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【25話】気まずい道中

 

「ベスター! 護衛を変えなさい! 今すぐに!!」

「……申し訳ございませんが、それは不可能です」

「はぁ!?」


 裏返った叫び声が、謁見の間に響く。

 

 激昂状態のシャルロットは、闘牛場の牛のよう。

 今すぐにでもベスターに飛びかかりそうな勢いだ。


「あんた、第五王女である私の命令が聞けないっていうの!」

「レドリオ王国への出立は明朝。今から変更しようと思っても間に合いません。どうかご理解ください」

「……あー! もう!」


 ドン!

 地面を強く踏んだシャルロットが、その勢いでイスから立ち上がる。


「最悪よ!!」


 シャルロットは、ぷりぷりしながら謁見の間を出て行った。

 

「ユウリ様たちには、部屋を用意しております。すぐに案内の者を寄こしますので、このままここでお待ちください」


 ベスターはそう言ってから、出入り口の方へくるっと方向転換。

 急ぎ足でシャルロットを追っていった。

 

******

 

 翌朝。

 

 ユウリ、リエラ、フィア、シャルロット、ベスターの計五人が乗っている馬車が走り始めた。

 行き先はレドリオ王国だ。

 

 王族が使用する馬車ということもあってか、通常の馬車と比べて車内はとても広い。

 ソファはふかふかで、最高の座り心地をしている。

 

 ユウリ、リエラ、フィアの冒険者グループは、車内の一番奥に横並びになって座っている。

 

 その対面に座っているのは、シャルロット。

 ムスっとした顔をしている。

 

 ベスターは出入り口近くにポツンとひとりで座り、本を読んでいた。

 

 車内には今、気まずい沈黙が立ち込めている。

 その雰囲気を作っているのは、対面でムスっとしているシャルロットだ。

 

 頬杖をつきながらずっと窓を見ており、ユウリたちと目線を合わせようとしない。

 イライラしているのが一目で分かる。


 原因はおそらく、昨日の一件だろう。

 そのせいで、ユウリはいたく嫌われてしまったようだ。

 

(まぁ、時間が解決してくれるだろう)


 人の怒りというのは長くは続かない。

 時間が経てば、シャルロットの機嫌も直るはずだ。



 しかし、その見通しは甘かった。

 夕方になっても、シャルロットの態度に変化はない。

 

 レドリオ王国までは、馬車で一週間かかる。

 このままでは息の詰まるような今の空気に、一週間耐え続けなければならない。


(そんなの無理だ)


 気まずい雰囲気を打ち破るべく、ユウリは行動を起こす。

 

「その、昨日は悪かったよ。いきなりあんなこと言って。デリカシーに欠けてた」


 頭を下げての謝罪。

 

 しかし、対面からはなんの返事もない。

 

(失敗か……)

 

 そう思ったとき。

 

「別にいいわよ」

 

 シャルロットの声が聞こえた。

 

「あんたに言われたことは事実だし。お兄様やお姉様たちと比べて愛想も顔も悪いって、よく言われるもの。親しい人がいないのも当然だわ」

「愛想はともかく顔は可愛いだろ」

「私の目の前で他の女性を口説くなんて……まさかユウリ様、私を捨てるんですか!?」

「お、修羅場っていうやつじゃの! 血みどろの争いじゃ!」

 

(何言ってんだこいつら……)

 

 興奮しているリエラとフィアに、ユウリはため息を吐いた。

 

「あなたたち、仲がいいのね。ちょっと羨ましいわ」

 

 シャルロットがボソッと呟く。

 そこには、悲しさと寂しさが入り混じっているように思えた。

 

「ものごころつく前にお母様がなくなってから、私はずっと一人だったの。以前はお父様――国王がたま会いに来てくれたけど、仕事が忙しいみたいで今はめっきり。もう三年は会ってないかしら」

「ベスターは?」

「あいつは違うわ」


 シャルロットが首を横に振る。

 

「ベスターは小さい時からの側近だけど、仕事以外の会話をしたことは一度もないわ。私、あいつに嫌われているもの」


(確かにその通りかもしれない)

 

 横目でベスターを見る。

 

 もし仲が良ければ、シャルロットの隣に座っているはずだ。

 あんな離れたところで本を読んでいるのはおかしい。

 

「あんたたちって一緒に組んでから長いの?」

「いや、そうでもないぞ。俺とリエラがパーティーを組んだのが三か月前。フィアが加わったのが、二か月前だな」

「そんなに短いの!?」


 よほど意外だったのか、瞳を大きく見開いたシャルロット。

 不思議だわ、という呟きが口から漏れる。

 

「一緒に冒険してるうちに、自然と仲が深まるんだよ」

「……ねぇ、もしよければ冒険の話を私に聞かせてくれない?」

「あぁ、いいぞ!」


 快諾すると、シャルロットの顔がぱあっと輝いた。

 彼女の笑顔を見たのはこれが初めてだったが、とてもよく似合っている。

 

「それではまず、ユウリ様の抱き心地の話からですね!」

「いやいや、何を言っておる。まずは酒の話からに決まっておるじゃろ!」

「…………お前ら、ちょっと黙ってろ」


 リエラとフィアにツッコミをしてから、冒険者としての日常を語っていく。

 

 この話を境に、ユウリたちとシャルロットの距離がグッと縮まった。

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