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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
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研究旅行、そして帰郷③


 予定よりも少し遅れて、ユイたち一行は宿を出発した。


 馬車内には、ユイとハンナ、向かいにギルフィとアストルが並ぶ。4人用の馬車のため、グレタールは御者席へと移った。

 そして当初から馬車を引いていた魔獣馬に加え、ハンナが乗ってきた魔獣馬も並走する形で着いてきている。


「いやあ、突然の連絡でごめんねぇ。本当は相乗り絨毯で待ち合わせ場所まで行く予定だったんだけど、操縦士が突然事故っちゃったみたいでー。代わりもいないし、私は箒乗り得意じゃないから、じゃああの子に乗って行こうって思ってー」

「そこで魔獣馬に乗って行こうってなる思考が意味不明……」


 突然の予定変更を謝るハンナに、アストルがぼそりと突っ込む。

 みんな彼女の行動力に驚きつつも、知らなかった一面のほうに驚きを隠せないでいた。


「魔獣馬をあれだけ乗りこなしているなら、魔法競技や生物学のコースに進めばよかったのでは? 鑑石コースに進むより、評価は得やすいと思うが」


 純粋に疑問に思ったのだろう、ギルフィがハンナに尋ねる。

 彼女の答えはいたって簡単だった。


「やだよー。私は趣味で乗ってるだけだもん。それに家だって姉や兄が継ぐ予定だし、両親も私に家を継げとは言わないからねー。やりたいことをやるって決めてるんだ」


 あまり納得をしている表情ではなかったが、ギルフィはおとなしく分かったと引き下がった。自分と彼女との価値観が違うということは、この2年ほどの付き合いで理解しているらしい。


