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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
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アークレイリ王立図書館⑤



 その後図書館へと戻り、レイは「今日はありがとう。僕は仕事に戻るね」と言って、去っていった。


「どうする? 俺はフレインからいくつか借りてこいって言われてて、さっき借りてなかったから探してくるけど」

「あ、私もいくつか借りたいです」


 2人ともまだ本を借りていないということで、一緒に図書館内を探し回ることにした。




 先ほどとは違い、職員に借りたい本の在りかを聞いていけたので、さして時間がかからずにユイもイサクも本を借りることができた。


 図書館での用事が済み、建物の外に出る。

 まだ陽は高く、夕方までかなり時間がありそうだ。


「疲れてないか?」

「私は大丈夫です」

「そうか……。まだ帰りの時間まで少し時間がありそうだから、よかったらこの周辺見て回るか?」


 それはユイがほとんど王都に遊びに来たことがないと言っていたことからの気遣いかもしれない。

 ユイは時間があるのならと、その提案に快諾した。




 こんなにゆっくりと王都を見て回ったのは初めてだ。

 王都全体を見て回ることはできないが、図書館前の通りを歩いているだけも楽しめた。

 王都中心部ということもあり、露店がたくさんある。飲食店に装飾屋、雑貨屋や魔法道具専門店など、見ているだけでも十分に楽しい。

 主にユイが自由気ままに見て回るその後ろを、イサクがついていく。

 少しの時間ではあったものの、初めて見るものも多く、とても新鮮な時間を味わえた。



 

 その後、程よい時間で、2人は乗り場へ向かい、相乗り絨毯に乗って学校へと戻った。


「今日はありがとうございました」


 学校につき、門前で帰った旨の手続きを済ませて敷地内へ入る。

 その頃には、まだ明かるものの、だいぶ太陽が西の空に傾き始めていた。


「このまま寮に行くか? 俺は一度隠し部屋に行くけど」

「あ、私も隠し部屋に行きます。フレイン先輩にお土産渡したいですし」


 そう言って、一緒に隠し部屋へと向かう。

 王都の賑わいを浴びてきたせいか、学生棟までの道を歩いていると、いつもよりも周囲が静かに感じてしまう。


「楽しかったか、今日」

「はい。あの、本当に今日はついてきてくれてありがとうございました。おかげで今日一日楽しめました」

「そうか、よかったな」


 ぽつりぽつりと、今日の感想を言い合っていると、いつの間にか隠し部屋の前までついていた。


「あれ?」


 いつも通り、ドア前に発生した魔法トラップをかいくぐり、室内へと入る。

 フレインがいると思っていたが、部屋には誰もいなかった。薬草畑にいるのかと思ったが、そちらにも誰もいない。


「フレイン先輩、まだ補講中なんですかね?」

「さすがにこの時間終わってるだろ。待ってればいつかは来るだろ」


 イサクはそう言って、疲れたのだろうか、近くのソファへ深く座り込む。

 ユイは買ってきたお土産を取り出し、渡す分と自分用に分ける。そしてレイからもらった薬草も取り出して仕訳けていく。


 そうして時間をつぶしていたが、だんだん空が暗くなってきても、フレインは隠し部屋には来なかった。


「今日は来ない日かもしれないですね」

「まぁ、約束してたわけでもないしな。ここに置いとけば、来た時に気づくだろう」

「そうですね。直接渡したかったんですけど、仕方ないです」


 ユイはフレイン分のお土産を、テーブルの中央に置き、その上から箱をかぶせておく。ユイからのお土産だとメモをつけておけば、フレインも気づいてくれるだろう。

 残りのお土産をカバンへと一旦しまい、そのうちの一つを手に、イサクへと差し出す。


「……なんだ、これ」

「イサク先輩へです。今日一日、一緒に来てくれたお礼。甘いものは好きじゃないって言ってたので、お昼食べたお店で見つけたコーヒーにはなるんですけど」


 まさか自分にもあるとは思わなかったのだろう。驚いた表情のイサクが、ユイの手からお土産を受け取る。お土産をしばし眺めた後、「ありがとな」と言って、今度はイサクがユイへ小さな袋を手渡してきた。


「これは……?」

「お前に。雑貨屋で見つけて、普段使いできそうだなって。こういうの、ほとんど持ってないだろ?」


 開けてみてもいいかと尋ね、二つ返事をもらったので小さな袋の口を開ける。

 その中には、小さく細かな意匠が施された、耳飾りが入っていた。


「……きれい」


 薄い青色だろうか。空中でもち上げてみると、光に当たってきらきらとしており、場所によっては青色以外の色にも見える。

 確かにユイは自身を装飾する代物は、持っていないに等しい。特に必要性を感じなかったからという理由で今まで買うこともなかった。


 ユイは早速、その耳飾りを自分の両耳につける。

 小ぶりな耳飾りだからか、つけた瞬間は少しの違和感を覚えたけれど、毎日つけていれば気にならないくらいの着け心地だ。


 ユイ自身、まさかイサクからこのような代物をいただくとは思っていなかった。驚くと同時に、人から何かをもらうというのが思ったよりうれしいということに気づいた。


「イサク先輩、ありがとうございます。毎日つけますね」

「あぁ」


 その時、ふっとこぼすような笑みを浮かべたイサクを見て、思わずユイは「笑った」と声が漏れた。


 普段から無表情で、しかめっ面で、眉間にしわを寄せたような顔が常であるイサクが、こうやって笑みを浮かべることはとても珍しい。ユイもこのサークルに参加してからまだ1、2回ほどしか見たことがない。


 すぐにいつもの表情にもどってしまったが、それでも貴重なイサクの笑った顔を見れてよかった。




 こうして、ユイの王立図書館への外出は、無事何事もなく終わりを迎えることができたのだった。




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