グループ活動③
「つ、着いたー……」
一度目の休憩を挟んでからさらに時間が経った。
それ以来休憩を挟むことなく、ギルフィとユイが定期的にアストルとハンナへ回復魔法をかけながら進むことで、割と速いペースを保ちながら進むことができた。
そして、ユイたちが当初想定していた時間より少し早く、頂上へとたどり着くことができた。
「はい、お疲れ様。えっと、これが君たちのグループ表です。これをもって、最後はゴールにいるガジャ先生に渡してくださいね」
頂上には先回りしていたのだろう、ニールが立っていた。
彼からグループ全員の名前が書かれた巻物を受け取り、ユイたちはいったんしばしの休憩へと入る。
「やばい……いつになく頑張った、俺」
「まって、水……水はないのぉ……?」
「さすがに回復魔法をかけながらは疲れるな……。降りるときはもうやらないからな」
「……」
ギルフィの言葉にユイも無言でうなずく。
提案した身として、何とか頂上まではたどり着くことはできたが、想像以上に疲労が溜まった。
自分では1年時より体力がついたと思っていたが、こうして実践してみるとまだまだ足りないことが分かる。
──でも、こういう状況って、実際に探掘する際に起きていることなのよね。
場合によっては、鑑石課や魔法医など大勢で探掘へ向かうことになる。探掘者は山登りや険しい場所に慣れているとしても、その他大勢は必ずしもそうとは限らない。
探掘を行う場合は、その場所で作業する日数をあらかじめ定めておかなければならない。それを超過してしまうと、規約違反となり、今後の探掘に様々な支障をもたらしてしまう。
なのでユイは、そんな状況を改善すべく、ひとりですべての分野を賄えるようにしたいと思っている。
そして今回、実際にグループでの山登りを行ったことで、その気持ちはさらに強まった。
「ニール先生、今までのところ、魔獣が出たという報告は特にありませんか?」
ある程度みんな休息をとれた頃、そろそろ移動しようと立ち上がった。
移動前に、アスクルがニールへと尋ねる。
「今のところはありませんね。それにガジャ先生はああ言ってましたけど、この山にはもともと人死にが出るくらい危険な魔獣はいないので、安心してくださいね」
「人死にが出ないくらいの魔獣はいるってことですね……」
安心感を与えるような笑みを浮かべるニールだが、その内容は心底安心できるようなものではなかった。アストルが引きつった顔でぽつりとつぶやくが、隣で聞いていたユイも内心そう思ってしまった。
「魔獣が出た時は、その時考えればいいだろう。事前調査がほぼできていないんだから、今から深く考えたところで時間の無駄になる」
「出発するぞ」と言って、ギルフィは先頭を歩きだす。
その後ろを、先ほどと同じような隊列を組みながらついていく。
「なんか冷めてるよねー」
ユイの前方を歩いていたハンナが誰にともなく言葉を発する。
おそらく、先ほどのギルフィの言葉に対するものだろうが、ユイはそうは思わなかった。
普通なら、山に登ったり初めての場所で作業を行う場合、必ず事前調査の時間を取る。
これは危険な魔獣がいないかなど安全面を確保するためと同時に、目的に応じて作業効率を上げるため、事前に目的地の目星をつける意味合いが多い。その事前調査の結果をもとに、魔獣対策や作業メンバーを考慮するのが一般的である。
今回はあくまで授業の一環、それにただグループで山に登り下りるだけという行動なので、事前調査もなく進んでいると思われる。何の前情報もないままいるので、その状態で可能性の話をしても仕方がない。
──何度か山に入ったことがあるって言っているだけあって、慣れている感じがある。
ユイも数えるくらいではあるが、何度か先輩たちと一緒に課外行動を行っていた。だがそれと同じくらい、いやそれ以上だろうか、現場での落ち着き具合からして、ギルフィもそこそこ経験を積んでいると見受けられる。
優劣を競っているわけではないけれど、ユイは内心でもっと頑張らないといけないと思った。
帰り道は、登りの時よりも比較的いいペースを保ったまま行動ができた。
ユイやギルフィの見立て通り、途中途中急な坂道や小さな崖のような箇所があったけれど、グループ全員がうまく魔法を駆使して難なく突破することができた。
アストルとハンナも、前半でだいぶ慣れたということもあるのだろう。途中で1度だけ休憩を挟んだが、それ以外は自身で魔素循環を行いながら回復を行えていたようで、思ったよりも早く下ることができていた。
そして、総合科目の授業が終わる時間よりも少し早く、ユイたち4人はゴールへと着くことができた。
「お前たちは……9チームだな。よし、4人全員いるな。各自ポシェットをそこの箱に入れて、解散していいぞ」
ゴールにいたガジャに、頂上で受け取ったグループ表を提出したことで、今日の授業はクリアとなった。
言われた通り、近くにあった箱へ持っていたポシェットを返す。箱の中にはすでにいくつかポシェットが返却されていたが、受講している人数分は見当たらない。おそらくまだまだゴールしていないグループも多いのだろう。
「お、終わった~……」
「さすがに疲れたよね。俺、次の授業取ってなくてよかった」
ポシェット返し終えたアストルとハンナは、その場に座り込んでしまっていた。
ユイも正直そのまま座ってしまいたい衝動にかられたが、次の授業があるので、あまりのんびりとはしていられない。
「俺は次の授業があるから先に行くぞ。……これからしばらく、この授業で同じグループになるんだ。改めて、よろしく頼む」
ギルフィは律儀に3人にあいさつして、そのまま校舎のほうへと歩いて行ってしまった。
「彼、真面目だね。でも同じ班にいてくれてよかったよ。率先して引っ張ってくれたから、何とか授業時間内に着けたし」
アストルがギルフィが去っていく後ろ姿を見て言う。
確かに、このグループを引っ張っていったのは彼だ。何だかんだとお互い文句を言う場面はあったにしろ、結果としては上々だろう。
「まぁ、生真面目すぎる気もするけどー」
「それに、君もありがとう、ユイ・フェールディング」
突然ベクトルがユイに飛んできた。
「……お礼を言われる覚えがないんだけど」
「何だかんだ、ギルフィ・スティービールとユイ・フェールディングのおかげでゴールできたと思うよ。下りる時もさ、結構サポートしてくれたよね」
「あぁ、確かにぃ。そこはありがとー」
面と向かってお礼を言われ、ユイは戸惑う。
この1年間、同学年とはほぼまともに会話したことがなかったので、純真な言葉に返す言葉が出てこなかった。
「……私も、次の授業あるから、これで」
戸惑いつつ、それだけを告げて、ユイは小走りで校舎の方へと歩いて行った。




