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【22話】アジト襲撃


 エルフの里より馬車を走らせてから、約二時間後。

 

 ユウリたち三人の乗った馬車。

 腕の立つエルフの男たち数人が乗った馬車。

 

 二台の馬車が、スポイド盗賊団のアジト周辺に到着した。

 それらは、アジトより少し離れたところに停車する。

 あまりにも近い場所に停めると、盗賊団にバレてしまう可能性があるからだ。

 

「盗賊団を制圧したら、空に大きな火の球を打ち上げる。あんたたちは、それを合図にアジトへ来てくれ」

「分かった。ビトーさんの娘を必ず救い出してくれ」

「任せろ」


 エルフの男たちに、ユウリはグッと親指を立てた。

 そうして、ユウリ、リエラ、フィアの三人は、アジトへ向かって歩き始める。


 

 スポイド盗賊団のアジトは、二階建ての廃屋のような場所だった。

 入り口は正面の大きな扉ひとつ。見張りは立っていない。

 

「頼んだぞリエラ」

「はい」


 事前に立てた計画通り、まずはリエラを単独で潜入させる。


 素早い動きでアジトへ向かっていくリエラ。

 地面を蹴って屋根まで飛び上がり、開いている二階の窓から廃屋の中に入っていった。

 

 スピーディーで軽やかな動きは、さながら忍者のようだった。

 

 五分後。

 ユウリとフィアは、アジトの入り口である大きな扉に向かっていく。

 

「そういえば、派手に騒ぎを起こす、と言っておったが具体的にはどうやるんじゃ?」

「正面の大きな扉、あれを俺とフィアの魔法で吹き飛ばす」

「ほう、それは派手じゃな!」

「だろ?」


 顔を見合わせた二人はニヤリ。

 そっくりの悪い顔で笑った。

 

 大きな扉から少し離れた場所に、二人はまっすぐ立った。

 

 フィアの肩に触れたユウリは、フィアを対象に【勇者覚醒】を発動する。

 続けて、自身にも【勇者覚醒】を発動した。

 

「いくぞフィア。準備はいいか?」

「おう、いつでもよいぞ。わらわとお主で、どでかい花火をかましてやろうぞ!」


 せーの、でタイミングを合わせ、二人はそれぞれ魔法を発動する。

 

「【ファイアボール】」

「【ウォーターボール】」


 火と水。

 二つの大きな球体が、アジトの扉に接触する。

 

 派手な爆音とともに、扉が遠くまで吹き飛んでいった。

  

「なんだいきなり!」

「扉が急にぶっ飛ばされた!」

「敵襲か!?」


 アジト内が急にざわつき始めた。

 盗賊団の動揺が手に取るように分かる。

 

 今頃リエラは、人質を救出してくれているはずだ。

 

 作戦は大成功。

 ユウリとフィアは笑顔でハイタッチした。

 

「ここからは俺たちの仕事だな」

「うむ」

 

 ユウリとフィアは、扉の無くなった正面から堂々とアジトへ踏み込んでいく。

 

 アジトの中には、十人ほどの人間がいた。

 見たところ、大した実力のない下っ端どもだ。

 

 一番奥には、真っ黒なレザーアーマーを着用している男性がいた。

 その黒色は、ミノタウロスの体毛と同じ色をしている。

 

(あいつがリーダーのスポイドだな)

 

「誰だてめぇら!」


 大きな声をあげたのは、リーダーであるスポイド。

 鋭い瞳には、強い怒りが宿っている。

 

「エルフの里の差し金か!」

「答える義理はない」

「そうじゃな。悪党に名乗る名などないわい」

「ふざけやがって、このクソガキども! ぶっ殺してやる!」


 意気込んでいるスポイドを、ユウリは鼻で笑う。


「やってみろ。返り討ちにしてやる」

「返り討ち、だぁ? ハッ、残念ながら、お前らは俺らに手を出せねぇよ。俺らには人質がいるからな!」


 スポイドが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「おい、エルフのガキをここへ連れてこい!」

「了解っす!」


 スポイドの命を受けて、下っ端の一人が意気揚々と廊下へ飛び出した。

 

 それから少しして、下っ端が戻ってくる。

 戻ってきた下っ端は、すっかり元気のなくなった真っ青な顔をしていた。

 

「ええと、その……いませんでした」

「あ? 今お前、なんて言った?」

「……その、いつの間にか逃げられたみたいです」

「ふざけんな!!」


 勝ち誇っていたような笑みから一転。

 顔を真っ赤にしたスポイドが、地団駄を踏んだ。

 

