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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
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研究旅行、そして帰郷②


 馬車の小窓から見える風景が、王都の街並みから自然豊かな木々が並び立つ景色に変わり始めた頃。

 ユイたちはギルフィの従者の話から、今後の旅行の日程についての話にシフトしていた。


「まず行くのは、王都から東にあるケイティークっていう地域だっけ」

「あぁ、さすがに今日中には着けないから、今日はその手前の町で宿をとる。そして明日、道中ハンナを拾いながら目的地へと行く手はずだ」


 今回の研究旅行で向かう場所は、合計5か所。

 そのうち前半の2か所を4人で訪れることになっていた。


「ハンナの家って、東部のほうにあるんだな。俺初めて知った」

「最初に行く場所は、少し移動すれば海も見える港町があるらしい。時間があれば、そちらにも足を運んでみるか?」

「え、そうなの? 行きたい! 俺、新鮮な魚食ってみたい。港町に住んでいる人は、生の魚を食べるんだろ? 学校じゃあ、焼いた魚しか出てこないからさ、一度でいいから生の魚を食ってみたいって思ってたんだ」


 アストルが目を光らせて言う。

 食に関しては、さして興味がないのでそういった情報はほとんど知らないに等しいが、アストルがそこまでいうのであればさぞかしおいしそうなのだろう。

 最近ユイは、甘いもの以外にも、少しずつ興味をそそられる食べ物について挑戦している。この機に、その地域でしか食べれないものを見つけてみるのもいいかもしれない。


「時間はあるから立ち寄るくらいはできるだろう。時間を見て、のぞいてみるか」

「よっし! 俄然楽しみになってきた」


 アストルが両腕を上げて喜ぶ。

 以外にも幼いその仕草に、グレタールが微笑ましそうに見やる。

 ギルフィは落ち着けとアストルをたしなめながら、旅程の話を続ける。


「俺以外の3人は2番目の目的地……ソラリュージュへ向かったら解散でいいんだよな?」

「うん。ギルフィはその後南のほうに進んでいくんでしょ? 私は北のほうに行くから、その場所で解散で問題ない」

「俺はその次の目的地にはいかないけど、途中まで一緒に行こうかな。移動金はなるべく抑えたいし。いい、ギルフィ?」

「あぁ、構わない。こちらは一緒に来てもらっている立場だからな。予定変更になったらいつでも言ってくれ」


 旅程の話をしつつ、途中話の内容がずれたりしながらも、気づけば一行が乗る馬車は本日泊まる宿へと着いていた。


 こうして1日目は、移動だけで時間が過ぎていった。





 ──翌朝。


 遠くから9時を知らせる大鐘の音が聞こえてくる頃、ユイたち4人は宿の入り口に集まっていた。


「みなさん、おはようございます。よく眠れましたでしょうか?」

「俺はどこでもすぐに寝れるので、体調はばっちりっす」

「野宿向きだよな、その感覚……。いつもより寝床が固いから、体中が痛い」

「同じく。でもこれから野宿も込みで日程を組んでいるんでしょう? それなら、屋根があるだけましと思えば」

「いや、それはそうだが……」


 ギルフィがしかめっ面をしながらぼやく。珍しいその姿に、アストルは隣でちょっかいをかけていく。


「そ、それにしても、ハンナが待ち合わせ時刻を指定してきたのに、一向に姿が見てえないな」


 空咳をひとつして、ギルフィが話題を逸らす。


 昨夜遅く、ハンナから伝言蝶が飛んできた。

 本来の待ち合わせ場所は、宿より少し先の大きな街道に出たあたりだったが、急遽ハンナ自身がこの宿まで来ると言ったのだ。

 途中で拾おうがここで待ち合わせようが大差はないため、急いで返事を送り返した後、今に至る。


「そもそも、連絡が来たのは夜だよな? ここからハンナの家って、すぐ来れるくらい近いの?」

「さぁ……。でもそうじゃなければ、わざわざ連絡よこさないと思うけれど」


 彼女の思惑は分からないが、ここは待つしかない。

 馬車に荷物を詰め込み、ユイたちはその近くでハンナを待つ。


 さして時間が経たないうちに、宿の前をのびる公道から、1匹の馬が走ってくるのが見えた。


「あれ、魔獣馬じゃないか?」

「他のお客さんじゃない? ここに泊まる人とか」

「いや、あの魔獣馬、荷台を引いていないぞ」

「え、脱走? ……ん、待って。人乗ってるような……って、あれ、ハンナじゃないか!?」


 アストルが驚きの声をあげる。

 ユイとギルフィも思わず目を凝らすが、まだ距離があるため、正確には分からない。


 だが、すぐにそれが間違いなく本人だったと知る。


「ごめんねぇ。本当はもう少し早く着く予定だったんだけど、思ったより距離があったみたいでー」


 魔獣馬から軽々と地面に降り、いつも通りに挨拶するハンナに、ユイたちはただ呆然とその姿を見る。


「……ハンナ、魔獣馬に乗ってきたのか?」


 ようやくギルフィが我に返り、咳払いの後に尋ねる。


「そうだよ? この子はねぇ、そこまで速い訳じゃないけど、持久力があるから長距離を走るにはいいんだよねー。あ、どこかに水桶あるー? さすがに朝から走りっぱなしだから、水飲ませてあげたいなぁ」

「いやいや、それよりも、ハンナが魔獣馬に乗れるって聞いたことないし! というか、その馬ってどこから持ってきたのさ。馬車用以外の魔獣馬って見たことないけど」

「あれー、言ってなかったっけ。私の家、魔獣専用の牧場をやってるんだー。と言っても、前線を退いた魔獣たちを預かるほうだけどねぇ。この子は、うちの魔獣馬だよ」


 そう言い、乗ってきた魔獣馬の体を優しく撫でる。


 基本的に魔獣馬は、馬車として活用されているが、それ以外にも活躍の場がある。

 魔法競技がひとつ、魔獣馬走だ。

 その名の通り、魔獣馬に乗り、その速さを競う競技である。

 だが彼らにも年がある。前線で活躍できなくなった魔獣馬たちは、引退後各地にある牧場へと預けられる。

 どうやらハンナの生家は、そんな魔獣馬たちを世話する役割のある牧場を営んでいるらしい。


 学友の知らなかった姿に驚く面々に気付いているのかいないのか、ハンナはテキパキと乗ってきた魔獣馬に水を飲ませて餌を与える。

 そしてそれらがひと息ついた頃、ハンナはようやくユイたちの方を向いた。


「遅くなってごめんねぇ。準備ができたから、早速行こうか」






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