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2 堕ちて早々勘違い

「――――! ―――――‼ ―――――――――‼‼」


 気付けば、徐々に意識が戻って来ている。

 音もぼんやりと聞こえるようになってきた。


 あぁ……。長かった。

 六百年もかかったのか、この日が来るまで。


 処刑後に弾き出される下界の座標、タイミング、これらは全て事前に計算済みだ。

 神は本来、処刑されると天界からはじき出され、一瞬で信仰が尽きて死ぬ。

 なら、信仰を得る方法さえあれば。


「―――――様だ! ――――様が降臨なさった……!」


 聞こえてくる歓声に押されるように、俺は重たい瞼を持ち上げ。

 そして、勝利を確信する。

 よし、よしよしよしよし……!

 うまくいった、うまくいった……! ぜんぶ、計画通りに……!

 辺り一面に民衆が満ちている光景を見て、俺は喜びをかみしめる。


 ここは下界。

 そしてローナ教という宗教……つまり、下級神である俺のことを信仰する、数少ない国だ。


 この日、年に一度の祭事が行われ、莫大な信仰が集中する。

 その全てを計算したうえで、俺はここに堕ちてきた。

 よかった。本当によかった。ぜんぶ、うまくいって……!


 祭壇の下からは、地を埋め尽くすほどの信徒たちの熱狂が伝わってくる。

 それに酔いしれるようにしていると。


 祭壇の上に一人、黒装束の女性が歩いて来る。

 綺麗な人だ。

 民衆の視線を一点に集めながら、そしてその女性は俺に向かって深々と礼をする。


「……お待ちしておりました。偉大なるゼヘタ(・・・)様」


 特徴ある泣きぼくろを持った、どこか神秘的な雰囲気の美しい女性。

 頭を覆う黒い修道服から、淡い栗色の長髪が覗いている。


 胸元に下げられた金のロザリオに、美しい刺繍の入った修道服。

 たぶん、このひとがローナ教で一番偉い人なんだろう。

 神である俺に、まっさきに挨拶をするくらいだから。


 見渡す限りの民衆が俺とその女性を、固唾をのんで見守っている。

 目を瞑って祈りを捧げているものもいれば、中には感情を高ぶらせるあまり泣きくずれるものも――


 ……ん?

 というか。

 今この人、俺のことちゃんとローナ様って呼んだ?


「我々は主の御心と共にございます。教皇の身として主に身も心も捧げ、全ての忠誠と敬愛をゼヘタ(・・・)様のものと――――」


 あ、あれ? ゼヘタ様? ローナ様、じゃなくて?

 教皇様は知らん名前の神の名においてそう宣言し。

 困惑する俺をおいてさらに続ける。


「主よ、ゲティアの地は今、滅亡の危機に見舞われております。それも、主の与えられた試練と理解して望んできました。しかしこうしてゼヘタ様が降臨なさったということは、その試練が終わりを告げたのですね」


 え? あぁ、うん……?

 俺は何となく、つられて頷き返してしまったけど。


 ……ゲティア? ……滅亡の危機?

 俺の降り立つ予定だった地の名前と全然違うし……試練が終わったって……


「主は約束なさいました! 今ここに、全ての試練は終わりを告げたと!」


 い、いや別に、約束したわけじゃ……


 教皇の言葉に民衆がどっと沸き立つ。

 人々の歓声を受け、教皇は両手を広げて続ける。


「ゲティアを犯した疫病も! 肥沃な大地を汚した大噴火も! 国土を占領した魔族も! その全てが主の奇跡によって解放されると! ゲティアの地に、再びの安寧と平穏が戻るのです!」


 その言葉の意味を飲み込む前に、教皇の言葉によって再び湧き上がる。

 叫ぶもの、泣きだす者、熱気にあてられて倒れこむ者……


 ……なんか教皇様、どさくさに紛れてすごいこと言ってなかったか?

 知らんけど、お前らの国の問題はお前らでやってくれ?

 というかここはどこなんだ? なんで俺はこんなところに……


「――――! ―――――‼ ―――――――――‼‼」


 その地のあまねく人々は、神の降臨に熱狂した。

 声もまともに聞き取れないほどに、神に祝福を送り、狂喜する。

 そんな空気が、ゲティアを包んだ。


 ただ一人、祭壇の上で冷や汗をかく俺を除いて――――

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