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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
1年生編
7/25

初授業①


 入学式の翌日。

 期待と不安が勝った人たちも、昨日の歓迎会で肩肘がほぐれ少し気持ちの余裕が生まれた。

 そして、今日からいよいよ授業が始まっていく。



 ユイは1コマ目の授業の教室に向かっていたが、その足取りは思いのほか軽かった。


 ──学校のご飯がこんなにおいしいなんて。


 食事は校舎に併設された食堂で摂る。

 朝早くから夜遅くまで開いており、学生や教師など、好きな時間に飲食を楽しむことができる。


 ユイは学校の食事は、質素なものなのだろうと思っていた。

 昨日は歓迎会という名目があったが、それ以外は基本平民が食すような料理が出てくると思っていた。貴族でもなければ豪華な食事など毎度摂ることもない。


 しかしその考えは覆された。

 日々勉学に励む学生にとって、食べるということはとても大事なことのようだ。

 しかも食事の種類も豊富なようで、毎食自分の好きなものを食べることができる。これから毎食、おいしい料理が食べられるだけでも、儲けものだ。



 少し浮き足立ったまま、1コマ目の教室へと着く。教室は前の方からだんだんと高くなっていき、教壇から全体を見渡せそうな造りになっている。ユイは中ほどの空いている席へと座った。

 さして時間も経たないうちに、授業開始を知らせるベルが鳴った。そのベルと同時に、ひとりの老女性が教室へと入ってくる。

 教壇につき、教室内をぐるりと一望したあと、老女性は言葉を放った。


「魔法言語学担当のヴァーラ・ダリデルです。初日はガイダンスとして、皆さんに魔法言語とは何かを説明しましょう」


 そう言うやいなや、ヴァーラは前列に座っていた男子生徒を指名する。


「普段我々は当たり前のように使っていますが、そもそも魔法とは何でしょう?」


 問われ、男子生徒は恐る恐る答える。


「えっと……大昔に原初の神・アテルが人間に授けた奇跡……です」

「よろしい。では、次にそこのあなた。魔法を使うのに、今私たちが話す言語が使われていないのはなぜだと思いますか?」


 今度はユイの隣に座る女生徒が名指され、緊張の面持ちで答える。


「いくつかの理由があると聞きますが、第一に原初の神が使う言語以外だと、その魔法の質・威力・安定性が著しく低下するからです。比較した際に、実に8割ほどの差が出るとされています。そのことから、魔法言語は神からの贈り物である以前に、人間が自由に変えることができるものではないという推論になります」


 声が固くなりつつも、スラスラと述べられた回答にヴァーラは頷き、再度教室内を見渡す。


「今彼らが答えてくれたように、魔法は元々神が使いし御業(みわざ)であり、それを我々人間に下賜されたことにより、魔法使いという存在が誕生しました。

 その後現在に至るまで、研究者たちにより何度も議論されましたが、結果、魔法は神が使う御言葉でのみ本来の力を発現します。もし、普段我々が使う言語で魔法を唱えるとどうなるか」


 そう言って、ヴァーラは杖を取りだし「明りよ、灯れ」と唱えた。杖の先がほんのりと明るくなっているのが見て取れる。ただし、その灯りは安定せず、強くなったり弱くなったりと明滅を繰り返す。


「ご覧の通り、意図的に魔法出力を変えているわけではなく、一定の出力を持ってみても、このように不安定な状態となります」


 変わって今度は、「明りよ、灯れ(クェイクァープ)」と魔法言語を用いて唱える。すると先ほどとは一変、明らかに安定性を持った明かりが杖先に点っている。


「違いは一目瞭然でしょう。これは何も不思議なことではなく、少し考えれば分かること。完全に対応していないのです。神から賜りしこの力は、我々人間の言語で使うようにはできていない。だから、先程のように安定性にかけた状態となります。

 魔法を使う、それ即ち、神の御業を神の代弁として扱うことを許してもらっているに過ぎないのです。

 ……皆さんは、そこを踏まえた上で、この魔法言語を学んでもらいます」




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