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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
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コース選択試験②



 今までの気苦労がどこへやら。

 ニーナが学校を去ってから、余計な雑音を気にせず日々を過ごすことができたのは、ずいぶん久しぶりのように感じる。


 試験勉強にも精が出て、試験日まで刻々と時間が迫る中、充実した毎日を過ごしていた。




 そして今日、コース選択試験前最後の成績表が配られた。各々この成績をもとに、自分が希望するコースの試験にエントリーを行う。


 ──問題なく探掘コースを受けられそうでよかった。


 ユイは成績表を受け取り、教員棟から食堂へと向かっていた。

 授業は周囲に比べるとかなり取っているほうなので、成績も得手不得手によって割と差がある。それでも、探掘コースに必要な授業の成績だけは、軒並みA評価をもらっている。

 まずは第一関門を突破できた。本番はこれからと、気を抜かないよう己に戒めながら、食堂の入り口をくぐる。


 いつもの席には、まだみんなの姿は見えない。

 ユイは小腹がすいたので、スコーンをいくつか皿にとって席につく。

 スコーンをつまみながら、今後の予定を整理していると、ハンナとアストルが一緒にこちらにやってきた。


「ユイ、成績表もう見たー?」

「うん、見た。問題なかったから、探掘コース試験にエントリーしてきた」

「え、もう? 期日までにやればいっかって思ってた」


 2人もいつもの席に腰を下ろし、ユイが持ってきたスコーンに手を伸ばす。


「ハンナとアストルは、問題なく自分の希望コースに行けそうなの?」

「私は何とかね。鑑石コースは分野広し、受け入れ人数も多いから、試験でポカしなければ大乗だと思うよー」

「俺は……実は、探掘コースを受ける成績に満たなかったんだ」


 唐突の告白に、ユイもハンナも思わず反応に困った。


「ええっと……それは、残念だったね……」

「でも、ここ最近の成績は良かったんでしょう? 行けそうだと思っていたけれど」

「2、3年の成績は、ね。けどそれを上回るくらい1年の時の成績が、本当にダメでさ。まぁ、自業自得なんだけど」


 仕方がないと言いつつ、残念そうな様子はそこはかとなく出ている。

 ハンナはそれとなく「ほかに受けようと思っているところはあるの?」と尋ねる。


「あぁ、うん。魔法工学のほうを受けようかなぁって思っているんだ」

「魔法工学って……ずいぶん方向転換しているね」


 探掘希望に対して、魔法工学となると技術的な専門知識が必要と聞く。

 探掘よりも覚えることが大変そうな分野に鞍替えするとなると、それなりの理由がありそうだ。


「どうだろう。魔法工学って実は1年のころからずっと授業取ってたんだよ。コース選択ではずっと探掘狙ってはいたけどさ、だんだん魔法工学のほうもはまってきている自覚はあって……。一応今回の成績なら、魔法工学のほうは受けれそうだし、そっちの道を視野に入れるのもいいのかなって思ってるところなんだ」


