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25 詐欺の看破

「そんで……さっきのアレは、話を聞いただけで分かったのか?」


 ……重い。あまり寄りかからないでくれ。

 獣人はがっしりと肩を組みながら、俺に尋ねて来る。


「いえ、流石にただ話を聞いてるだけじゃ確証にはならないですよ。いくつかの違和感が組み合わさって、あの結論に至った……みたいなかんじです」

「違和感? んだそりゃあ……?」


 俺たちは店を離れて市場を歩いていた。

 商人にはぺこぺことお礼を何度もされ、送り出してもらった。

 獣人の方は、これからゲティアに上陸してから別行動していた海賊の仲間を迎えに行くらしい。


「まず一つ、偽物の皿を試すとき、どれも商人の手から渡されたものばかりテストしていたのが気になったんです。試すのを手伝うようで、どこか誘導しているような雰囲気を感じたもので」

「……言われて見りゃそうだな。俺が磁石で試したのは、全部あの野郎に渡されたものだけだったしなァ」

「二つ、ようやくご自分で金のゴブレットを手に取ったかと思ったら、それまで黙って見守っていた商人が急に遮り始めたんです。それで試す間もなく、意識は話の方へと流れてしまいました」

「そうなのか? それはあまり覚えてねぇが……確かにあのゴブレットを試した覚えはねェな」


 獣人は歯ぎしりをして、頬を爪でガリガリとひっかく。

 

「三つ、あなたが騙されたと気付き、手に持った金のゴブレットと皿を放った時です。商人はそのとき、皿には見向きもせずにゴブレットだけを慌ててキャッチして、それ以降大事に抱えていました。この二つでは、明らかに皿の方が壊れやすいはずです。なのに、どうしてゴブレットを必死に守ったのか」

「………………」

「そして四つ、取引直前に食器の山を殴ってやろうとしていたあなたを、商人は慌てて止めていましたよね。その時に、わざわざ提示金額を銀貨七枚から十枚まで大幅に上げたことが確信に繋がりました」

「クッソ……! 確かに、全ッ部その通りだ。俺ァ、何にも気付かずに……‼」

「ユゴルアの豪商の話を聞いたとき、大体の事は想像できていたんです。そこに裏付けになる証拠がこれだけ揃えば、偶然では済まされないでしょう」


 まぁ本当は、未来を視て答えを知って、そこから推理を後付けしただけのだが……

 言わなくていいことを胸にしまう俺に対して、獣人は感心したように頷き。


「俺ァ、仲間内じゃ頭の悪い方じゃねェと思ってけどよォ。上には上がいるもんだな。そんで……てめェの名前は?」

「俺ですか。俺の名前は……」


 急に聞かれて言葉に詰まる。

 名前か。俺はゼヘタ神だーなんて名乗るわけにもいかないしな。

 なら、ゼタ様に与えられた、天界での名前を……


「俺の名前は『ロナ』です。ちょっと短いですけど、ただロナと呼んでくれれば」

「ロナか。良い名前だなァおい! 俺はヴィストってんだ。よろしく」

「よ、よろしく、おねがいします」


 手がでっかい。それに獣人族特有の肉球とモフモフの毛を感じる。

 少し弾力のある肉球がまた心地いい。


「……何をしてるんだ? 俺の故郷じゃそんなに握手は長くしねぇんだが……」

 

 ……失礼。

 

「ズーの野郎はここらへんで、ガキ共に買っていく干し肉を調達してるはずなんだが……居ねぇな」


 仲間の海賊の名前だろうか。ヴィストはきょろきょろと目を走らせる。

 市場には沢山の人がいて、獣人族の数も少なくない。

 俺には全く見分けがつかないので、探すのはヴィストにまかせて。

 と。


「クッソぉおおおおおおおおおおおおおおお……!!!!!!!!!」


 突如、市場の中でひときわ大きな声が上がった。


「なーんでだよ、なんッでハズレんだよ! もー、これも外れたら肉代も消えちまうじゃねーかぁ……!」


 道端で叫ぶ声の方を見ると、そこには人が群がっていた。

 

「んだァ? ずいぶん盛り上がってるみてェだが……」

「これがもー最後だ! これで勝って、今までの負けを取り戻してやっからな!」

 

 怪訝な表情になるヴィストだが、先ほどの声にまた群衆が湧いた。

 その中心には獣人が、小さな箱の上のカードを必死に見つめている。

 集中しているのか、ぽけーっと開いたままの口元からは犬歯が覗く。


 ニーアさんとは同じ獣人のはずだが、雰囲気が全然違って見える。

 より獣っぽいというか……そう言えばヴィストもそうだが、尻尾が見当たらない。


「頼む頼む頼む! このままじゃボスに合わせる顔が無なくなっちまう……!」


 獣人の目の前で三枚のカードが動かされる。

 それを獣人は必死に目で追い、そして……


「今度こそ間違いねー! これだろ!」


 指さしたカードを、賭け士がゆっくりと捲ると、


「クッソおぉぉぉぉ!」


 みじめに地面に倒れこむ獣人は、涙目のまま這って周りの人の裾を掴みだし。


「お、おい誰かぁぁぁ……金を、金を貸してくれぇぇぇ! これじゃーボスに怒られちまう! おいアンタ、金を……」

「金を、何だ?」


 最後に掴んだ服の裾は、不運にもヴィストのものだった。

 信じられないようなものを見たように、ズーの方は耳をピンと立てて目を見開き。


「ボ、ボス……⁉」

「肉代がどうとか、これがもう最後だとか聞こえて来たがァ……」

「ち、違うんすよボス……これはなんというか、ちょっとした遊びというか……うぐッ」

 

 次の瞬間には膝をついて、苦しそうに息を吐いていた。

 あーあー始まった。やめろって言ったばかりなのに。

 こういうの、身内だったとしてもあまり見たくないんだよな。

 ……流石にかわいそうだし、少し手を貸してやるか。

 

 『遡行』 二分前――!


 ズーが真剣にカードを睨み、そして勢いよく指さす。


「――――今度こそ間違いねー! これだろ……ッ⁉ お、おおい誰だよぉぉ! 大事な時にぶつかりやがって……!」


 カードを選ぶ直前で、群がる人々に紛れてぶつかってやる。

 指が正解のカードを選ぶように。

 これでとりあえず、暴力沙汰は避けられ……


「クッソおぉぉぉぉぉ! おい、最初に選んだ奴であってたじゃねーか! 金返せ、金返せよおおおおお!」


 ……ふざけんな。てめーが時間を返せ。


 カードの方はどうやらなにを選んでも間違うようになってるみたいだが……

 しかしこの衆人環視の元でイカサマをするとはすごい技術だ。

 感心してカードを操るイカサマ師に目をやる。


 目の下に黒い宝石が光る、日に焼けた肌を持つ少女が座り込み……見物客に向けてぱーっと笑顔を向けている。

 たしか、この宝石があるのは、岩晶族、みたいな名前の種族だったか。


 ぼろぼろの服に身を包んでいる所を見るに、それで日銭を稼いでいるのだろう。

 このゲティアでは、こんな少女すらも手を汚さなければ生きてけないのだろうか。


「お、おい誰かぁぁぁ……金を、金を貸してくれぇぇぇ! これじゃーボスに怒られちまう! おいアンタ、金を……」

「金を、何だ?」

「ボ、ボス……⁉」


 あーあ。もう無理だからな。

 貴重な俺の時間を奪った罪だ。さっさと殴られてくれ。

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