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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
53/55

コース選択試験④


 翌日──。


 何人かのグループに分けられての実技試験。

 ユイは一番最初のグループに選ばれていた。

 周囲を見回していると、ギルフィの姿は見当たらない。どうやら彼は別のグループに割り振られたようだ。


「全員そろったな。これから試験の説明をする。よーく聞いておけ」


 ガジャが集まった学生を一瞥しながら、今日の試験の説明を始めた。


「まず、昨日告知したように、お前たちには今から裏山で魔石探掘を行ってもらう。制限時間内に魔石を見つければ、その時点で試験は終了だ。見つけられなくても、制限時間が経ったら終わりだ。

 魔石はこっちで適当な場所に埋めておいた。一応伝えとくが、魔石はどれもランクE以下のものだ。お前たち3年は、実習で魔石を触らせてないからな、見つけても魔石には触んじゃねぇぞ。お前たち一人一人に上級生をつけるから、そいつに言え。上級生は、魔石と確認できた時点で、試験終了の合図を知らせろ。以上だ」


 いくら魔石に触れさせないとはいえ、実際の魔石を探すという行為自体、ここにいる3年生の中でどのくらいが経験しているのだろうか。周囲を見回しても、多くの学生が、その顔に不安をにじませていた。

 そんな学生たちの様子などお構いなく、ガジャは上級生たちへの注意事項等を説明していく。


 それらがすべて終わったのち、ユイたち3年生にそれぞれ上級生が割り当てられた。


「よろしく。俺のことはいない者として、試験していっていいから」


 ユイの担当は5年生の小柄な男子学生。お互い簡単に挨拶を済ませる。


 各々が上級生とコンタクトを取ったところで、いよいよ試験が始まる。


「お前たちへの支給品は、そのポシェットのみだ。これから各自場所を移動してもらう。制限時間は2時間。こっちから合図をしたら、試験スタートだ」


 スタート位置は、全員バラバラのようだ。上級生が知っているということで、各自移動を始める。

 ユイの場所は、いつも授業で登る入り口とは真逆の位置のようだった。



「全員位置についたな。それでは、探掘コース実技試験、これよりスタートする」



 ガジャの覚醒魔法の掛け声の後、上空でバァンと音が鳴った。

 それを合図として、ユイは山の中へと足を踏み入れた。




 支給品は、この裏山の地図と少しの飲み水。そして、救援信号。

 ユイは早速地図を取り出し、自分の位置を地図上にマッピングしていく。

 授業で何度か入ったことはあるけれども、それはあくまで山での動きに慣れるためと言ってもいいだろう。今回は魔石を見つけなければならないので、いつもとは違う道を通ることも視野に入れなければならない。


 ──そもそも、この試験の基準が分からないのが少し不安……。


 試験内容は分かったが、何を基準として合格となされるのか、それについては公表されていない。

 魔石を見つけた時点で試験終了ということだが、もし見つけられず制限時間が終わってしまったら、不合格となってしまうのだろうか。

 そうなると、魔石を見つけることは最低限必要となってくる。


 上級生は本当にただユイの後ろをついてくるだけらしく、特に会話があるわけでもない。

 おそらく、3年生で扱わなかった魔石に触れさせることがないよう、監視の意味を込めてつけられたのだろう。彼に何か聞いたところで、きっとガジャが話していた以上の試験のことについては聞き出せそうにない。


 ユイは気を取り直して、いつも課外行動で行っているように、広い場所へと向かいながら、魔石がありそうな痕跡や場所に目星をつけていく。

 おそらく今回の魔石は、自然生成ではなく、人の手によって隠されたものだろう。そうでなければ、ランクの高い魔石が混ざっていてもおかしくないし、そもそも魔石が試験人数分自然に生まれているとも考えにくい。


 ユイは慎重に山道を歩いていく。

 途中、いくつかの魔獣の巣を見つけた。どれも魔獣個体としての危険度はないが、この時期は抱卵や出産時期と被るため、下手に刺激をしたら集団で襲い掛かられる危険性がある。