(よし。リエラはうまくやってくれたみたいだな)


 ユウリはニヤリと笑う。

 

「これで心置きなく、お前らクズどもに手を出せるな。フィア、雑魚はお前に任せていいか?」

「うむ、任されたのじゃ!」


 下っ端の相手をフィアに任せ、ユウリは奥にいるスポイドのところへ向かう。

 

「リーダーのところへ行かせるかよ!」

「調子乗るんじゃねぇぞクソガキ! ここで死にやがれ!」


 その途中、ナイフを持った下っ端二人が襲ってきた。

 

「遅すぎる」


 下っ端の攻撃を、ユウリは軽やかに回避。

 死にませんように、と祈りながらヒノキノボウルグを頭へコツンとぶつける。

 

 盗賊団の身柄をエルフに引き渡す以上、殺してはいけない。

 かと言って意識があったままでは困るので、気絶させる必要がある。

 

 ヒノキノボウルグの攻撃を頭に受けた下っ端二人は、バタンと地面に倒れた。

 体は動いていないが息はある。ちゃんと気絶してくれたようだ。

 

「よし、成功だ」

 

 殺さずに気絶させるという試みは初めてだったが、うまくいったようだ。

 ユウリは安堵の息を吐く。

 

「なんだ今の動き……! て、てめぇ何者だ!?」


 スポイドはガタガタ体を震わせていた。

 襲ってきた下っ端二人を瞬時に無力化したユウリに、恐れをなしているのが丸わかりだ。

 

「さっき言っただろ。答える義理はない、って」

 

 一歩、また一歩。

 スポイドに向け、ユウリはゆっくり足を進めていく。

 

 スポイドも同じく、一歩、また一歩。

 ユウリが近づくのに合わせて、後ろへ後ずさっていた。

 

「だが、俺の質問には答えてもらう。狂化の髪飾りはどこだ?」

「うるせぇ! これ以上俺に近づくな! 【ライトニングレイ】」


 スポイドの手から、ビーム状の白い雷撃が放たれる。

 それはとてつもない速さで、まっすぐユウリへ向かっていく。

 

 一歩分だけ横に動くユウリ。

 向かってきた白い雷撃を、涼しい顔で避ける。

 

「躱した……だと」


 焦りと動揺が、スポイドの顔に色濃く浮かんだ。

 

 【ライトニングレイ】は雷属性の上級魔法。

 そのスピードは、全魔法の中でもトップクラスと言われている。

 攻撃を見切るのは不可能に近い。

 

 それを顔色ひとつ変えずに、ユウリは避けた。常識外れの芸当だ。

 スポイドの反応も、当然と言えよう。

 

「今から俺は、お前に攻撃する。殺さないつもりではいるが、殺さずに気絶させることにまだ慣れていない。うっかり力を入れ過ぎて殺してしまうかもしれない」

「や、やめろッ!」

「だから、その前にもう一度だけ聞いてやる。狂化の髪飾りはどこだ?」

「ここにはもうない! モルデーロ王国の闇商人に売っちまった!」


 まさかそう来るとは思わなかった。

 だったらせめて、行方だけでも掴んでおきたい。


「……そいつの名前は?」

「知らねぇ! 素性を詮索しないのが、裏の社会のルールなんだ!」

「面倒なルールだな」


 こうなればもう、狂化の髪飾りの行方が分からないだろう。

 吐き捨てるように言ったユウリは、スポイドを睨みつける。


「嘘はついてないだろうな?」

「本当だ! 嘘はついていない!」


 涙と汗をダラダラ流しながら、スポイドは必死に叫んだ。

 とても演技には見えない。

 

「分かった。お前の言い分を信じてやる」

「じゃあこれで俺は――」

「あぁ、お前にもう用はない」


 スポイドとの距離を一瞬で詰め、コツン。

 頭に受けたヒノキノボウルグの一撃で、スポイドは気を失った。

 

 フィアの方も片付いていた。

 下っ端たちは全員気を失っている。

 

「アジトの制圧完了だ。お疲れ、フィア」

「ユウリもな!」


 フィアと一緒に、アジトの外へ出たユウリ。

 空に向かって、手のひらをかざす。

 

「【ファイアボール】」


 大きな火の球を飛ばし、エルフたちに合図を送る。

 あとは彼らに、気絶している盗賊団たちの身柄を引き渡すだけだ。

 

 狂化の髪飾りを奪還できなかったのは残念だったが、こればかりは仕方ない。

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