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28 才能の卵

「なーんだオマエ、船に乗るのは初めてなのか? やけにびびってやがんなおい!」

「ちょ、ちょっと、辞めてください。ただでさえ海の上なのに……」


 船は海を滑るようにして進んでいく。

 初めての航海にびくびくしていると、ズーがニヤニヤとしながら肩を掴んで揺らしてきた。

 揺れる地面なんてのは天界には無かった。体と頭が拒絶反応を起こしている。


「おいサボるなズー。持ち場について漕げや!」

「うっせーな。コイツがさっきからふらふらしてるだけでなんもしてねーから、叱ってやってんだろーが!」


「良いから持ち場に戻れガキ! 俺らの負担が増えんだろ!」

「またヘマやらかしたんだろ! その分働けタコ!」

「イカサマにかかったって聞いたぞアホカス!」


 船の方々から声が上がる。

 叱られたズーは、口をとがらせて船の端に戻っていった。

 ざまぁみろ。

 

 この船はガレー船というらしい。

 筋骨隆々の獣人たちの大部分が、船を漕ぐのに従事しているようだ。

 掛け声とともにオールが一斉に動かされ、その分力強く進む。


 ヴィストは船の後方に立って舵を握っているようだ。

 流石は船長。労働作業は部下にやらせるものらしい。


 彼らの話が正しければ、四時間後にこの船はヘロシュへ到達する。

 その間にも俺の寿命は刻一刻と削られるわけで……寿命は八時間も持つかどうか怪しい。

 なら船の一室を借りて一度現代に戻って、四時間後に遡行すれば、活動時間を節約できるか?


 とも思ったんだけど。

 遡行は位置座標がそのまま保存されるから、ヘロシュには行けない。

 天界で能力のバグ取りばっかしてたから、すぐに抜け道を探そうとしてしまう。


「追い風になったなァ。お前ら、休んでいいぞォ!」


 船長が声を張り上げると、海賊たちは帆を張りにいっせいにその場を立つ。

 手の空いた獣人たちは思い思いに甲板を歩いたり、寝転がったり、座り込んで話をしたり自由にしだした。


 その中でもひときわ小さく、ぐったりと倒れこんでいる少年がいた。


「おいアニマ! オマエ、今回はへばらずに頑張れたんだろーな?」

「にっ……⁉ あ、ズーさん……。はい、なんとか、ギリギリ、最後までやれました……!」


 飛び上がる少年の名は、アニマというらしい。

 体は小さく、声も高い。変声期前なんだろう。


「おーおー良かったじゃねーか! まーだまだ始まったばかりだからな! 変なことしてねーで、今のうちに休んどくんだぞ!」

「す、すみません! ありがとう、ございます……」


 先輩風を吹かすズーはアニマから離れるとまた、他の所に首を突っ込みに行った。

 どうやらあいつはムードメーカーらしいな。

 ズーがふらふらと近づいていくと、その集団は大いに盛り上がる。

 その中でも露骨に嫌な顔をする集団もある。

 でもそれはそれで愛情表現というか、コミュニケーションになっている。

 一つの船という空間を長い間共にする以上、こういう存在は欠かせないだろうな。


 と、ズーの左手についた指輪を眺めていて気付く。

 ズーの左手、指が一本多いような……?

 右手は五本指なのに、左手だけは六本。これもヴリムの特徴とかなんだろうか。


 と、気になってアニマへと目を戻す。

 違うな。普通に他の人はみんな五本指だ。

 それに……この子も含めて全員、尻尾が無い。種族的にはヴリムの方っぽいが。

 

 皆が和気あいあいと話している中、アニマはまだ座り込んでいる。

 始めこそ、疲れて動けないのかと思っていたのだが。

 何かをしているように見える。

 

「……何をしてるんですか?」

「にゃいっ……! す、すみません、何か問題が……⁉」

「いや……そうじゃなくて。ちょっと気になっただけです、何をしてるのかなーって」

「ほ、本当ですか……? その……オールの持ち手部分を変えた結果をメモしてるんです」


 メモ?

