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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
58/62

研究旅行、そして帰郷⑤


 陽が暮れかけてきた道を5人は朝より言葉少なに歩く。

 宿に帰る前、近場の食堂へと立ち寄り夕飯を済ます。

 あっさりと夕飯を食べ、宿へと着いたのち、今日は各々すぐに体を休めた。




 翌日は、丸一日移動に使った。

 次の目的地は、ソラルジ。1か所目のケイティークより南に位置するところである。


 早めに休んだおかげなのか、昨日の疲れが抜けたユイたちは、馬車に乗りながらおしゃべりに講じる。

 途中、気晴らしと称して、ハンナが自身が乗ってきた魔獣馬に乗って移動をしていた。それを見たアストルやユイも、ユイに教えてもらいながら少しだけ魔獣馬に乗ってみたりした。


 気晴らしをしながら和気あいあいと移動をしていたためか、ソラルジの土地に踏み入ったのは、完全に日が暮れてからだった。


「さすがにこの時間だと、店は食べ物屋しか開いていないか」

「ここでも買い出しあるんだっけ。 それは明日にしたら? 開いている店に今から行ったって、そんなのんびりできないだろうし」

「それは、そうだが……」


 言いよどみながら、ギルフィはユイとアストルを見やる。おそらく彼は、後続の予定が入っている人たちがいるので、スケジュールを後ろ倒しにするのをためらっているようだ。

 その様子を察したユイが、特に問題ないと口に出す。


「1日くらい予定がずれるだけでしょう? そのくらいなら、私は問題ない。アストルは?」

「ん、俺も大丈夫だよ。それに遅れそうなら、その時に連絡の一本でも入れれば、そのあたりは問題なし」


 2人の返答を聞いて、ギルフィはすまないと一言謝ったのち、明日を一日買い出しに充てると言った。


「今回は1日、2日ほど野宿を考えている。寝袋以外は現地調達と伝えていたから、そこまで物は持ってきていないだろう。明日は野宿用も含めていろいろ準備するからそのつもりで」

「うわー、とうとうきたかぁ」


 さすがにこの日はもう夜になってから宿についたため、グレタールに魔獣馬たちの世話を任せ、4人は一足先に宿へと入って休むことにした。




 そして、翌日は買い出しがてら、時間に少し余裕ができたため、観光して回った。

 全員この町へ来るのは初めてだったため、各々見て回りたいところを巡って行った。



 そして、さらに翌日。


 しっかり睡眠も取り、各自準備を整えた状態で、宿の入口に集合した。


「ギルフィ様、本当に私はお供しなくて良いのですか? 皆さまのお邪魔にならないよう、隅の方でお役に立ちますが」

「言っただろう、グレタール。必要最低限の手だけ借りると。今回お前は、魔獣馬の世話や万が一何かあった時の連絡役として待機だ」


 出発直前となり、宿に待機を命じられていたグレタールが不満を述べる。彼からしたら、ギルフィの従者である以上、野宿だろうがなんだろうが供にしたいのだろう。だがそれを、ギルフィは突っぱねる。

