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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
3年生編
45/52

アークレイリ王立図書館 ①



 時間だけは刻々と進んでいき、今年も雨が降り続く日が多い時期にやってきた。


 この日は珍しく、ユイは昼近くになっても寮の自室にいた。2コマ目まで授業がなく、これといって急ぐ用事もなかったので、朝寝坊をしていたのだ。


 微かに2コマ目の授業終了を告げる鐘の音が聞こえた頃、ユイはようやくもそもそと支度を整え始めた。

 制服へ着替え終え、午後の授業の教科書を鞄につめていると、突如バタンと大きな音で部屋のドアが開いた。


「あ! ユイ、いたの。ごめんなさい、びっくりさせてしまった」


 走ってきたのだろうか、軽く息を切らしながらユリが部屋に入ってきた。


「ううん、大丈夫。どうしたの、忘れ物?」

「はい、忘れ物。すぐに出さないといけない課題があるのを忘れてたの。これを出さないと、すごく大変」

「そっか、それは大変だ」


 そう言いながら、ユイはふと視線をドアに移すと、部屋の入り口でぱたぱたと静かに飛ぶ伝言蝶があった。

 学校内で飛ばす伝言蝶は、学生棟を除き、ドアが閉まっていたとしても部屋の中まで飛んでくる。

 反対に学校外から飛んできた伝言蝶については、いったん寮の管理室に届く。管理人がそこから各部屋へと飛ばしてくれるため、部屋の入り口に静かに止まっていることが多い。

 この伝言蝶も部屋の中までは自分では入ってこないため、学校外から届いた伝言蝶だと推察される。


 ユイはドアに近づき、伝言蝶を手に止まらせ、部屋の中へと連れていく。

 ちらりとあて先を見ると、どうやらユイ宛に届いた伝言蝶だったらしい。


 ──外から私に用事がある人なんていないと思うんだけど……。


 しいて言えば、最近ニーナのことについて、フェリスティン家当主へ伝言蝶を飛ばしたくらいか。

 その返事が来たのかとも思ったが、差出人の個所に家紋が記されていない。それどころか、差出人の名前すら書いていなかった。


 不思議に思いつつ、その伝言蝶を開いてみる。

 文章を読んでいき、意外な差出人に思わずつぶやきが漏れた。


「レイ?」

「え、レイ?」


 聞き覚えのある名前だったからだろう、探し物中のユリが反応した。


「レイからの手紙?」

「うん、そうだね」


 内容は、近々会えないかということだった。

 珍しいと思いつつも、ちょうどユイもレイに渡したいものがあるところだったので、いいタイミングの伝言蝶だ。


 向こうが次の休みが空いているとのことなので、ユイは早々に返事を書く。

 その途中で、ユイはユリへと尋ねてみた。


「ねえ、ユリ。次の休みにレイと会おうと思うんだけど、よかったら一緒にどう?」


 ユリはこの学校に入る前、少しの間王立図書館で過ごしていたらしい。

 レイとも顔見知りとのことなので、よければ一緒に会いに行かないかと提案した。

 ユリも会いたいということで、そのことを書こうとしたら、あっという声の後に、すごく落ち込んだユリの声が聞こえた。


「次の休み、補講があります……。大事な補講って言われた……ごめんなさい、一緒に行けない」

「補講か……それは、仕方がないね」


 ものすごく落ち込んでいるユリを慰めつつ、ユイはレイへの伝言蝶の返事を書いた。




 ──その日の夜。


「え? 課外活動するかって?」


 いつものように隠し部屋に集まったユイたち。

 ユイとフレインは、採集した薬草を仕分けている。イサクはソファにひとり寝転んで、本を読んでいた。


「そりゃ、そろそろやりたいとは思うけど。せめて雨の時期が終わってからかなぁ」


 どうしてかと尋ねるフレインに、ユイは次の休日に王立図書館へ行こうと思っている旨を伝える。

 するとどうだろう、フレインと本を読んでいたイサクですら、顔をしかめてユイのことを見てくる。


「えっと……ダメ、でしたか?」

「ダメじゃないけど……ユイちゃん、誰かと一緒に行くの?」

「誘ってはみましたけど、用事があるようなので、私ひとりで行きます」


 困惑しながら答えるユイの肩を、フレインがガッシリと掴んだ。


「あのね、ユイちゃん。反対するわけじゃないけど、せめて誰かと一緒に行きなさい。あなた、つい最近倒れたって自覚ある?」

「それにお前、今まで学校外に出たことあんのか?そもそも王立図書館までの道も分かってんのかよ」


 ユイのことを心配していると言うのは分かるのだが、イサクに限っては何となく子ども扱いされている気がして、思わず口を尖らせてしまう。


「自分の体調くらい分かります。半日くらい遠出しても問題ないです。それに、王立図書館まで相乗り絨毯が出てるんですよね? 迷いようがないと思います」


そうは言ったものの、先輩たちはどうも納得できていないらしい。お互い顔を見合せながら、肩を落としていた。


「……分かった。あんまり言いすぎるのも良くないよね。じゃあ、イサクも一緒に連れていきなさい」

「おい、フレイン。何でお前じゃなくて俺に振る」

「生憎と、次の休みは補講があるの。資格試験の補講だから、さすがに出ときたいじゃない。何、嫌なの?」

「そういうわけじゃねぇけど……」

「ならいいじゃない。ユイちゃんもいい? せめてイサクは連れて行きなさい」


 イサクだって予定があるだろうに、迷惑ではないかと思ったが、さすがに真面目に提案するフレインの手前断りにくい。

 最終的に「分かりました」と返答するしかなかった。





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