 アストルなりに、いろいろ考えての結論なのだという。

 本人がそう言っているのであれば、周囲は余計な口を挟まず、素直に応援するしかほかにない。

 ユイとハンナは、一瞬顔を見合わせたものの、頑張れというだけにとどめ、それ以上は追及しないことにした。


「それよりもー、2人はほかに予備でコース選択試験受けたりするー?」

「俺は一応。さすがに試験で落ちた場合のことを考えると、予備で受けておきたいかな」

「私は、特に。探掘コース以外受けるつもりないよ」

「え、マジ? 大丈夫だとは思うけどさ、万が一落ちちゃったらどうするの?」

「その時は、また次の年のコース選択試験を受けるだけだよ」


 ユイは探掘以外を受ける気は毛頭ない。もちろん、ユイがやりたいことを叶えるためなら、魔法医療や鑑石コースを受けるという手も全くないわけではない。

 それでも、他に逃げがある状態で、試験に臨みたくはなかった。


「もちろん、一発合格を狙ってはいるけどね」

「うわー、すごーい……。予備受けないなんて、大胆……」

「が、頑張ろうぜ、お互い。あとはもう万全を期して試験を受けるだけだしさ」


 その後もコース選択試験についての話をしながら、小腹を満たしていると、しばらくしてギルフィも合流してきた。そのそばには相変わらず、従者のクルトの姿も。


「みんないるならちょうどいい。実は提案があったんだ」


 そう言って、ギルフィは空いている席に座ると早速話し出す。


「試験終了後、3年生はいつもより長い休暇に入るだろう? その休暇で、俺は研究旅行に行こうと思っている。よければみんなも一緒にどうだろうか?」

「一緒にって……研究旅行でしょ? むしろ俺らが一緒にいていいわけ?」


 アストルの疑問は最もだ。己の研究のための旅行であれば、第三者と一緒に行くということは避けたいことのはず。

 それでもギルフィは特に問題ないと返す。


「別に趣味でしている研究だからな。特段問題ない。皆には一度話したと思うが、魔素濃度について、いくつか場所をピックアップした。今回そこ場所を周っていこうと思っている」


 その内容に、ユイはぴくりと反応した。

 以前ギルフィと何度か討論会という形で、魔素の消滅にかかわる魔素濃度量の多い場所・少ない場所について話していた。個人的にも興味深い内容だったので、その場所をめぐるとなると、正直この話には載っていきたい。


 だがそもそも、この話を受ける前に、ひとつだけ問題がある。


「行くのはいいけれど、コース選択試験に受からないと、長期休みはないって聞くけれど?」


 コース選択試験は、受けるコースによってはその難易度は格段に跳ね上がり、落ちる人数がかなり多いこともあるそうだ。

 そんな人たちのために、希望するコースにより、一度目の試験で落ちてしまった者たちの救済として、2次試験日が設けられているコースもある。

 およそその2次試験日は最初の試験からひと月ほど先となるため、最初の試験で受かった人たちと比べ、学年末の休暇期間が短くなってしまうのだ。


 それを理解しているかと尋ねると、ギルフィは不思議そうに首を傾げ、


「コース選択試験に受かればいいだけの話だろう」


と平然と言ってのけた。


「くそ……頭がいい奴はみんなそう言うんだ」

「絶対受かる保証なんてないのに、なんてことないみたいに言うの……」


 アストルとハンナは恨めがましい目でギルフィを見やる。

 心底不思議そうなギルフィは、結論どうするのかと聞き返す。


「……休暇中全日程は難しい。途中までとか、それでもいいなら、私は参加したい」

「あぁ、構わない。詳しい場所等は後ほど伝える。それを見たうえでの回答でもいいが、できれば早めに教えてくれると助かる」


 ユイとしては、できれば自分の目でその場所に行って確かめたいことがあった。

 だけど休暇中であれば、フレインやイサクたちと時間が合えば課外行動も行いたい。それに今回の休暇は、一度家へ帰りたいという考えもあった。やりたいことや予定があるので、全行程を一緒に回るのは無理がある。


「俺も途中までになるかな。すでにほかのメンバーとの旅行も考えてたからさ」

「私も途中までか、途中参加なら行ってもいいよー。家に帰ってのんびりしたいからねぇ」


 ユイの質問が功を奏したのか、アストルとハンナも参加の方向で話が進んでいった。

 ギルフィはみんなの意見をまとめ、「詳細は後ほど」ど言った。

 ハンナとアストルは、何気に旅行というワードに目を輝かせて、行くならどんなところがいいか話し合っている。

 その様子をひと言も口を挟まず見ていたクルトの言葉で、2人の口が固まる。


「試験に落ちたら、そんな予定ないけれど」


 事実に変わりはないので、ユイはみんなに頑張ろうと言うしかなかった。



 


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