アークレイリ王立図書館③
近くで聞こえた物音で、ユイは読んでいた本から視線をあげる。
レイとの待ち合わせ時間が昼頃に変わったため、ユイはイサクと別行動で、図書館内の本を見て回っていた。
物音がした気がしたが、周囲には人の姿は見当たらない。
気のせいかと思い、読んでいた本を棚に戻す。
学校とはまた違い、興味深い本がたくさんあるので、つい目移りしてしまう。
それにここには、魔石の写本も置いてあり、自由に貸し借りができるようだ。
──探掘者の魔石本があれば借りていきたいけど……。
ただ、とにかく図書館内が広い。
どこかに案内があるとは思うのだが、適当に歩いてきてしまったせいか、近くに見当たらない。
しかも周囲に人もいないものだから、職員に聞こうにも聞けないまま時間を過ごしていた。
「……あれ、光ってる」
そろそろエントランスまで戻ろうかと考えていた時、手に持っていた魔法道具の頭に着いている電球が光りだした。
「へぇ……便利そう」
これは先程イサクから渡されていた魔法道具である。
どうやら、寮の同室だった人から渡された試作品らしく、学校外に行くならついでに試して欲しいと言われたらしい。
この魔法道具は、離れている場所でも、道具に魔素を込めさえすれば、相手に合図を送ることができる代物だという。
ただ一方からしか連絡はできず、電球が光るパターンも1種類なので、あまり大したことには使えない。
「転移魔法の足がけとして、位置特定ができれば、探掘の時に役に立ちそうだけど……」
ユイはこの魔法道具に魅力を感じていた。いろいろと改善の余地等はありそうだが、将来的な伸び代は大きそうだ。
感心しまくりながらも、ユイの足はエントランスの方へと進んでいく。
来た時に比べて、お昼の時間を過ぎてきたからだろうか、人の姿はほとんどない。そのため、相手の姿はすぐに見つけることが出来た。
「……さすがに難しそうだな。位置情報はともかく、声を届けるなんて」
「最近一般人の子どもたちの間で、コップの底に太い糸をつけて、その糸をピンって張ると、遠くにいてもお互い会話ができるって遊びが流行っているようです」
「そんな簡単なものでか? ……なるほど、それを応用して魔法道具にできないか、と」
「図書館みたいな、広い場所で働く人たちに向けて作れば、需要はあると思うんです。僕は魔法道具を作る方はさっぱりなので、頼むしかないんですけど」
「何か仲良くない?」
思わず心の声が漏れ出てしまった。その声で、2人で話していたイサクとレイが顔を上げる。
「来たか。どうだ、それ。ちゃんと合図送れてたか?」
「あ、はい。明かりつきましたよ」
「それが受信する方? 魔素を込める方と、あんまり違いがないんだ」
ずいっとレイが寄ってきて、ユイの手元にある魔法道具を触り出す。
ぶつぶつと呟くレイを退け、ユイは魔法道具をイサクへと返す。すると今度は、イサクの方へと寄っていき、魔法道具を見始めた。
──……何か、仲が良さそう?
先ほども思ったが、初対面なのに随分と距離が近い。レイもユイ同様、あまり他人に興味はない部類だと思っていたが、この数年で変わったのだろうか。
「ねぇ、レイ。仕事の方はもう大丈夫なの?」
いつまでも魔法道具から離れなさそうなので、ユイは話題を変えてみる。
「……うん、大丈夫。ちょっとしたものだったから。逆にそっちは時間大丈夫だった?」
「私は、別に。今日1日外出許可は取ってきたから」
「そっか。じゃあさ、お昼まだなら、これから一緒にどう? 近くにおすすめのお店があるんだよね」
その提案に、ユイはイサクと顔を見合わせるも、反対する理由は特に見当たらなかった。




