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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
1年生編
9/24

初授業③


 1年生の授業は、基礎知識をつけることを目的としているため、ほとんどが座学中心の授業である。

 そのため、体を動かす授業は多くの学生にとって喜ばれる授業である。



「全員いるな。いない奴は返事をしろ」


 校舎の外、だだっ広い広場に集まった学生たちを見回しながら、短髪の背の高い女の先生が言い放つ。

 この学校の先生たちは、程度の差はあれ、個性的な人たちが多い。その中でも今日まで紹介された先生たちの中で群を抜いて目立っていた。


 そんな学生たちの心境などいざ知らず、先生は話を進める。


「あたしゃ、ガジャ・オッドソン。この総合科目の担当教員だ。総合科目なんてよくわからん名前だと言われるが、簡単に言えばお行儀よく机に向かって勉強するのとは正反対だと思ってもらえばいい。基礎運動やフィールドワーク、後期になれば箒乗りの授業もあるな。授業によって担当教員は代わることもあるが、基本的にはあたしが担当する」


 ぶっきらぼうな口調で、ガジャは話を進めていく。


「さて、初回はガイダンスって言うけど、お前らは散々机と仲良くしてたんだ。外にいんのに黙って話を聞くなんてつまんないだろ?」


 ニヤリと笑い、ガジャは少し離れたところにある木箱に向かって杖を振る。すると木箱の中身だけが宙に浮かび、学生ひとりひとりの手元へと行き渡る。

 ユイの手元にも届いたそれは、手錠のように太いリング。周囲を見渡しても、みんな同じようにこれは何だという表情をしている。


「全員行き渡ったな? それを両手首に嵌めろ」


 訝しげながらも、言われた通り両手首にリングを嵌める。そこそこに重さはあるけれど、これが何のためのものなのか、分からない方が気になる。

 全員が装着したのを確認してから、ガジャはようやく説明に入った。


「今つけてもらったリングは、周囲からの魔素吸収を抑える役目を持つ。お前たちにはこれから、ここの広場を軽く30周走ってもらおうか」


 ガジャの言葉に周囲はざわめき出した。

 その反応を無視して彼女は説明を続ける。


「魔素吸収がないということは、お前たち自身の体力で走る必要がある。まぁ別に体内保存されている魔素を使ってもいいが、吸収できないから枯渇したら終わりだぞ。どっちにしろ、30周走り終わったやつから解散だ。別に途中で歩いたりしてもいいが、きっかり30周はしてもらうぞ。次の時間に授業取ってるやつは、もたもたしてると遅れるからな」


「じゃあ、始め!」と突然の号令に、学生たちは何も問う間もなく走り出す。ユイも周りの学生たちと同じように流れに沿って走り出す。


 魔素は呼吸と同じように吸収し放出している。ひとつ違うとすれば、酸素は吸収できないと息ができず死んでしまうが、魔素は吸収せずとも魔法の行使に影響が出るだけで、ないからといって死んでしまうことはない。

 だけど、その魔素の吸収がないままこの広場を走り回るとなると、体内に残る魔素循環をコントロールしたとしても、ほぼ自分の体力を使うことになる。

 非魔法使いの間では、魔法を使わず長距離を走れる人もいるそうだが、魔法が使える魔法使いはそんなまどろっこしいことはしない。


 ──これ、何のためにやるんだろう……?


 そうは思いながらも、先生にやれと言われたらやらないわけにはいかない。しかもユイは、次も授業を取っているので、遅れるわけにもいかない。

 だがユイの純粋な体力は、平均より下なので、10周も行かないうちに、かなり疲労がたまり始めていた。それでも、ユイより走れていない人たちもいるので、いかに魔法使いが己の体力のみで動くことをしていないかが伺える。


「あー、そういやひとつ言い忘れてた」


 授業も半ばに差し掛かっただろうか、突如ガジャが拡声魔法で話し出した。


「この中で3年次に探掘や魔法騎士、魔法競技とかのコースを受ける予定の奴ら。先に言っとくぞ。この授業でB以下の成績を取ってみろ。そのコースへの進級はないと思え」


 その言葉を境に、何人かの動きが変わった。かく言うユイも、そのうちのひとり。


 ──本当に、真面目に頑張らないと……!


 ここ魔法大学校は、4年になると特定の専門分野の授業がメインとなり、4年の進級前にコース選択の試験が行われる。試験は筆記・実技と1年から3年までの成績が影響してくるという。得意な科目であれば心配することはないが、苦手な科目によっては、コース選択時に不利になってしまう。

 ユイは探掘コース一択の予定なので、この授業を何がなんでも落とすわけにはいかない。

 息も上がり、脇腹も痛くなってきていたが、気合いを入れ直し走り始めた。




「よし、今着いたやつ。30周終わりだ。名乗って解散していいぞ」

「ゆ、ユイ……フェール、ディング、です……」


 ちょうど授業終了のチャイムと共に、ユイは30周を走り切った。

 先生に名乗り、両手首にはめたリングを外す。

 すると体が魔素不足を補うように、一気に体内に魔素を吸収しようとするのに合わせ、動悸も激しくなってきた。


 ──魔素の、吸収を抑えて……。


 一瞬目の前が真っ白になりかけて、ユイはその場に座り込む。

 ゆっくりと深呼吸しつつ、魔素を少しずつ循環させていると、だんだんと動悸が治まってきた。

 広場には、まだ半数ほどの学生たちが走っている。もはや歩き始めている人たちもいる中で、ユイはおそらく頑張った方だろう。

 だが授業の評価基準は全く分からないため、今後の進路のためにも油断はできない。


 ユイはある程度呼吸を整えたところで、次の授業へ向かうため、広場を後にした。




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