 なるべく魔獣の巣にも近寄らないような道を選び、慎重に歩いていく。



「ぎゃーっ!」


 しばらく歩いていると、突如人の悲鳴が聞こえて、思わず体を固くする。しかも割と近い場所から聞こえたきがした。

 ユイは咄嗟に感知領域を周囲にめぐらす。そこまで広い範囲を感知できるわけではないが、何が起きたのかだけは知っておきたかった。


「ただ足を滑らせただけみたいだ。魔獣が出たわけでもないから安心しな」


 今まで口を挟むことのなかった男子学生が、目を閉じ、杖を自分のこめかみに向けて伝える。

 おそらくその様子を見るに、何かしらと視界共有をしているのだろう。そこで今起きたことを教えてくれたに違いない。


「……ありがとうございます。教えてくださって」

「いいえ。まあこの時期活発な魔獣はそうそういないだろうから、安心して試験進めていいと思うけど」


 助言ともとれるような言葉に、ユイは素直にお礼を言う。

 ただの監視役と思っていたけれど、どうやら全く手を貸さないというわけでもないのかもしれない。




 ユイはマッピングをしながら、道をどんどん歩いていく。

 先ほど遠くから鐘の音が聞こえてきた。おそらく試験開始から1時間は経過したのではないだろうか。


 ──ひとまず、地図の下側については大方マッピングできたかな。


 手元の地図を見て、大きく頷く。

 限られた時間で、全てをマッピングするのは不可能だ。今回はおよそ地図の下部から魔石を探そうと決めていた。ここまでは若干の誤差はあれど、想定内の動きができている。


 ──問題は、魔石がどこにあるかなのだけれど……。


 この試験では、先生たちが予め埋めた魔石を探す必要がある。

 自然生成されていれば、何となく目星もつけられるのだが、人の手となるとそうともいかない。簡単に見つけられる場所にあればよいのだが、そう甘くはないだろう。


「うわ、結構真面目にマッピングしてんだ」


 次の行動を考えていたら、突如真後ろから声をかけられ反射的にビクッと肩が動く。

 声をかけてきた当の本人は、ユイの様子よりと手元の地図に興味を示していた。


「君、探掘初心者じゃないでしょ? 授業だけ受けてた人が、ここまでキレイにマッピングできるわけないし」

「……課外行動で、何度か」

「あぁ、納得。サークル入ってるなら、できなくもないか」


 今まで道中、ほとんど話さなかったのに、急に声をかけられて驚いた。そんなユイの様子を見て、上級生は「もう邪魔しないから、進めていいよ」と1歩身を引いた。

 いきなり話しかけられ驚いたが、気を取り直して思考を戻す。


 少しの間考えていたけれど、 結局いつも通りに対応するのが早いだろうという結論に至った。


 ユイは地図の下方、平らな場所が多いところに焦点を当て、そこに向かって歩き出す。

 少し歩くと、ちょうどよく作業ができそうな平らな場所へと出れたので、ここ周辺で魔石を探すことを決めた。


 ──誰かが来た形跡はないから、見つかる可能性はある。


土よ、形どれ(ブアティール)


 ユイは魔法で、中太の棒を作り出す。土で作ったものなので、木よりも脆いが、一時的に使う分には問題ないだろう。

 そしてその棒を、適当に地面へと突き立てた。


 地中に埋まった魔石を見つける方法はいくつかある。

 最もよく使われるのは、魔素探知機と言い、魔素に反応する魔法道具を用いたり、自身の感知領域内で反応する魔素から割り出す方法だ。


 しかし今回の試験では、魔法道具の提供はない。それに感知領域で探すには、かなり精度の高い魔素の扱いが必要となる。間違ってたくさんの魔素を使おうものなら、魔石がその魔素を吸い取り、より危険度が増すからだ。


 そのため、そのいずれも使わない方法となると、地道に手作業で掘り進めていくしかなくなる。

 今回は人の手が加わっているので、そこまで深い場所に魔石はないだろうと見越しての対応だ。


 ユイは慎重に、だけど大胆に、ざっくざくと周囲の土に棒を突き刺し、表面の土を柔らかくしていく。

 ある程度柔らかくなったところで、今度は土をすくうための硬めの平板を創り出す。それで土をすくい、地中にある魔石を探していく。



 なるべく慎重に、でもスビードは落とさずに、黙々と地面を掘り続ける。


「……あっ」


 平板が何か硬い物にぶつかった。割れてはいないだろうが、気をつけながら、その周辺の土を取り除いていく。

 土を払い除けたそこに、手のひらくらいの大きさの石版があった。


 ──魔石……で、いいはず……。


 ただの石ではないはずだが、これが魔石であるという判別は瞬時にできなかった。課外行動で探掘の流れはひと通り覚えたとはいえ、本物の魔石を見た回数は、圧倒的に少ないのだ。


「何、見つけたの?」


 上級生が後ろから覗き込むように尋ねてきた。


「は、はい、多分……」

「りょーかい。触んないで、ちょっと待ってて」


 そう言って、いつの間にか手に持っていた巻物に、何かを書き込んでいく。

 少しして書き終えたのか、巻物をくるりとまとめ、「巻物よ、動け(ファイーラ)」と魔法を唱える。巻物は1度ぶるりと震えると、そのままどこかへと飛んで行った。


「お疲れ様。君の試験はこれで終了。このまま山降りて、借り物の荷物返したら帰っていいはずだよ」

「あ、はい……分かりました」


 まだ試験時間は残っているのだろう。

 ぬるりと終わった実技試験に、ユイは何の感触も見出だせず困惑する。

 上級生も、じゃあと言って、スタスタと山を下っていった。


 これ以上、ここにいても仕方がないので、ユイも彼の後を追うように山を下っていった。






 こうして何とも言えない感じで終わったコース選択試験。


 この実技試験の2日後、各々に知らされた試験結果で、多くのものが落胆の息をついたのだった。





 




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