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【24話】王女からの呼び出し


 エルフの里での依頼をこなしてから、一か月が過ぎた頃。

 

 依頼を終え宿屋に帰ってきたたユウリ、リエラ、フィアの三人。

 いつも通り部屋に向かおうとしたところで、フロントの従業員に呼び止められる。

 

「ユウリさん、あんたに手紙だよ」

「俺に?」

 

 手紙を寄こしてくるような人物に心当たりはない。

 疑問に思いつつも、ユウリは従業員から封筒を受け取った。

 

 封筒は金色に光っており、とても高価なものに思える。

 差出人は、『ディアボル王国第五王女』となっていた。

 

「王女様が俺に何の用だ?」

「中を確認してみるしかないですね」

「よし、みんなで確認しようぞ!」


 フィアのひと声により、三人はユウリの部屋に向かった。

 

 

「それじゃ、開けるぞ」


 リエラとフィアが頷いたのを確認してから、ユウリは封を開ける。

 

 封筒の中に入っていたのは、召集令状。

 パーティーメンバーを連れて王都にいる第五王女のところへすぐに向かえ、という内容が書かれていた。

 

「……何でこんなものが来るんだよ」

 

 一介の冒険者に過ぎないユウリは、第五王女との面識などない。

 はたまた、ディアボル王国に損害を与えるような大きなやらかしをした覚えもない。

 

 第五王女に呼び出される理由に、さっぱり心当たりがなかった。

 

「どうするんじゃユウリ? 無視するか?」

「いや、それはできない」


 この命に背けば厳しい処罰を下す――召集令状には、そんなことが記載されていた。

 

 今後もディアボル王国で暮らしたいのならば、この命令に逆らう訳にはいかない。

 行く行かないの選択肢など、そもそも最初から用意されていないのだ。

 

「二人とも、すぐに外出準備をしてくれ。三十分後に出発だ」

「承知しました」

「了解じゃ」

 

 ユウリたち三人はその日のうちに馬車に乗り、王都へ向かうのだった。

 

 

 王都へ向かっている馬車の中で、ユウリが口を開く。

 

「そういえば、第五王女ってどんなヤツなんだ?」

「第五王女のシャルロット様は、十年前に亡くなられた側妃の一人娘です。お歳は12歳だったかと」

「まだ小さいんだな」

「それと、ここからはあまり詳しくないのですが、()()のある人物だと聞いたことがあります」


 リエラが苦笑いを浮かべる。

 

「性格は横暴でワガママ。その身勝手な振る舞いのせいで、臣下からの信用がまったくないとか」

「面倒くさそうなお姫様じゃな!」

「……マジかよ。とんでもないヤツに呼び出されちまったみたいだな」


 ユウリはガックリと肩を落とす。

 

(面倒なことになりそうだ……)

 

 相手がワガママ王女様ともなれば、どんな用件で呼びつけたにしろひと悶着ありそうだ。

 謁見する前から、ずーんと気分が重くなった。

 

******


 ファイロルを出立してから二日後。

 

 ユウリたち三人の乗った馬車が、王都にある離宮へ到着した。

 差出人である第五王女シャルロットは、この離宮で暮らしているらしい。

 

「行くか」

 

 馬車から降りるユウリたち。

 

 その直後、メガネをかけた男性が出迎えに来てくれた。

 歳は30くらいだろうか。とても知的そうな見た目をしている。

 

「ユウリ様ご一行ですね。遠路はるばるご足労いただき、誠に感謝いたします」


 メガネをかけた男性が、深々と頭を下げた。

 

 礼儀正しい丁寧な対応に、ユウリは少し驚く。

 召集令状なんて物騒なものをよこしてくる連中のことだから、もっと高圧的な態度を取ってくるものだと思っていた。

 

「私はベスター。第五王女、シャルロット様の側近をしております。謁見の間にて、シャルロット様がお待ちです。さっそくですが中へどうぞ」


 ベスターの案内で、離宮に入るユウリたち。

 幅広の廊下を進んでいく。

 

 一階の最奥にある大きな部屋。

 その前で、ベスターが立ち止まった。

 

「こちらが謁見の間となります」


 扉を開け、ベスターが中に入っていく。

 ユウリたちも後に続いた。

 