 分からないけど、そういう仕事を任されてる子なのかな。


「持ち手部分……確かに、ここだけ形が違いますね」

「そ、そうなんです! なんとかして疲れないように出来ないかなって、考えてて。その、僕、いつもすぐにへばって迷惑をかけてるんです。だから……!」

 

 見れば、オールの持ち手部分に布が巻かれている。

 船のヘリとオールがこすれる部分も、他の席とは違うようだ。

 それどころか、オールの材質も形も違うように見える。

 もしかしてと思って持ってみると、明らかに軽い。


 アニマは床に這って、メモを書くのに一生懸命になっている。

 かなりびっしりと埋め尽くされているようだ。

 紙も安くはないからだろう。


「それは……船の設計図?」

「へ? い、いえ……そんな、設計図なんて大層なものじゃないです! ちょっとした趣味で……」

「見た感じ、ガレー船とは違う? オールを漕ぐ人の場所が確保されてないし」

「そう、そうなんです! ガレー船は漕ぎ手が重量の大半を占めるので、あまり荷物を積めないんです。だから、どうにかして風の力だけで進める船が出来ないかな……と!」

 

 メモには帆の形に関する情報や、複数枚の帆を使うアイデアなんかが記されている。

 なるほど、おもしろい。


「あとは、人力だとどうしても食料を多く積まなくてはいけない関係上、長期の航海が出来ないんです! 割とゲティアに近いヘロシュには簡単に行けても、ユゴルアやウルグガルグへはなかなか厳しいですし、やっぱり外海に出るとなると……!」


 アニマはすごい勢いでまくし立て始めた。

 この子は船オタクなんだろうか。

 謎の船談義を話し半分で聞き流しながしていると、向こうの方からヤツが千鳥足で近づいてきた。

 

「おいアニマぁあああ~! なーにソイツと仲良く話してんだよ! 今日の仕事が伸びたのはソイツのせいなんだぞ?」

「ズ、ズーさん。あまり本人の前では言わない方がいいですよ……!」

「なーに言ってんだぁ、本人の居ない所で言う方がよっぽどダサいんだぞ? ボスの教えだ、覚えとけよ?」


 しらふのはずなのに、酔ってるみたいな絡み方をする。

 ズーはアニマの持つメモに目を留めると。


「まーたやってんのかオマエは。そんなんやってサボろうとするより、体を鍛えろっていつも言ってるだろ? なあ?」

「す、すみません……! サボろうとしてるつもりは無いんですけど……!」


 委縮するアニマに、ズーは頭をぐりぐりと押さえつける。


「こいつはな、体が小さいから足を引っ張ることが多いのよ。まー最近入ったばっかだから仕方ないんだけどな。オレも最初はそうだったしよ」

「はぁ」

「けど、抜け道を探して楽しようっていう弱え根性持ちなのが気に食わねぇ。海賊に生まれたなら、目の前にあるモンを正面から受け止めるべきだろ?」

「……そうですか」


 それを年端も行かない子供に言っても、とは思うが。


「ほらコイツ、海図なんかいっちょ前に描いてやがってんだ。そんなもんは体で覚える方がいいに決まってんのによお」


 見れば確かに、メモには海図のようなものや、天候、風向などの統計、そして……数式のような物まで書かれている。


「これは、その……僕の物覚えが悪くて! 皆さん、自分がどこに居るのか肌で分かるみたいなんですけど……ぼ、僕は計算しないと、どうもわからなくて……」

「そんなもんに頼ってるから分かんねーんだろ? さっさと体に覚え込ませろよ」

「す、すみません……!」

 

 なんかアニマくんは謝ってるけど。

 傍から見たら、勘に頼らずに普通に計算して位置を割り出す方が凄いような。

 うーむ。

 

「まぁ、その意見も分からないでもないですけど」

「あぁ? オマエ、文句あんのかよ?」

「いえ、その……将来的に見たらどうかなと。未知の外海に出たときとか、経験が生きない場所だってあるはずです。楽な抜け道を探すことで、文明ってのは発達して来たわけですし」

「なーにを訳の分からないこと言ってんだテメーは! 急に難しい話すんじゃねーよ!」


 機嫌を損ねてしまった。

 ズーだって悪い奴じゃないんだ。

 おちょくるような言い方は良くなかったな。


「もちろん、がむしゃらな姿勢も尊敬しますよ。それもまた、文明を進める原動力ですから」

「だ、だろぉ? オマエ分かってんじゃねーか! おい、地下蔵に酒があるんだ。そこでこっそり一杯やるぞ!」


 こっそり、なんて言うならそんな大声出すなバカ。

 てかやっぱり飲んでたのかよコイツ。

 

 ただもうちょっとアニマと話をしたかったんだけどな。

 あのメモ帳にかかれた数々の座標計算や、六分儀のような形の設計図……

 内容を見るに、あの子がただ物じゃない事だけははっきりわかる。


 海賊の下っ端なのに、高度な数学的知識を持つ……

 どうもおかしな話だ。

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