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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
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コース選択試験③



「あら、旅行だなんて、楽しそうじゃない」


 夜、隠し部屋にて勉強をしていたユイ。

 小休憩を挟み、その間にフレインとイサクに休暇の予定について話していた。


「旅行と言っても、向こうの研究旅行に着いていくってだけです」

「だとしても、よ。いろいろ出かけられるのは、学生のうちじゃない。それにしても、ユイちゃんに旅行に行くような友だちができて、あたし安心したわ」

「……おい、お前はこいつの親かよ」

「あら、イサクだってそう思わない? 1年の頃のユイちゃんと比べたら、ちゃんと同学年の子たちとも馴染めてるようで良かったわ」


 親が子を褒めるような口ぶりに、イサクは小さく嘆息する。

 ユイはその様子を見ながら、自分に友だちができていたのかと内心驚く。


 生まれてこの方、友だちというものが出来たことはない。隣にはレイが居たけれど、彼は身内で、姉弟だから、友だちとは違う。

 入学したての頃、馴れ合うだけの存在なら要らないとも思っていたはずなのだが──。


 ──ハンナたちとの関係を友だちと呼べるなら……悪くは、ないのかも。


 よく一緒にいるメンバーを頭に思い浮かべ、1年の頃の自分の言葉を訂正する。

 ハンナやギルフィ、アストルたちとのほどよい関係が続くのならば、友だちがいるというのも悪くはない。


「それはそうと、そもそも試験に受からないと、旅行にも行けないだろ」


 感慨深そうにかみしめているフレインに向かって、イサクがごもっともな意見を言い放つ。

 それはユイがギルフィへと言った言葉そのままだった。


「ユイちゃんなら、大丈夫でしょう。頑張っているのはみてきているから。筆記試験に関しては、あたしは何も心配していないわ」


 だから自信をもってというフレインに対し、ユイは素直にうなずき返す。去年実際に受けた先輩がそう言うのであれば、少しは自身を持ってもいいのだろう。


 ただ、問題は実技試験のほうだ。


「実技はねぇ……先生の気分によって毎回変わるから。今回は何が来るかわかったもんじゃないよ」

「俺らの代は、グループ試験だったな。4、5人のグループで丸一日見知らぬ土地で過ごす……だったっけか」

「そうそう。それだけじゃなくて、各々のグループに別途課題も付されてたから、地味に大変だった記憶が残ってる」


 噂では聞いていたが、探掘コースの実技試験は、事前に備えようがないという。

 毎年先生の気分により──その多くが担当教員ガジャの気まぐれと言われている──課題が異なる。

 ユイも探掘や山登りなどに関わる知識は備えてはいるが、試験でそれが発揮できるかと言われれば怪しい。実技試験に関しては、先輩方曰く、ぶっつけ本番で取り掛かるしかないのだという。


「……無理難題がないといいですけれど」

「それは……何とも言えないわね。こればかりは、あたしたちも力になれないから」

「実技試験の前日には、内容が公表されるだろ? それを見てからできる限りの対策をするしかないな」


 先輩たちの意見に、ユイもこればかりは仕方がないと頷き返す。

 それよりもまずは、目先の筆記試験を乗り越えなければならない。


 小休憩と言いつつ、思ったよりも休んでしまったので、ユイは改めて身を引き締めて試験勉強へと取り掛かった。






 そして、とうとう3年生は、コース選択試験の日を迎えた。


 何十とあるコースの中、その内のいくつかが本日筆記試験を行う。

 筆記試験は、丸一日使って行われるため、夕方にはほぼ全員がフラフラになって教室を後にする。


 ユイも例に漏れず、すぐにでも体が糖分を欲していたため、筆記試験終了後、すぐさま食堂へと向かった。

 食堂でユイの好物のひとつ、乾燥果物の寒天があったので、ボウルいっぱいに盛り付ける。そして席に着くやいなや、すぐさま食した。


「……ふぅ」


 早食いは良くないと分かっているものの、さして時間がかからずに、あっという間にボウルが空になる。


 そして記憶があるうちに、今日の筆記試験の自己採点を行う。


  ──結構できた感触。


 全体的に出来た方ではないだろうか。自己採点をしていっても、前後はあれど悪くない点数だ。


 ──あとは、実技がどうなるか……。




 そして数日後、探掘コースの実技試験前日に、その内容が発表された。


「コース選択試験で、実際の魔石を探掘ですって!?  先生たち、本当に許可したの!?」


 隠し部屋に行き、すでにいたフレインとイサクに今回の試験の内容を伝えると、フレインはありえないと声を上げた。


「フレイン、うるせぇ。言いたいことは分かるけど、少し声落とせ」

「無理言わないで。3年生に魔石を取り扱わせようっての? いくらランクが低いとは言え、今後の魔法使いとしての人生にすら影響する可能性あるのに?」

「俺らと1個下で、授業内容変わることもあるだろ」

「そこまで大きく変わらないと思いますけど……」


 下級生は、授業で魔石を取り扱うことはない。

 もちろん、実際の魔石を遠目で見るくらいはあったが、十分な距離を取り、魔石の周囲には幾重もの防護魔法が張り巡らされた状態でだ。

 総合科目の探掘概論ですら、あくまで探掘する上での動き方のみ教わっており、実際の魔石には触れていない。


 授業に関係なく、課外行動等で魔石を取り扱う分に関しては、下級生も禁止されていない。

 とは言え、課外行動で魔石を扱うなんてことは、ほとんどないに等しい。


 それなのに、今回の3年生の試験で、実際の魔石を扱うということが、どれだけ異質なのかが分かる。


「全員一気に行うんじゃなくて、何人かに分けられるみたいです。それで上級生も一緒につくとは聞きました」

「だとしても、万が一があるじゃない。いくら自由で自主性が尊重されるとしても、今回は授業と変わらない。危険なことに変わりはないのよ」


 フレインの言い分はごもっともだ。

 だが、だからと言って、明日の試験内容が変わるとも思えない。

 

 ユイ自身、この試験内容に一抹の不安を覚えながらも、明日の試験に臨むしかないと思った。





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