【14話】デルドロ大洞窟
ケレル大森林を発ってから二日。
ユウリ、リエラ、フィアの三人は、目的地であるデルドロ大洞窟へ到着した。
松明を持った三人は、洞窟内へと入っていく。
「広いなぁ」
周囲をぐるっと見渡したがユウリが、月並みな感想を漏らす。
大洞窟というだけあってかなり広い。
「感心するのもよいが、この洞窟にはたくさんモンスターが住み着いておる。二人とも、気を引き締めておいた方が良いぞ」
「おう!」
「はい!」
フィアの声に、二人は気合を入れた返事をするのだった。
先頭からフィア、ユウリ、リエラという並びで進んでいく。
このメンバーで戦闘力が一番高いのはユウリだ。
前方と後方、何か起こった時にどちらにでも対処できるよう、ユウリは真ん中にいる。
「出てきおったな」
先頭を歩いていたフィアが立ち止まった。
合わせて、ユウリとリエラも足を止める。
三人の前に立ちはだかったのはイノシシの顔を持つ人型モンスター、オーク。
手には、先端の尖った槍が握られている。
危険度はそれほど高くなく、Dランク冒険者ならば問題なく倒せるレベルだ。
「ちゃちゃっと倒してくるか」
「お待ちくださいユウリ様。ここは私にやらせていただけませんか?」
ずいっと出てきたリエラは、ユウリの隣に並んだ。
ピンと背筋を伸ばし、やる気に満ちあふれている。
(フィアの話を聞いて、気合が入っているんだな。……熱くて優しいヤツだ)
フッと笑ったユウリは、リエラの肩に手を載せる。
「分かった。でも、絶対に無理はするな。無理だと思ったらすぐ逃げろ。いいな?」
「はい!」
「よし、行ってこい!」
リエラに【勇者覚醒】を発動する。
白色の淡い光を纏ったリエラ。
引き抜いた剣を片手に持ち、オーク目掛けて飛び出していく。
「ブモオオオ!」
向かってくるリエラへ、オークは槍を突き出した。
なかなかに早い動きだ。
だが、リエラには当たらない。
横にステップを踏んで、槍の突きを回避。
剣の届く間合いまで踏み込んでいく。
「やあああっ!」
リエラが剣を振り下ろした。
リエラの剣は、オークの体に直撃。
真っ赤な血を噴き出しながら、オークは地面に伏した。
洞穴でゴブリンを殲滅した時よりも、動きが格段に良くなっている気がする。
フィアのことを思って気合が乗っている分、キレがあったのかもしれない。
「ユウリ様、フィアさん! やりましたよ~!」
笑顔のリエラに、ユウリは小さく手を振る。
ユウリの隣まで下がってきたフィア。
恥ずかしそうに、目線を下に向けている。
「フィア、お前も手を振ってやれ。リエラはお前のために頑張ったんだ」
「分かっておるわい! ……お主もリエラも、とんだお人好しじゃ」
「素直に嬉しいって言えばいいのに。フィアも可愛いところあるじゃないか」
「なっ! お主今、わらわをバカにしただろ!」
思ったことを口にしたら、フィアがムスっとしてしまった。
素直になれないのをいじられたので、拗ねてしまったのだろう。
そんなところもまた可愛らしい。
それからも、順調に洞窟を進んでいく三人。
道中で遭遇したゴブリンやオークを討伐しながら足を動かしていき、ついに最深部へとたどり着く。
そこにいたのは、右角に傷のあるミノタウロス。
ターゲットはこいつで間違いないだろう。
両手にはそれぞれ、戦斧が握られていた。
真っ黒な体毛の覆われた筋肉隆々の体躯をしているが、それ程大きくはない。
オーガに比べて、かなり小柄である。
しかし、放っている雰囲気はなかなかのもの。
アッシュオーガよりも強い、とユウリは直感した。
「ミノタウロスッ……!」
喉から押し出すような声を上げたフィア。
そこには、どれほどの怒りや憎しみが込められているのだろうか。
ユウリには、とても想像がつかなかった。
「お前、あのときの娘か……。まさか、殺し損ねていたとはな」
たどたどしくはあるが、ミノタウロスは言葉を喋った。
人間の言葉を話すモンスターなど、これまでに出会ったことがない。
(知能が高いと聞いていたけど、まさか喋るなんてな)
予想を上回る知能の高さに、ユウリは少し驚いていた。
「まぁいい。殺し損なっていたのなら、今殺せばいいだけだ」
ミノタウロスがニヤリと笑う。
それに合わせるかのように、ユウリたちの後方から五体のオークが姿を現した。
「お前ら三人とも、ここで死ぬといい」
前方にミノタウロス、後方に五体のオーク。
二種類のモンスターに、前後を挟まれている格好になる。
リエラとフィアに、ユウリは【勇者覚醒】を発動した。
「リエラとフィアは、後ろにいるオークたちを頼む」
ユウリの指示に、二人は小さく頷いた。
「俺はミノタウロスをやる」
自身にも【勇者覚醒】を発動したユウリ。
地面を蹴り、ミノタウロスの元へ向かっていく。