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19 本物の神様

大規模な疫病を収めて、第二章。

謎は多いですが……まだまだ内政でやることが残ってます。

 ……良く寝たな。

 数百年ぶりにこんな爽やかな目覚めをした気がする。

 天界に居たころは、まともに眠れないくらい仕事漬けだったから……


 てか、どこだここ。

 ぽりぽりと頭を掻きながら、俺は辺りを見渡す。


 薄暗い部屋に、床一面に広がる本と脱ぎ捨てられた衣服の山……

 この汚部屋には見覚えがある。教会の……ゼヘタ神の御所だったか。

 そんでグラシア様はいつになったらこれを片付けてくれるんだ。


 そんなことを思いながら体を起こすと――


「おぉ? 起きたよーじゃな?」


 目の前に居た、少女が浮いていた。


 真っ白な長い髪に、色素の薄い肌。

 赤い眼、口元にちらちらと見え隠れする鋭い牙。

 それにこのオーラ……

 この教会の、この場所にいるってことは、『本物』の……?


 俺が嫌な予感を覚えていると、少女はぶんぶんと短い手を振り、全身を使って必死に存在をアピールしてくる。


「おやぁ? そちもわらわの事が見えぬのか?」


 少女は手を振りながら、首をかしげる。

 ……面倒だな。

 もしこれがホンモノだとすると、どう考えても話がこじれる気しかしない。

 

「本当に聞こえておらぬのか? 聞こえぬふりをしているだけではなかろうの? おーい‼ 聞こえんのかあああ‼」

 

 うるっさ!

 ふわりと耳元に飛んできたかと思うと、今度は鼓膜を潰しにかかってきた。

 が、なんとか反応するのをこらえてベッドから降りる。


「まったく、なんなのじゃ……。急に力を奪われたかと思えば、教会に良からぬものが押し入ってきて……。最近はおかしなことばかりじゃあ……」


 足をぷらぷらとさせながら、少女は口をとがらせる。

 悲しそうな声音にちょっと罪悪感を覚える。

 けど、今だけは勘弁してくれ。こちらも時間が無いんだ。

 心を鬼にして無視しながら、後ろ手に扉を閉めようとすると。


「ときに、先ほどから下着を頭に乗せているのはぬしの趣味か?」


 とそう、最後に声をかけてきた。

 ……ほんとだ。なんかさっきから頭に乗ってると思ってたんだよな。

 俺は頭の上のそれをひっぱり。

 これ、グラシア様の――


「おやぁ⁉ 下着に反応しおったなぁ! や、やはり聞こえておるのじゃろう⁉」


 …………やべ。


「のう! どうして無視などするのじゃ! 見えておるのならそう言って……‼」

 

 涙目になりながらそう叫ぶ少女から逃げるように。

 急いでバタンと扉を閉めると、その声は聞こえなくなった。

 あっぶねえ、本当に何やってんだ俺は!

 ……今回は何とかなったけど、次会うときはどうすればいいんだろう。

 

 ……あ。コレ、置いて来るの忘れた。

 気は進まないが、仕方ない。

 

「――おぉ⁉ 戻って来る気に」

 扉を開けるなり聞こえてきた声を無視して下着を放り投げると、またすぐに扉をバタンと閉める。

これでよし。



 と、手を払いながら教皇室に目を戻す。

 さて、今日こそはなんとか本題に……と。

 気合を入れようとして、俺は言葉を失う。


 横向きに倒れた本棚、土砂崩れのように広がる本と書類。

 ひっくり返された執務机に、割れた窓ガラスの破片がそこら中に散らばり、両開きの扉は壊され――――


 ……なにこれ。

 

 目の前の光景に呆然としていると、ふと先程の少女の言葉を思い出す。

 そういえばあの人、『教会に良からぬものが押し入って来て』だのなんだの言ってたな。

 良からぬもの、かなり暴力的だ。


 ……にしても外がうるさいな。

 割れた木片を踏まないように慎重に歩こうとして、体が明らかに重いことに気づく。


 信仰が足りてない……?

 疫病の収束で人々からの信仰は強まったんじゃなかったのか?

 割れた窓から外を覗くと、すぐに修道士の姿が見つかった……のだが。


 修道服に身を包む者はみんな、一様に民衆に囲まれている。

 あるものは馬乗りになって殴られ、あるものは周りから足蹴にされ、その誰もが怒りに染まった群衆から罵声を浴びせられていた。


 街を一望するだけで、至る所から火の手が上がっている。

 建物が打ち壊され、狂乱に侵された民衆が叫び、そして駆け回り……

 

 なんだこの地獄は。


 なんで教会が暴徒に包囲されて――


「くっ……」

 

 息苦しさがどんどん強まっていく。

 立っていられずに、俺は窓枠にもたれかかる。


 一日じゃ、世情がこんなに変わると思えない。

 俺の活動に必要な信仰が溜まるまで、そこそこの時間が経過していると見た方が良さそうだ。

 となると俺が眠っている間、何かしらがあって教会の信用が失墜した……?


 ……だめだ、今起きたばかりなのにもう、力が持たない。

 体を起こしている事すらもう……


 となれば、やるしかないだろうな。

 人々の信仰がまだ残ってる過去へ――――


 『遡行』 一日前……!



――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ……よかった。

 荒れ果てた景色が一変して、ほっとする。

 窓も割れてないし、本棚も倒れてない。

 けど、外の騒がしさは増したような……


「……1、2の!」


 ……なんだ?

 扉の方から声がしたかと思うと、ドカンという音と共に扉が吹っ飛ぶ。

 入口の向こうから、なだれ込むように人々の群れが――


「教皇室は確保した! 教皇の姿は……ん? お前は……」


 訝し気に目を細める、鍬を手にした男たち。

 状況を理解する前に、先頭の農民は目を見開いて。


「こ、こいつ、ゼヘタ神を騙ってた偽物の――!」


 敵意をむき出しに息を荒げる彼らから、後ずさるようにしながら俺は再び――


「取り囲め! 殺せ……!」

「ま、待って下さ……そ、『遡行』…………ッ!」


 念じると同時に景色が歪み、教皇室に詰めかけた農民たちの姿が消える。


 今度こそ大丈夫……だよな?

 窓は割れてないし、扉も吹っ飛んでないし、外は騒がしくない。

 いつもの静謐な教皇室に戻ってこれ――


「あぁあああもおおおおめんどくさいなあああ! なんでこんな問題が山積みなのよおおおお!」


 ……静謐、というのは言い過ぎだったな。

 至近距離でグラシア様の叫びをくらい、俺は大きなダメージを負った。

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