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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
2年生編
27/52

新しいルームメイト⑤


 それから数日が経ち、入学式も無事に終わり、新しい学年での授業が始まっていった。

 

 この日は、3コマ目の授業がないため、ユイは食堂からスープと果物を容器に詰め隠し部屋へと向かっていた。

 隠し部屋につくと、そこにはフレインとイサクもいた。どうやらここで昼食をとっていたらしい。


 ユイもテーブルの一角を借りて昼食をとる。

 昼食を取りながら、ユイは2人に聞いてみたかったことを尋ねる。


「おふたりは、ルームメイトとどのように接していますか?」


 最近のユイの悩みの種。ルームメイトであるユリとの接し方である。

 授業が始まってからは、学年が違うということもあり、彼女のサポートをする時間は減った。

 だが授業が終わり寮の自室に戻ると、ユリのことに気を回す時間が増える。

 彼女のサポートが必要ということで同室になったわけだが、ユイが思ったよりもユリは飲み込みが早く、またそこまでサポートをしなくても日常生活を送れているように見える。もちろん、今までの生活の違いから慣れないことも多そうだが、初日に比べればこの数日でずいぶん慣れているように見受けられる。


 そうなってくると、ユイとしてはどこまでユリに干渉するべきか、という疑問が出てくる。

 今まで他人の世話などしたことがない。それに、サポートをしなければいけないからと言って、一から十まですべて口を出すのも違う気がする。

 言ってしまえば、ユイは他人との距離の取り方が分からなかった。


 ユイの突然の質問に戸惑う2人だったが、すぐにユイのルームメイトのことだと察してくれた。


「どういって言われてもねぇ……。何、ユイちゃん、『森の民』の子とうまくいってないの?」

「そういうわけじゃないんですけど……どこまで相手に干渉していいのか、その加減がよくわからなくて」

「1年の時のルームメイトとはどうだったんだよ。そいつと同じようにすればいいんじゃないのか?」

「1年の時……」


 そう言われて、ユイはつい先月まで同室だったルームメイトのことを思い出す。


「……そもそも彼女とは、自室でほとんど話した覚えがありませんね。部屋に寝に戻ってくるような感じだったので……それに、必要最低限しか関わらなくていいって初めに言われていたので、私も用があるとき以外話しかけることもなかったですね」


 今思えば、彼女との同室はかなり気が楽だった。お互い相手のことを気にしていなかったし、そもそも一緒にいるとしても寝ている時間だけだ。それ以外は彼女のほうが部屋にいることがほとんどなかったので、実質ユイ1人で部屋を使っていることのほうが多かった。

 

 ユイの話を聞いて、フレインとイサクは呆れ顔になった。


「お前もたいがいだが、相手のほうもたいがいだな」

「それで1年よく過ごしていたね」


 自分がしたいことに打ち込めたとはいえ、同学年で特にルームメイトとの親交を深める者たちが多い中、ユイのようなパターンはかなり少数派だろう。そしてその親交がそのまま授業や日常生活での相互補助に繋がっている。

 ユイとしては後悔はしていないが、そういう道もあるのだということを気づかせてくれた。


「んー、あたしは割とフランクな感じで付き合ってるかしら。寮内だけじゃなく、授業中とか休みの時とかも、時間が合えば遊んだり話したり。友だち同士の付き合いって感じかな」


 フレインは思い出すようにルームメイトとの関係を話してくれた。

 続いてイサクも、


「俺は必要最低限話すって感じだな。あぁ、でも同室のやつが魔法工学に没頭してて、試作品の感想とかよく求めてくるな。まぁ、お互い持ちつ持たれつって感じだと思う」


 2人ともルームメイトとはいたって良好な関係性を築いているようだ。

 先輩たちの意見を参考にしつつ、ユイはユリとの接し方について振り返る。

 フレインのように友だち感覚で応対してみるか。いや、そもそもユイ自身に友だちがいないようなものなので、その感覚自体がよくわからない。試す価値はあるかもしれないが、空回りしそうだ。

 逆にイサクにように必要最低限の会話で済まそうか。それでは今と何にも変わらないような気がする。


 食事の手を止めてまで悩む表情を見せるユイに、フレインは「だったら」と声をかける。


「だったら、いっそのことルームメイトに聞いちゃえば? どうして欲しいかって」

「どうして欲しいか……」

「結局のところ、ユイちゃんがそんなに悩んだところで、相手がどう思うかなんて知りようがないでしょ? ならいっそのこと、ユイちゃんの考えを話したうえで、どう接してほしいか、相手に聞いてみるのもありだと思うけどな」


 フレインのその考え方に、ユイは目からうろこが落ちた。

 そのような考えには及ばなかった。

 けれど彼の話を聞くと、それもありなのかもしれないと思う。結局のところ、ユイとユリとでは価値観が違うのだ。自分の都合に合わせて悩むより、相手の話を聞いたうえで合わせていくほうがよほどいい。


「……そうですね。そうしてみます。フレイン先輩、イサク先輩、ありがとうございます」


 ユリとの接し方について光明が見えた。早速今日の夜にでも、ユリと話し合ってみよう。


 止めていた食事を再開するユイを、フレインとイサクはただ黙って優しく見守っていた。





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