【23話】勝利の宴
エルフの里に戻ってきたユウリたちは、事のいっさいを依頼主であるグリコに報告した。
「狂化の髪飾りは、既にスポイドの手から放れていましたか。読みが外れました」
「せっかく指名依頼してくれたのにすまなかったな」
「いえ、私の読みが甘かっただけのことです。ユウリ様たちに落ち度はありません。狂化の髪飾りの行方は、こちらで引き続き調査します」
小さく微笑むグリコ。
続けて、こちらが報酬金です、と言って布袋をユウリに渡した。
「ん、多すぎないか?」
ぎっしり重い布袋に違和感を感じるユウリ。
布袋の中を開けてみると、提示されていた金額よりもずっと多くの報酬金が入っていた。
「上乗せの報酬は里の者たちからです。ちなみに一番多くの報酬を寄こしたのは、ビトーです。『娘を救ってくれた礼と、失礼なことを言った迷惑料だ』、そう言っていました」
「へぇ、あのオッサンがな」
ユウリは照れ笑いをする。
頑固なオッサンに礼を言われたのが嬉しかった。
「ビトーをはじめ、里の者はみなユウリ様に感謝しているのです。どうか受け取ってやって下さいませんか」
「そういうことなら、ありがたく貰うよ。ありがとうな!」
元気な声でお礼を返したユウリ。
大勢の人に感謝されるというのは、すこぶる気持ちが良い。
「それじゃあ、俺たちはこれで帰るよ」
「お待ちください」
帰ろうとしたユウリたちを、グリコが呼び止めた。
口元には楽し気な笑みが浮かんでいる。
「スポイド盗賊団の壊滅を祝し、中央広場では今、宴が行われています。ユウリ様たちは宴の主役。もし時間があれば、参加していって下さい」
「宴か……楽しそうだな」
リエラとフィア。この二人と参加したら絶対に楽しいだろう。
そんな確信めいたものをユウリは感じた。
「俺としては参加したいが、二人はどうだ?」
「私も出たいです!」
「わらわもじゃ! 酒! エルフの地酒が飲みたい!」
全員の意見が満場一致。
ユウリは心の中で、やった、と大きく喜んだ。
中央広場には、多くのエルフが集まっていた。
食事をしたり酒を飲んだりしていて、大いに盛り上がっている。
「お、主役の登場だぞ!」
「ありがとうな、お嬢ちゃんたち!」
「きゃー、三人ともとっても可愛いのね!」
宴に参加したユウリたちを迎えたのは、エルフたちの歓声だった。
大きく弾んだ声色から、とても歓迎されていることが分かる。
「さ、こちらへお座り下さい」
ユウリたちはテーブル席へ案内された。
そこに座り、食事を楽しもうとした――のだが、そうはいかなかった。
「本当にありがとうね!」
「あんたたちはエルフの里の英雄だ!」
エルフたちが、ひっきりなしにお礼を言ってくるのだ。
お礼を言ってくれるのは嬉しいのだが、食事を摂る余裕がまるでなかった。
「ふぅ、やっと落ち着いたか」
エルフたちのお礼ラッシュもひと段落。
これでようやく食事を楽しむことができる。
そう思ったとき、親子連れがユウリたちのところへやって来た。
ビトーと、その娘だ。
「おねーちゃんたち、ありがとう!」
ニコッと笑ったビトーの娘が、笑顔でお礼を言った。
無邪気な笑顔は、天使のように可愛らしい。
それを見た三人は、いっせいに顔を綻ばせていた。
(不思議だ。ドワーフみたいなオッサンから、どうしてこんな天使みたいな子が産まれるんだ)
そんな失礼なことを考えていたら、ビトーが「おい!」と声をかけてきた。
「今回はその……お前らに助けられた。何かして欲しいことはあるか? 俺は鍛冶屋だ。武器で困ったことがあれば、何でもやってやる」
恥ずかしそうに、ビトーが視線を逸らした。
「うーん、特にないかな。その気持ちだけで十分だ。ありがとうな、ビトーのオッサン」
「ふざけんじゃねえ! それじゃ俺の気が治まらねえんだよ!」
大声を上げるビトー。
眉間に皺をよせ、ユウリを真っすぐに見る。
「この借りは必ず返す。これは絶対だ! いいか、忘れんじゃねぇぞ!」
「ばいばーい!!」
ビトーとその娘が去っていく。
去っていく親子の背中が、どこか楽し気に見える。
ビトーの娘を救出することができてよかったと、ユウリは改めて実感した。




