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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
54/62

研究旅行、そして帰郷①



「おーい、ユイ!」


 学校門近くで待っていたユイは、少し離れた場所から声をかけてきたアストルに小さく手をあげる。



 試験から数日が経ち、各々の進退がはっきりと分かれた頃。

 ユイたちはかねてより誘われていた、ギルフィの研究旅行に同伴するため、学校門前で待ち合わせをしていた。



 ユイを含め、ギルフィ、ハンナ、アストルは、無事自身の選択したコースに合格していた。

 ユイが選択した探掘コースは、100人超えのエントリー数だったが、実際に合格したのは20数人。かなりの倍率となっていたようだ。

 探掘コース筆記試験の成績は公表されたけれど、実技試験の審査基準は分からないままのため、何をもって合格となされたのか釈然としないところもあるが、合格は合格に違いない。

 ユイは大きな分岐点を通過することができて、ひとまずほっとしていた。



「あれ、ギルフィはまだ?」

「まだ来ていないみたい」


 そして今日。ギルフィ主体の研究旅行に旅立つ。

 ハンナはいったん家へと帰っているようで、明日道中で合流する予定となっている。

 ユイとアストル、ギルフィの3人は、学校から一緒に目的地へ向かう手はずとなっていた。


 校門前で待ち合わせをしていたのだが、まだギルフィの姿は見えていない。

 ユイとアストルは、ギルフィを待ちながら、ぽつりぽつりとこの前の試験についてを語り合っていた。




「すまない、2人とも。待たせた」


 待ち合わせ時間を少し過ぎた頃、走ってきたのだろう、軽く息を切らせたギルフィが現れた。


「珍しい。ギルフィが待ち合わせに遅れるなんて」

「すまない、少しいろいろとあって……」

「大幅に遅れたわけじゃないから、特に問題ないと思う」


 各々少し大きめの荷物を持ち直して、早速校門のほうへと向かう。

 門番に外出届の申請をしている中、離れたところから「ギルフィ様」と呼ぶ声が聞こえた。


「遅くなり申し訳ございません。手配のほうが整いました。さして時間もかからず、こちらに向かわれるとのことです」


 ユイたちの元にやってきたのは、長身で長い髪を一つにまとめた年若い男性。ユイたちと年が近そうに見えるが、その立ち居振る舞いはかなり年上としての貫禄が見受けられる。


「グレタール、助かる。お前も手続きが必要だろう。先に済ませて、誘導しておいてもらえるか」

「はい、かしこまりました」


 ギルフィと顔見知りらしい男性は、ギルフィの言に従い、ユイたちより先に申請手続きを澄ましていく。


「……えっと、ギルフィの知り合い?」


 アストルが困惑した表情で尋ねる。ユイも突然現れたこの男性は何なのか、多少気になっていた。


「あぁ、そうだ。そのことで2人にも話したいことがある。道中時間もあることだし、移動しながら説明してもいいだろうか」


 そう言いながら申請の手続きを進めていくギルフィ。ユイとアストルは一瞬お互いの顔を見合わせた後、分かったと手続きのほうを進めていった。





「お初にお目にかかります。わたくし、ギルフィ様の身の回りのお世話を仰せつかっております、グレタールと申します。以後、お見知りおきを」


 外出の申請が終わり、校門の外へと出る。しばらくすると、立派な魔獣が引く馬車がユイたちの前にやってきた。どうやらギルフィが手配してくれた馬車のようで、各々挨拶をして乗り込んでいく。


 馬車が動き出したところで、早速ギルフィが一緒に乗り込んできた男性について説明をしてくれた。


「本当はクルトが一緒についてくる予定だったんだが、試験に落ちてしまったんだ。さすがに俺も想定外で、侍従をつけずに旅行に行くというと、あとで親がうるさいのでな。悩んだ末に、グレタールに頼むことになったんだ」

「ギルフィ様ひとりで外出させてしまえば、わたくし共がご両親に叱られてしまいます。皆様の旅行を陰ながら手助けさせていただきますので、どうぞおふたりもわたくしはいない者としてお接しください」

「は、はぁ……」


 ひとまず、ユイとアストルも挨拶をする。

 事前にクルトが同行すると聞いていたため、代わりの人が来るとは思ってもみなかった。しかも相手は完全に初対面である。ユイもアストルも、困惑せずにはいられない。


「つうか、ギルフィがお貴族様だってこと、俺すっかり忘れてたわ……」

「あの、さっきあなたも外出申請してたと思うんですけど、普段から学校の敷地内にいるんですか?」


 ユイは先ほどの光景を思い出す。

 校門を行き来する場合は、学生以外でも、都度門番のところで申請手続きを行わなければならない。

 申請にもさまざまな種類があり、外出申請については、学生同様普段から学校の敷地内で過ごしている人たちしか行わない申請である。

 ユイの質問に、グレタールはそうだと答える。


「え、学生……じゃないっすよね?」

「はい、学生とは違います。わたくしはギルフィ様の侍従として、学校の敷地内に滞在することを許可いただいております。貴族の方でしたら、割と多いのではないでしょうか。ただ寮や学校内への無断立ち入りは禁じられておりますので、普段は娯楽施設の手伝いをさせていただきながら過ごしております」


 貴族は従者を伴うことが多い。

 だいたい年が近しい者がつくことが多いため、レースヴィーグ大学校では、ギルフィやクルトのように、主従で学校生活を送る者たちもいる。

 だがもちろん、年が離れていたり、従者まで学校に通わせる余裕がない家もある。

 そういった際、学校側に申請を出せば、同じ敷地内に入ることは許される。それでも自身の生活する場所は自分で見つけなれけばならず、ともに学校に通うよりはハードルは高い。


 グレタールは年齢的には10歳くらいは離れいていそうだが、その身のこなしは熟練の従者のように見受けられる。さすがにその年齢では、学校への入学資格はないだろうから、後者の方法で学校の敷地内にいるのだろう。


「てか、このことをハンナには伝えてるわけ?」

「今朝がた伝言蝶は飛ばしたが……大して時間差がなく届く可能性もあるな」

「つまり、文句の一つ言う間もなく、半ば決定事項で伝えられるわけね」

「それはこちらの手違いのせいだから、謝るしかできないな……」


 いつの間にか馬車は適正速度を保ちながら王都を走り抜けていく。

 主にグレタールの話をしながら、一行は今日の目的地に向かって順調に走りを進めていた。

 


 

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