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【27話】社交パーティー


 ディアボル王国を出立してから一週間。

 ユウリたちの乗った馬車は、目的地であるレドリオ王国王都のパーティー会場へ到着した。

 

「私は一足先に会場に入って、パーティーの参加者に挨拶をしております。中で合流いたしましょう」


 馬車を降りたベスターは、会場である大きなホールへと向かっていった。

 

「ユウリたちも、私と一緒にパーティー会場に来てくれるのよね?」


 尋ねてきたシャルロットは、心配そうな顔をしている。


「あぁ。俺たちの任務は、シャルの護衛だからな。パーティー会場で襲撃されないように、ずっと近くにいるよ」

「シャルさんとのパーティー、楽しみですね!」

「酒! 酒じゃ!」

「……お前ら、目的を忘れてないだろうな」

 

 ユウリの呆れ声に、シャルロットは安心したように笑った。

 

 ユウリたち三人は、この一週間でシャルロットとかなり打ち解けることができた。

 あだ名で呼んでいる今では、冗談を言って笑い合ったりする仲になっている。

 

 この一週間、シャルロットを見てきたユウリはこう思う。

 きっとこれまでの彼女は、人との接し方が分からなかったのだ。そして、それを教えてくれる人もいなかったのだろう。

 だからシャルロットは、ワガママで横暴な態度を取ってきた。

 

 けれど、本当のシャルロットはそうではない。

 笑顔がキュートな、ちょっと心配症の女の子だ。一緒にいて分かった。

 

「ちょっとユウリ、早く降りなさいよ」

「はいはい」


 微笑みつつ、ユウリは馬車を降りた。

 

 馬車を降りた四人は、ホールへ入った。

 先に入っていたベスターと合流する。

 

 ホールに入ったシャルロットに、大勢の人が挨拶にやって来た。

 ディアボル王国第五王女である彼女に名前を覚えて貰おうと、必死なのだろう。

 

「ベスター、あんたが全部対応しなさい」


 挨拶をしに来た人たちに、シャルロットはまともに応えようとしなかった。

 ベスターに挨拶の対応を任せると、スタスタ歩き始める。

 

「何ぼさっとしてんのよ、あんたたち。ほら、行くわよ!」

「はいよ」


 護衛である三人は、シャルロットの側を離れる訳にはいかない。

 スタスタ歩く彼女を、小走りで追った。

 

 

 ホールの隅。

 ユウリたち四人は、そこに集まって食事を楽しんでいた。

 

「この料理美味いな! シャル、お前も食ってみろ」

「うん!」

 

 頷いたシャルロットは、あーん、と口を開けた。

 

「え、俺が食べさせるの?」

「当たり前でしょ。早くしなさいよ」


 どの辺が当たり前が分からなかったが、分かったよ、と言うユウリ。

 シャルロットの口に料理を入れた。


 それを見たリエラが、うらやましそうな顔になる。

 

「ユウリ様、私にも同じようにして下さい!」

「は? 何をだよ?」

「決まっているじゃないですか! あーん、です!」


 目を瞑ったリエラが、大きく口を開けた。

 ユウリの、あーん、待ちだ。

 

「何だか面白いことをしておるのう! どれ、わらわも参加するのじゃ!」

 

 リエラに便乗するかのように、フィアも口を開けてきた。

 

(どうして俺がこんなことを)

 

 そう思ったが、差別する訳にはいかない。

 リエラとフィアの口にも、同じように料理を入れる。


「ねぇユウリ。私まだ、食べ足りないんだけど」

「私もです」

「それじゃ、わらわも!」


 あーん、と口を開ける三人の口に、ユウリは料理を突っ込んでいく。

 なんだか、動物にでもエサをやっているような気分だ。

 

(よし、これでもういいだろう)


 三人の口に料理を突っ込んだユウリは、一仕事終えたような達成感を味わっていた。

 

 しかし、まだ終わっていなかった。

 三人は再び口を開けている。あーん、待ちしていたのだ。

 

「お前ら、マジかよ……」

 

 結局ユウリは、この後何回も三人の口に料理を突っ込んだ。

 

(まったく。何してんだ、俺)


 そう思いつつも、ユウリは笑っていた。

 

 傍から見たら馬鹿みたいなことをやっていたこの時間。

 けれど、下らないことをやっているこの時間が、ユウリはとても楽しかった。

 

 

 楽しい時間は過ぎて、パーティーが終わった。

 

 ユウリたち四人は、ベスターと合流。

 馬車へ戻った。

 

 満月が照らす空の下を、五人の乗った馬車が動き出した。

 これからまた一週間かけて、ディアボル王国へ帰ることになる。

 

(今回の依頼、すごく楽しかったな)


 まだ終わってもいないのに、ついついそんなことを考えてしまう。

 最初はどうなるかと思ったが、シャルロットと打ち解けてからはものすごく楽しい旅になった。

 

「ちょっとユウリ。あんた、何ニヤニヤしてんのよ」

「シャルと仲良くなれて良かった、そう思ったんだ」

「きゅ、急に何てこと言うのよ!」


 シャルロットの顔が、カァと真っ赤になった。

 照れているのが丸わかりの反応が可愛らしい。

 

「……それは、私も同じなんだから」

「ん? もう一度言ってくれ」


 シャルトットの呟きはあまりにも小さくて、よく聞こえなかった。

 だから聞き直そうとしたのだが、彼女はムスっとしてしまう。

 

「別になんでもない――」


 ガタン。

 

 馬車が急停車した。

 車窓から外を見れば、人気(ひとけ)のない路地裏のような場所にいる。

 

「御者に確認して参ります。皆さまはこの中でお待ちを」


 ベスターが馬車を降りた。

 

(もしかしたら、襲撃を受けたのかもしれないな)

 

 外出する先々で、シャルロット乗った馬車が襲撃されている。

 ここへ来る前にベスターが言っていた、そんな言葉を思い出す。

 

 ユウリの雰囲気がピリピリしていく。

 

 他の三人は落ち着かない様子だ。

 きっとユウリと、同じことを考えているのだろう。

 

 ベスターが外に降りてから、五分ほどが過ぎた。

 

 彼は未だに戻ってきていない。

 

(……遅すぎる)


 急停車の原因を御者に確認するだけなら、ここまで時間はかからないだろう。

 予想外のアクシデントが起こったのかもしれない。

 

(やはり襲撃を受けたのかもしれない)

 

「外を見てくる。リエラとフィアはここで待機だ。シャルを守ってくれ」

「ユウリ、行っちゃうの……」


 シャルロットが不安そうに見つめてきた。

 今にも泣きそうになっている。

 

「心配してくれてありがとうな。大丈夫、すぐ戻ってくる!」


 ニッと笑って、シャルロットの頭を優しく撫でる。

 

「リエラ、フィア。頼んだぞ」


 二人に【勇者覚醒】を発動し、ユウリは馬車の外へ降りた。

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