてくれない……!


 これで積み荷がゲティアに届かないようなことがあれば、罪のない子どもが何百人、何千人飢えて死ぬか……‼


「おいロナ、お前はさっきのをどう考える?」


 慌てるズーとは対照的に、ヴィストは低く俺に尋ねて来る。

 随分と肝が据わっている。しかし……そうだな、パニックになっても仕方ない。

 こうなってしまった理由……これを考えなければ、過去に戻っても意味がない。


「た、たぶんあれは……詐欺師が、役人に成りすまして許可証をだまし取ろうとしてたんだと思います。あれさえあれば通商はやり放題ですし、かなりの価値があるので」

「なるほどなァ、まずは相手の身分を確認すべきだったわけかァ……」

「な、なら……オレらは被害者じゃねーか! なんで……なんで、話を聞いてもらえねーんだよ……!」


 さっきのやつに許可証を渡したのは恐らく、三十分弱前。

 遡行をすると、もう一度時間を過ごす必要があるわけで、寿命がその分削れる。

 体感としては、ゲティアに戻る時間も考慮するとギリギリ。


 クソ……ただでさえ時間が無いってのに……

 けど、流石にこればかりは仕方ない!


『遡行』 二十五分前――――!


 辺りは人混みだが、獣人たちの姿が見えない。

 俺が突如出現したことに周りの数人は驚いているようだったが、無視して彼らの元へと走ると。


「――失礼だが、お前がこの船の持ち主か?」


 ……居た。

 片腕に腕章をした、樹命族の女性。

 間違いなく先ほどの文書泥棒が、ヴィストに声をかけていた。


「あァ、そうだがなんだ?」

「そうか。見かけない船だと思ってな。禁制品の持ち込みなどは無いな?」

「あぁ? そんなもん無ぇよ。それに仕事の邪魔だ、さっさとどけ」


 流れは完全に同じ。

 態度の悪い獣人に苛立ち疑いを強める……詐欺師はそう言うふりをしている。


「失礼だが、通商許可証はあるのか? 無ければお前らは全員お縄につくことになるぞ」

「はッ! バカにすんじゃねーよ! ほら新入り、おめーの……おう、ずいぶん準備が良いな」


 同じやり取りを聞き終える前に、俺は息も絶え絶えに懐から許可証を取り出す。

 しっかりと両手で掴んだまま、彼女の前に広げて。


「……なんだその見せ方は。さっさと渡せ」


 怪訝な表情をする詐欺師。

 けど、ここは譲れない。


「そ、その……これは大切なものですから。過去に一度、偽物の役員に盗まれたことがあるもので」

「何を隠している? 偽造書類がバレるのを恐れているのか?」

「い、いえ、違います。そうじゃなくて、このまま持って行かれないようにしたかっただけで……」

「動くな、怪しい対応をするものがいる! 衛兵、賊を囲め!」


 ……は?

 役人が叫ぶと、あっという間に衛兵に取り囲まれてしまった。


「お、おい! オレらは何もしてねーだろ! ほら、通商許可証だってあんだし……!」

「黙れ獣人風情が! 貴様ら、何を企んでいた? 言い訳などせずに、正直にこたえろ!」


 先ほども先頭に出てきた、隊長のような男が声を上げる。

 辺りが騒然とし始め、野次馬が集まって来た。


 ……そうか、この人は偽物なんかじゃなかったんだ。


 となると……ヴィスト達が海賊だってことを見た目で察して、元から決め打ちで許可証を取り上げたんだな?

 向こうはこちらが何をしようと始めから捕まえるつもりだった。

 なら、俺が何度遡行したところで無駄ってことじゃ……


「企んでなんてねーよ! オレらは普通に、穀物をゲティアで売るために買い込んで……」

「まだ嘘を吐くか! 薄汚い獣人が‼」


 ……駄目だ。またさっきと同じ。

 弁明をするズーだが、一斉に突き出された槍に身を凍らせる。


「……てめェら、俺達が獣人ってだけで疑うのかァ?」

「おい動くな! 串刺しにされたくなければ……ッ⁉」


 首元に迫った槍を、ヴィストは易々と掴むと。


「舐めたマネすんじゃねェよ。俺達がここで何か悪いことでもしたか?」


 鈍い音ともに、バキバキと槍の歯元が折れる。


 ヴィストの鋭い眼光に一瞬兵士たちが怯むも、衛兵が声を上げた。


「この糞ヴリムがッ……! こ、こいつらを取り押さえろ――ッ!」

「……ッ! テメェ、ボスの前でその言葉は……!」


 言いながらズーは弾き出される様に飛び出す。


 突き出された槍は一瞬にして折られ、振り下ろされた剣はひとつ残らず蹴り飛ばされる。


 兜の上から頭突きをかまし、一瞬でノックアウトされた兵士を振り回して、周囲をなぎ倒す。


 たった二人に衛兵が次々とやられていく光景。

 強い。圧倒的に強い。


 金を貰うために戦う人と、生きるために戦ってきた人の、歴然とした差だ。


「弱ェなぁ、樹命族のヒョロガリ共ォ……‼」


 瞬く間に辺りを蹴散らすと、ヴィストは横たわる隊長の頭を掴み上げた。


「あぁ正解だよ。俺らは海賊だ、醜い犯罪者だ。だがな、今日に限っちゃ俺らは何も間違ったことはしちゃいねぇ。……お前、俺らのことを糞ヴリムって言ったよなぁ」


 ヴィストが鼻息荒く男に顔を近づける。

 恐れおののく衛兵に対して、ヴィストは容赦なく額を近づけると。


「俺ァ、種族でしかヒトを見ねェ奴が大ェっ嫌ェなんだ。悪ィがお前らは……」


 そうして高々と鋭い爪を振り上げ。


「『硬 化(ロック)』――っ!」

「……あァ?」


 ヴィストの腕が、ピクリとも動かなくなった。

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