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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
1年生編
5/25

入学式④


 ──翌日。


 入学式の時間まで、ユイは寮の自室の荷物整理をして過ごした。


 2人1部屋と聞いていたが、昨日は同室の人と会うことはなかった。朝になっても姿は見当たらず、不思議に思いつつもいずれ会うだろうと思い、深く考えることはなかった。


 荷物整理を終え、教科書をいくつかめくっていると、13時の鐘の音が聞こえた。それと同時に、部屋のドアがノックされ、ドアの隙間からふわりと1枚の紙がユイの手元へと飛んできた。


『新入生は、ただ今より大講堂へと集まるべし』


 ──そう言えば、入学式が何時から始まるのか知らない。


 事前に送られてきていた案内にも、詳しい時間は載っていなかった。


 ユイはただの紙切れになった紙を机の上に置き、ベッドの上に畳んでいたローブを手に取る。

 既に制服には着替えていたので、少し大きめのローブを羽織ると一気に魔法使いらしさが増した。


 軽く身支度を整えて、ユイは部屋を出る。

 廊下には、同じようにローブに身をまとい、同じ方向に向かう女学生たちの姿があった。

 ネクタイの色がパープルなので、全員1年生のようだ。


 ユイもその流れに乗って、大講堂へと向かう。

 途中の道で、男子寮の1年生たちも合流し、そこそこ大勢の列が連なった。


 大講堂は、見た目はそこまで大きそうな感じではなかったが、中へ入るとその広さに驚いた。

 おそらく、ここには拡張魔法が施されているのだろう。それにしても、正確な人数は分からないが、何百という人が入っても、そこそこ余裕がある建物だ。


 ざわざわと静かなざわめきが講堂内に響く。

 ユイはあまりの人の多さに、少し辟易していた。今までこんなにもたくさんの人がいる場所に出向いたことが無いに等しいからかも知れない。


 そろそろ外の空気を吸いたいと思い始めた頃、「静粛に」と若い男性の声が講堂内に響いた。

 真ん中より後ろのほうにいるため、声を発した人物は見えないが、その一声で講堂内は水を打ったように静かになった。


「校長より、入学の挨拶がある。しかと、聴くように」


 その声とともに、前方の少し高くなっている舞台に、ひとりの男性が登った。


「はじめまして。そして、ようこそ。魔法大学校校長、エルラ・オルノルフです」


 拡声魔法で響いた声は、まだ年若さを感じる男性の声。見た目も声と同様、若さを感じる容貌だ。

 少し背が低いように感じるが、校長と言うよりも、中堅の教師と言われたほうがしっくりくるような人だった。


 校長はゆっくりと講堂内を一望し、改めて口を開く。


「長々しい挨拶は好きじゃないので、簡潔に。

 まずは皆さん、入学おめでとう。

 ここ魔法大学校は、魔法について様々な分野を学ぶことができます。もちろん、魔法以外の分野も並行して学ぶことができる環境にあります。そして、我が校から毎年多くの優秀な生徒たちが卒業していきます。

 あなたたちは、まだ魔法使いの卵です。これから多くを学び、失敗し、立ち向かい、一人前の魔法使いとして成長していくことでしょう」


「ただし」と校長は一度言葉を止める。


「……この場にいる全員が、無事に卒業することはないでしょう」


 断定された言葉に、誰かのつばを飲む音が聞こえた。

 校長は声色を変えることなく、そのまま続ける。


「もちろん、皆さんを脅している訳ではありません。これは、事実です。ですので、毎年入学式のこの場で、私は皆さんに告げるのです。

 本校は皆さんの自主性を大事にします。

 授業中であればできる限り教師陣もサポートしますが、それ以外で各々が活動することもあるでしょう。大いに結構、その意欲を歓迎します。

 ただし、時には秤を奢り、危険に足を踏み入れてしまうこともあるでしょう。その過程で取り返しがつかないことが起こっても、それは自己責任となります。そうならないよう、教師陣も気を付けていますが、学生全員に目を配ることはできません。我々の視界からこぼれてしまった者たちは、自らの力で乗り越えていく必要があるのです。

 ……皆さん、このことはいつも念頭に置いて、大いに学びを探求してください」


 ──ここも、そういう場所なんだ。


 周囲でいく人かの顔色が青くなる中、ユイは内心息を吐く。


 魔法使いの性なのだろうか。一般人に比べ、魔法使いは人一倍探究心が強い。そして、時にはそれが行き過ぎ、命取りになったりもする。特に貴族の者たちが顕著だ。それはひとえに、家を単位として魔法探求をしているからとも言えるが、ここでは一旦すみに置いておく。


 講堂内の空気が一気に不安と恐怖に塗り替わる。その空気が蔓延する寸前で、校長はにこりと微笑んだ。


「さて、思ったより長く話してしまいました。

 何はともあれ、今日から皆さんは我が校の一員です。学友たちと共に、切磋琢磨し、実のある学校生活を送ってください。

 その為には、身近な人たちから話を聞くのが一番です。皆さん、後ろを見てください」


 促され、新入生たちは恐る恐る後ろを振り返る。すると後方のほうがわっと驚きの声が出た。

 ユイは中ほどにいたため状況がよく掴めなかったが、講堂内後方、入ってきた時は壁になっていた場所がなくなり、更に部屋が増えたようだ。そして微かに食べ物のいい匂いが漂ってくる。


「私からの挨拶は以上です。ここから先は、皆さんの入学祝いパーティーとなります。

よく食べ、先輩方から話を聞き、これから共に学びゆく学友たちと存分に顔合わせをしてください」




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