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29 ヘロシュとの交易

 樹と命の国、ヘロシュ。

 豊かな緑が海面に移り込み、その海まで綺麗なグリーンに染まっている。


 ゲティアの南に位置し、内海を挟んでちょうど反対側に位置する国だ。

 人口はエンデ王国に遠く及ばないながら、その面積は広大である。

 

「すっげー綺麗……ゲティアとは大違いじゃねーか……!」

「アホ面をするのはやめろズー。俺らはなァ、ゲティア教皇の命令の元で正式な取引をしに来てる設定なんだからな」

「そ、そうっすけど……やっぱすげーっすよコレ……」


 港の傍には多くの木造建築が見られる。

 潮風による劣化なんて感じさせないほど、端正な街並みだ。

 至る所に緑が茂り、壁に絡むツタの描く模様はそれだけで味がある。

 

「それにしても本当にこんなすぐに到着するとは……。他の商人は五日で往復するって聞いたんですが」

「たりめーだろ! オレらの船をそこらの泥船どもと一緒にすんなって!」


 褒められて上機嫌に笑うズー。

 なんて単純なやつ。


 しかし……ここまでは何も起きなかった。

 という事は、この先で何かトラブルがあるってことになるよな。


「あれ、そういえば。アニマくんは来ないんですか」

「あァ、アニマは地面の上が嫌ェだからな。あいつなら問題も起こさねェだろうし、桟橋近くでまた船の絵でも描いてるだろうよ」

「地面が嫌いって……?」

「なんでか知らねーけど、アニマはずっと前から固い地面に足をつけるのをすっごく怖がってんだよ。無理やり船から引きずり降ろそうとしても、がたがた足が震えちまって立てねえの。なっさけねえだろ?」


 がたがた足が震えるって……どう考えても普通じゃないな。

 船から降りられないってことは、何かしらのトラウマがあるんだろうか。


「……あんま言うなズー。おめェにだって怖いものの一つや二つくらいあるだろうが」

「そ、そーすけど……でも、なあ……?」


 港町は広い。

 ヘロシュに住む樹命族の他に、人間や岩晶族や、他種族の商人もちらほら見える。


「買うのは干し肉と、それから穀物類ですね。ヘロシュは特に麦の生産がさかんですから、かなり安く買えるはずです」

「ホントだ、すげー! こんだけあって銀二十四枚って書いてあるじゃねーか!」

「ゲティア銀貨のレートを考えると、十六枚くらいになるなァ。こりゃ……野郎どもを連れて来た方が良さそうだ」

 

 荷物の詰め込みを進めながら、店と船を往復する。

 ようやく八割がた埋まって来たかという所で。


 船着き場に来ると、そこで獣人たちが止められていた。

 どうやら船に入れずにいるらしい。


 そこに居たのは片腕に腕章をした、樹命族の女性だった。

 毅然とした態度でこちらに歩いて来る。


 いやな予感がする。

 海賊の身に起きる『何か』の事を思い出さずにはいられない。


「失礼だが、お前がこの船の持ち主か?」

「いえ、持ち主は彼ですが」

「……お前か。そうか、分かった。どうも見かけない船だと思ってな。禁制品の持ち込みなどは無いな?」

「ああ? そんなもんねーよ。それに仕事の邪魔だ、さっさとどけよ」


 生意気なズーの態度に苛立ったのか、樹命族はますます疑いを強める。


「失礼だが、通商許可証はあるのか? 無ければお前らは全員お縄につくことになるぞ」

「はッ! バカにすんじゃねーよ! ほら新入り、おめーの出番だ」

「え? あ、あぁ、はい、どうぞこれです」


 新入り呼ばわりされるのはどうも気に食わないが、懐から取り出して許可証を手渡す。

 大丈夫。これは正真正銘の本物なんだ。

 落ち着いて、押し通せば……


「えーと。なんだこれは。『……溜まっておられるでしょう。そうでしたらご遠慮なく、女を抱いてくださいませ……』」

「すみません、こっちでした」

「おい、なんだいまのは」

「いえ、気にしないでください」 

「全く……おや、これは」


 今度こそいけたようだ。

 樹命族は目を見開くと、ぺこぺこと頭を下げて


「し、失礼いたしました! 教皇グラシア様のものとは知らず……!」

「ホントだなあ⁉ 二度と舐めた口きくんじゃねーぞ!」

「大変申し訳ありません……!」


 ……生意気なガキにぎゃーぎゃー言われても頭を下げるしかない役人、大変なんだろうな。

 しかし、海賊たちの身に起きるトラブルは、これじゃ無かったみたいだ。


 あっさりとその場は解決し、作業が再開される。


 麦を積み込むと、仲間を引き連れてまた肉屋の方へ。

 持って来た金は全てつぎ込み、干し肉を買い集めた。

 羊一頭分はゲティアで金貨十二枚だった。

 それがここでは銀貨八枚。元の相場よりも断然安い。

 流石はヘロシュ。

 

 よし。

 後はこれを持って帰って、売りさばくだけ……


「通商許可証の提示をお願いします」


 と、船を出す直前になって、役人らしき樹命族の男に話しかけられた。


「なんだァ? さっき見せてやったばっかりじゃねェか」


 ヴィストが鼻息荒く言うと、役人は首を傾げる。


「いえ、リストには乗っていませんね。ですから、提示はまだのはずです」

「おい、ボスを煩わせるなって! 仕事の引継ぎはしっかりしろよまったく! ほら新入り、許可証を……」


 許可証を、出せと。

 言われるだろうなと思って、懐を探ったんだ。

 でも、無いんだ。

 思い返せば……


「さっきの人に、許可証、返してもらってない……」

「あァ? そうなのか。なら仕方ねェな、本部に戻ってさっきの女に確認して来い」


 呆れた様子で言うヴィストに、役人は表情を崩さずに。


「いえ、そんなことはあり得ません。今日の担当はわたし一人ですので」

「はぁ……? なら、さっきの奴ァ……」


 そんな、馬鹿な話が……?

 困惑するヴィストに役人は目を見開くと、声高に叫ぶ。


「通商許可証を持たない獣人だ! 衛兵、賊を囲め!」

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