 グレタールは分かりましたと承諾の言葉を口にはしたが、その表情は分かりにくいが完全に納得はしていなさそうだ。

 だが、こんなところで時間をくっていたら、今日の目的地に着く前に日が暮れそうだ。


「さて、そろそろ行くか。忘れ物はないな? グレタール、あとは頼んだ」


 ギルフィの声がけの後、ユイたち4人は丁寧に見送るグレタールの視線を受けながら、宿を出発した。


 彼らが向かうのは、ソラルジにあるシライネ山。この町近辺では、割と大きい山なのだという。

 山の入口まで、ユイたちは相乗り絨毯に乗って移動する。腕のいい操縦士だったらしく、安定した平行移動で、トラブルもなく近くの乗降場に着いた。


「結構ちゃんとしてる場所なんだな」


 アストルが山の入口を見て言う。


 普通山といっても、探掘者たちが長年かけて整備した道くらいしかなく、ほとんどが自然のままであることが多い。すなわち、人が歩くには到底適さないということだ。


 だが、ここシライネは、入り口近辺から先の方まで、人が通るには充分なほど整理された道がある。それに近くの小屋には、ご丁寧にこの山の地図まで量産されてあった。


「この公道の反対側は、森の民の領域だからな。この地域には、時折王家の人たちが来ると言う。ならば、この辺りもある程度整備されてておかしくはないだろう」


 アストルの呟きに、ギルフィが答える。

 森の民の住まいがあるということは、ギルフィ以外誰も知らなかったようで、間近に存在するその山を思わず見てしまう。


「……森の民に会ったりしない?」

「するわけないだろう。彼らとは生活圏内が完全に別れているんだ。王家と向こうの承諾がない限り、簡単に行き来すらしないだろう」


 さっさと行くぞと言うギルフィが、先頭を切って山道へと入って行く。

 未だ森の民が住まうという山に目線が奪われてたユイたちだが、先を行くギルフィと離れぬようその後を追う。


 頭の片隅に森の民のことがあったのは最初だけ。

 あとはだんだん険しくなる道のりに、ただ集中するしかできなくなった。


「今日は、中腹より少し先にある小屋辺りまで進む。そこで野宿の準備をするから」

「小屋があるってことは、誰かそこにいるのー?」

「いや、無人らしい。時折来る探掘者たちの一時の休憩場みたいなものだと聞く」


 険しい道を通りながら、気を紛らわすために時々話題が上がる。だが、急勾配な場所にさしかかれば、途端にみんなの口は重くなった。



 山を登り始めて数時間。

 大きなトラブルに見舞われるでもなく、ユイたちは目的の小屋が視認できる場所まで進んでいた。


「ギルフィが言ってたのはあの小屋?」

「場所的にそうだろう。……ここまで6時間ほどか。もう少し早く着けると思ったが」

「これ以上早くは無理だろ。暗くなる前に着けたなら良かったじゃんね」


 この時期の夜はまだ早い。

 野宿の準備を考えると、明るいうちに着けたのは良い方だろう。


 小屋を視認してからは、気のせいかみんなの足取りは速く、あっという間に小屋の前までたどり着いた。


「……見事に何もない山の中だな。景色とか居場所かと思った」

「何か小屋小さくないー? 夜とかここで寝ると思ってたんだけど」

「まるで荷物置き用の小屋だな……。中は綺麗そうだが、全員入るのは無理そうだぞ」


 ハンナが小屋のドアを開けると、中は部屋の半分ほどの領域が机で占められており、机の上や下に様々な荷物が置かれている。人が入るのでさえ、せいぜい2人がいいところか。

 どうやらギルフィたちは、小屋があると聞いて屋根のある場所で寝れると思っていたようだ。明らさまに表情に出ている。


「……とりあえず、火を起こそう。1晩持つくらいの、乾いた木をたくさん」


 ユイは自分の手荷物を小屋の中に置き、火を起こすための木を集めに行こうとする。


「……この小屋を掃除したら、中で寝れないか?」

「諦めようぜ、ギルフィ。いいじゃん、外で寝るの。天気も悪くないんだしさ」


 未だ諦めきれないギルフィの言葉を、アストルがあっけらかんと切った。彼は特段どこでも寝れれば良いタイプらしい。

 ハンナも未練があるように、少しばかり小屋の掃除をし始めていたが、途中からキリがないと思ったのか、木を集めるほうへシフトしていた。


 黙々と、野宿の準備をしていく。

 ある程度木が集まったところで、小さめの小枝を立てて組てる。今回は魔法は使わず、ハンナが簡単に火をおこせる魔法道具を持ってきたので、それを使って火をおこす。

 魔法道具に魔素を込め、小さなレバーを何度か勢いよく引く。カチカチと音がなり、レバーから先に伸びている細長い筒から火がおこる。それを小枝に近づければ、あっという間に木に火が回った。


 火が大きくなり過ぎないよう注意しながら、みんなで火の回りを囲む。

 いくら天気がいいとはいえ、この時期はまだまだ寒い。夜になれば、さらに冷えるだろう。それでも、火にあたっているだけで、ぽかぽかと温まってくる。


「まだ陽は落ちてないな。明日のことについて、先に話しておこうと思う」


 火にあたりながら、全員がひと段落ついたところで、ギルフィが早速明日の計画について話し始める。

 この数日で、次に何をするのかというのは、全員が大方理解してきたため、ギルフィの話は思ったよりも早く終わった。


「……ねえ、暗くなるまで小屋の整理してもいいー?」


 ハンナが言いながら、小屋の方に向かって足を進めた。それを聞いたギルフィも、その意図を悟ったのか、ハンナの後に続いた。


「……まだ諦めてないわけ?」

「掃除したところで、窮屈な格好でひとり寝転がれればいいほうだと思うけれど」


 外で寝ることに抵抗がないアストルとユイは、2人の姿に呆れ声をかける。

 それを気にすることもなく、ハンナとギルフィは、せっせと小屋の中の荷物を出したり戻したりし始めた。


 結果として、夕飯時になっても小屋の整理は終わらず、ハンナとギルフィは実に残念そうに外での寝食を余儀なくされた。




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