 その後も途中でおやつを挟んだりしながら、他愛のない話で盛り上がる。




 どのくらい時間が経ったのだろうか。

 しばらくして、御者側の木戸が叩かれ、隙間からグレタールが顔をのぞかせる。


「みなさん、もうそろそろつきます。外を見てみてください。もうすぐ海が見えますよ」


 その言葉に、ユイたちは左右についている閉めていた小さな木戸をずらして開ける。

 先に声を上げたのは右の木戸を見ていたアストルだった。


「うわぁ、海だ……!」


 ユイとハンナも左の木戸を閉め、左の木戸の隙間から外を眺める。


「わぁ、今日はきれいに見えるねぇ」

「あれが海……」


 手前に連なる町の風景のその奥に、地平線まで伸びる大きな海が見えてきた。

 太陽に反射して、波がきらきらとして見える。

 ユイは話では聞いていたが、実際に海を目にしたのは初めてだった。自分が想像していたよりも広く大きなその景色に、思わず言葉を失う。


 一行が乗る馬車は、次第に速度を落としていき、外の景色から海が見えなくなったところで停止した。


「みなさん、お疲れさまでした。本日の宿に到着いたしました。この後魔獣馬を預けに移動しますが、ハンナ様の魔獣馬も同じ場所にお預けしてよろしいでしょうか」

「あ、いいんですかー。じゃあ、お願いしちゃいます。この子、好き嫌いは特にないから、大丈夫だと思うけど」

「かしこまりました」


 全員の荷物を馬車から降ろし、4人は先に宿の中へと入っていく。

 各々の部屋に荷物を置いて、またすぐに宿の前に再集合した。


「さて、今は14時を過ぎた頃みたいだが、先に明日のためにいくつか買い物を済ませてしまいたい。そののち、改めて明日の動きを確認したいのだが……」

「なぁなぁ、買い物なら港町のほうに行こうぜ。そしてついでに、新鮮な魚介とか食べたい」

「あー、そうだ。みんなは今日の夕飯はもう決めてる? もしまだなら、私いいところ知ってるから、そのお店で夕飯ってどう?」

「そこって生の魚はある?」

「確か出してるはずだよー。ねぇ、ギルフィとユイもいい?」

「私は、いいよ」

「……なんでもいいから、話を進めてもいいだろうか」


 テンションが高いアストルとハンナのやり取りに、ギルフィが軽くため息をつく。

 まるで先生と学生の付き添いみたいだと内心思いながら、ユイはその様子を静かに見守る。

 先の夕飯の話で盛り上がる2人をたしなめながら、ギルフィは何とか今後の予定について話を進めていった。




 ギルフィが今後の話を語り終え、4人は買い出しのために港町へと降りてきた。


 塩の町・ケイティーク。

 商店が並ぶ区域を歩いていると、時おりそのような看板が立っているのがちらほらと目に入った。


「なぁ、ギルフィ。塩の町って呼ばれているのか、ここ」


 アストルも気になったのだろう。隣を歩くギルフィに尋ねている。


「結構有名だよー、この港町。アークレイリ王国で出回っている塩の約8割は、ここケイティークで作られているからねぇ」

「ケイティーク産の塩は質もいいし、庶民から上流貴族まで手に入れやすいからな。王宮に献上もしているじゃなかったか?」


 ハンナとギルフィが各々の知っている情報を話してくれた。ユイもその話は知らなったたので、素直に感心して聞いていた。


 見慣れぬものも多く並び、歩きながらつい目移りしてしまう。

 買い出し用の目的の店を見つけた頃には、アストルは何ヶ所か露店で食べ物を買っていた。


「この魚を練って焼いたやつ、これすごく美味しい!」

「食べ物持って店に入るなよ。というか、そんなに食べて夕飯食べれるのか?」

「これはおやつだから大丈夫。ギルフィも食うか?」

「いや、俺は遠慮しておく」

「……ちょっと食べてみたい」

「あ、じゃあユイにはさっき買った方やるよ。まだ温かいよ」

「えー、ハンナの分はー?」

「え、さっきいつも食べてるからいらないって言ってたじゃんか!」

「…………みんなの手に持ってるものがなくなってから、店に入るからな」


 呆れ顔でため息をつくギルフィ。

 大変そうだなと横目で思いながら、ユイはアストルからもらった食べ物を口にした。




 全員の手から食べ物がなくなってから、目的の店内に入る。

 その店は、魔法道具を多く扱う店のようで、見知ったものから初めて見る形状のものまで多種多様に取り揃えられていた。


 ここには主にギルフィの用で立ち寄った。彼が店員に物の在処を聞いている中、ユイたちは各々店内を見て回ることにした。

 たくさんの魔法道具に、ユイはひとつひとつ興味深く見ていく。中には用途が分からない代物もあり、いったい誰が使うのだろうと首を傾げた。


「ユイ、そろそろ出るぞ」


 ゆっくり見すぎて、まだ店内の半分しか見て回ってないが、買い物を終えたギルフィが声をかけてきた。


「買いたいもの、あった?」

「いや、なかったが、代わりのものを見つけた。多分大丈夫だろう」


 どうやら目的のものはなかったらしい。それでも満足気な様子なので、いい買い物ができたのだろう。


 ユイはギルフィと共に店の外へと出ると、既に外に出ていたのかアストルとハンナがいた。


「待たせた。買い物はこれで終わりだが、これからどうする? 1度宿に戻って、先に明日の話でもしてしまうか」

「あ、それじゃあさ、少し早いけど夕飯にって思っていたお店行くー? 個室もあるところだから、空いてたらそこで話すればいいと思うんだー」


 ハンナの提案に反論はなかったため、4人はハンナの案内の元、その店へ行くことにした。



 港町のど真ん中。向かいには海が広がるその場所に、ハンナがオススメする飲食店があった。


 店内に入ると香ばしい匂いが鼻をくすぐり、自然とよだれが口の中に広がる。

 まだ夕方には早いが、店内は半分以上人でうまっていた。


 現れた店員に、ハンナが対応する。

 運良く個室が空いていたようなので、ユイたちは案内のもと、個室へと踏み入った。


 まずは各々飲み物だけを頼み、食事前にやることを済ませてしまう。


「事前に説明はしたと思うが、改めて明日以降の予定について話すぞ」


 ギルフィが事前に用意していたのだろう、地図を取り出して、分かりやすく説明をしていく。

 途中でいろいろと口を挟みながらも、全員大まかな段取りは頭に入った。


「……まぁ、あとは現地に行って、臨機応変に対応する感じだな」

「きっとほとんど、そんな感じだと思うけどねー」

「だとしても、事前確認は大事だろ。明日、忘れたとは言わせないぞ」

「大丈夫だって。それより……確認事項はもう終わりだよな? なら早く飯食おうぜ」


 アストルが待ってましたとばかりに、テーブルの隅に寄せていたメニュー表を手に取る。さすがにこのいい匂いが漂う中、お預けを食らうのはきつかったらしい。

 ギルフィは呆れ顔を向けていたが、話が終わったということもあり、それ以上は何も言わず、一緒にメニュー表を覗きみた。


「なぁ、ハンナ。生魚はどれ?」

「えっとねー……これ、かな。あ、私はこのミートパイ食べたい。ユイはどうする?」

「どうしよう……あ、この果物焼きっていうの気になる」

「待て、ユイ。どう見てもそれはデザートだろう。先に食事をしてから頼むものだ」

「いいじゃん、せっかく外で食べるんだよー。好きなの頼もうよ」

「いや、だからと言って、初手にデザートはないだろう」


 各々料理を頼んだあとも、主にアストルとハンナが中心となって、会話に花が咲く。

 学校外ということもあり、みんなどことなく浮き足立ったような、いつもよりも開放感がある状態でどんどん会話を続けていく。


 たまには、こんな日もいいかもしれない。


 ユイはそう思いながら、いつもより楽しげにみんなの話に交じっていった。




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