陽が沈む頃に
午後6時過ぎ――空がオレンジ色に染まりきった頃
俺はぼやきながら下駄箱を出て校門へ向かっていた
「ったく谷町のヤツ……いつも説教がなげぇんだよな」
谷町というのはうちのクラスの担任
厳しいことで有名でとっつかまると長ったらしい説教を聞く羽目になる
俺みたいに言っても聞かない奴相手の場合、だんだん相手にしなくなるのが普通だと思うけど
谷町は何度も何度も捕まえては説教してくる
頭に熱血が付く、今時珍しいタイプの教師なんだろうな
「あぁーくそっ!放課後が台無しじゃ――んっ?」
目線を前に向けると、校門に誰かがいるのが見えた
下校時間はとっくに過ぎてるから部活の連中ももう校内にはいない
残ってる生徒は俺ぐらいだと思ってたけど……
「……まさか」
校門にいるその生徒のことが気になって、少しだけ早く歩く
遠めでもスカートだということが分かるからあそこにいるのは女子だ
校門の前にいるってことは誰かを待ってると見て間違いない
部活の奴らはもう下校して校内に残ってるのは多分俺ぐらいだ
つまり、あそこにいる女子は―――
「あー、やっぱりか」
顔が見える距離まで来たところでそんな言葉が出た
その顔は見知ってるどころの話じゃない
なにしろほぼ毎日、朝から見てる顔だからだ
「……やっと来た」
俺に気がつくと、その女子はそう言って来た
「やっと来たじゃねぇよ。こんな所で何してたんだ?」
「はぁ~、口で言わないと分からないほどバカだったの?あんたって」
会って早々むかつくことを言ってくる
なんでこいつが校門の前にいるの、正直なところ察しはついてる
でもこいつの前で素直に口にするのはなんか嫌だ
「あー、口で言われないと分からないぐらいバカだからな」
「……まったく」
そいつは呆れた感じで頭を抱えた
身体と顔を俺の方に向けると、こっちに目を向けながらそいつは言った
「あんたのことを待ってたのよ」
「なんで待ってたんだよ?」
「……それぐらいバカなあんたでも分かるでしょ」
「いやぁ、それがわっかんないんだよなーどうしようもないほどのバカだから」
そいつは顔を赤くしながらこっちを睨んでくる
言うことはいちいいちむかつくけど、こういうところは可愛いんだよなこいつは
「い、一緒に帰りたいと思ったからよ!これでどう!?満足した!?」
「くくく……あー、満足した」
笑いをこらえてると、そいつは振り返るとズカズカと音を立てそうな勢いで歩き出した
顔が赤くなってるのは、夕日のせいってだけじゃないよな、絶対
「おい、一緒に帰るんじゃなかったのかよ?」
「もういい、一人で帰る」
俺は機嫌を損ねたあいつの隣に駆け寄ってすばやく手を握った
最初はただ握られてるだけだったけど、歩いてる間に指を絡めてきた
こいつと付き合い始めて8ヶ月――どうすれば機嫌が直るのかなんとなく分かってきた
まだ不機嫌そうだけど、それでもどこか嬉しそうな彼女の手を握りながら俺は黄昏時の街中を歩いた