 広大な部屋の中央には、豪華なイスに座っている可憐な少女がいた。

 長い金髪に、はちみつ色の瞳をしている。


 ベスターとユウリたちは、彼女の前で立ち止まった。


「シャルロット様。ユウリ様ご一行をお連れいたしました」

「ふうん。こいつらが、ねぇ」


 じろり。

 ユウリたちを見るシャルロットは、まるで品定めでもしているみたいだった。


「なんて頼りなさそうな連中なのかしら。特に、ミルク色の髪をしたあんた。ゴブリンよりも弱そうだわ」


 ユウリを顎で指すシャルロット。

 整った顔には、イラつきが濃く浮き出ていた。

 

「ユウリ様はBランク冒険者。実力は本物です」

「ふん、どうだか。……まぁいいわ。ベスター、こいつらに話をしなさい」

「承知しました」


 シャルロットに一礼したベスターが、ユウリたちの方へ体を向けた。

 

「今回お呼びした理由。それは、ユウリ様たちにご依頼したい仕事があるからです」


 ここでようやく召集された理由を知ったユウリ。

 おかしな理由じゃなかったことに、少しホッとする。

 

「ご依頼したい仕事というのは、護衛の仕事。あなた方には、シャルロット様の護衛をしていただきたいのです」


 隣国のレドリオ王国で開催される社交パーティーに、シャルロットが出席するらしい。

 その間の護衛を、ユウリたちに頼みたいのだそうだ。

 

 ベスターの話を聞いたユウリは首を傾げる。

 シャルロットを護衛すること自体に問題はないのだが、引っかかっていることがあった。

 

「どうして俺たちに頼むんだ? こういうときって、普通は兵士が護衛するものだろ?」

 

 普通に考えれば、自国の兵士を護衛につけるだろう。

 王女ともなれば、専属の護衛騎士なんてのもいるかもしれない。

 

 それらを差し置いて、冒険者であるユウリたちに護衛を依頼した。

 それがとうも納得できなかった。


「実は、そうせざるを得ない事情があるのです。……今から申し上げることはくれぐれもご内密にしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 重々しい雰囲気で言ってきたベスターに、ユウリたちはコクンと頷いた。

 

「近頃、外出する先々で、シャルロット様の乗った馬車が襲撃されているのです。犯人は全て単独犯で、横の繋がりはありません。しかしながら、共通点があるのです」


 ベスターの瞳が、ギラリと鋭くなる。


「犯人は全員、シャルロット様を待ち伏せする形で犯行に及んでいます。シャルロット様の乗った馬車が、いつ、どの道を通るのか。初めからそれを知っているようでした」

「つまり、犯人に情報が漏れていたってことか?」

「おっしゃる通りです」


 ベスターがため息をつく。


「漏れた情報は、馬車がどの道を通るかなど、かなり細かいものです。それを知っているのは、内部の人間のみ。そのため今は、内部の人間を使うことを極力避けたいのです」

「それで外部の人間である俺たちに声をかけたってことか」

「はい。ミノタウロスの討伐、スポイド盗賊団の壊滅……ユウリ様たちのご活躍は、この王都にまで轟いております。それを聞いた私は、あなた方に依頼しようと決めました」

「そういう訳だから、仕方なく使ってあげるわ。この私を護衛できるということを、大いに感謝しなさい」

 

 ふん、と鼻を鳴らしたシャルロット。

 どこまでも人を見下しているような視線を、ユウリたちへ向けた。

 

(リエラの言っていた通り、傲慢でワガママな王女様だ。人にものを頼む態度とは思えないな)

 

 少しイラっときたユウリは、ささやかなお返しをする。

 

「お前、友達いないだろ。俺もぼっちだったからな……分るんだよ、そういうのが」


 ぼっちは、ぼっちを探す能力に長けている。

 元ぼっちであるユウリは、シャルロットがぼっちであると見抜いたのだった。

 

「あんた……許さない!」

 

 シャルロットは一瞬驚いてから、顔を真っ赤にした。

 怒りに燃ぎたぎる瞳で、ユウリを鋭く睨みつける。


 正解を言われたからこそ、そんなにも怒っているのだろう。

 どうやら、図星だったようだ。

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