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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
2年生編
26/62

新しいルームメイト④



 春の休暇は長いようで短い。

 2年次の授業の計画や寮の部屋移動を行っていたら、あっという間にあと2、3日で入学式という日に差しかかっていた。

 構内の木々も花をつけ始め、至る所にある桜の木も昨日今日で満開を迎えていた。




 その日ユイは、昼頃になると大きな校門前で人を待っていた。

 新1年生の入寮は昨日がピークだったらしく、今日は片手で数えるほどしか新入生を見ていない。

 人を待ち始めてそれほど時間が経たないうちに、13時の鐘の音が響き終わるころ、目的の人物たちはやってきた。


「あ、君がユイちゃん? 初めまして……って言っても、一度会ってはいるよな。俺はアルロ。今日は引率として一緒に来たんだ」


 先に声をかけてきたのは、秋口に一度だけあったことのある人物。以前のように人懐っこい笑顔でやってきた。


「はい。改めて、ユイ・フェールディングです。……レイがお世話になっています」

「いやいや、どっちかって言うと、俺が世話になっているというか……。てか、レイに兄妹がいたってこと自体、驚きだし」


 二言三言、言葉を交わすと、アルロは校門前で手続きをしている少女を見やる。


「レイの身内なら大丈夫かな。ユリ……あ、彼女のことね。こっちでの集団生活は初めてだから、いろいろと迷惑かけることもあるだろうけど、何かと助けてやってほしいな」

「はぁ……私にできることでしたら」


 ユイはあいまいな回答をする。

 校長に返事をした後は、正直面倒くさいという感情が勝っていたが、今はもう仕方がないと諦めかけている。しかし、サポートをしてほしいと言われても、具体的に何をどうすればいいのか見当がつかない。


 ──そもそも、その『森の民』と挨拶くらいしか交わしてないし……。


 言葉を交わしたのも、校長室で簡単な挨拶をした時くらいだ。

 それからまた時間が空き、今日である。

 どのような人物なのかもわからないうちから、何をするかという方針は決めようがなかった。


 少女のほうで手続きが終わったのだろうか。

 大きな荷物を引きずりながらこちらのほうへ歩いてきていた。


「ユリ、手続きはできたのか?」

「はい、大丈夫でした」


 改めて聞くと、彼女の話し方は多少ぎこちなさはあるものの、十分に聞き取れる範囲だ。王都で暮らして1年と聞くが、かなり流暢に話せていると思う。


「じゃあ、俺はここまでだな。前にも聞いたと思うけど、こちらが今日からユリの寮生活をサポートしてくれるユイ・フェールディングさんだ。仲良くな?」


 アルロの紹介で、彼女とユイの視線が合う。

 吸い込まれそうなほど黒い瞳。だけどやはりそれ以前に、前髪で隠れてはいるけれど、自然と視線は額のほうへと移ってしまう。

 そんなユイの様子を知ってか知らずか、彼女はにこりと笑って挨拶する。


「私、ユリと言います。今はラープティンさんの家でお世話になっています。今日からよろしくお願いします」

「……ユイ・フェールディングです。よろしく」

「君と同い年って聞くから、気軽に接してやってくれるとありがたい。じゃあ、ユリ。俺は戻るから、あとは頑張れよ」


 アルロはそういって、あっさりと校門のほうへ去っていった。

 残されたユイとユリ。


「……ひとまず、寮に行きましょうか」




 寮へと向かう間、特に2人に会話らしい会話はなかった。

 先導するユイの後ろをユリが少し遅れて歩く。時々ついてきているかと後ろを振り返ると、周囲の景色が物珍しいのだろうか、しきりに辺りを見回しながら歩いていた。

 一応要所要所で道順の説明はしていたけれど、周囲を見渡す彼女の耳に入っていたかどうか。

 数分でつくはずの寮への道のりが、いつもよりかかったような気がした。


 寮の前へ着き、ユリは寮長から部屋の鍵を受け取る。

 それを確認して、ユイはまた先導して寮の自室へと向かっていく。


「ここが割り当てられた部屋よ」


 ユイが部屋のドアを開け先に入る。その後にユリも室内に入った。


「机とベッド、クローゼットはそれぞれ1つずつあるわ。あなたはこっち、右側を使ってもらってもいい? 机の引き出しに、寮内の細かいルールが書いてあるから読んでおくといいよ」

「はい、分かりました!」


 元気な返事に、ユイの方が少々驚いてしまう。

 ユリは早速、荷解きを始めたようで、大きなカバンから荷物を出していく。

 その様子を少し見ていたが、特に手伝うこともなさそうなので、ユイは事前に購入した教科書を手に取った。




 どのくらい時間がたった頃か。

 「あの」という声がかけられ、ユイは教科書に落としていた視線を上げた。


「何?」

「あの、えっと……ご飯はどこで食べればいいですか?」

「ご飯?」


 その言葉に、ユイは机の端に置いていた記憶時計を見る。

 時刻は18時を過ぎた頃。どうやら結構時間が経っていたようだ。

 ユリには寮内のことは簡単に説明したが、食堂の場所までは伝えていない。

 いつもならもう少し遅い時間に食堂へと向かっているが、さすがにユリにもう少し待てとは言いずらい。今日は諦めて、早い時間に夕食を摂ることになりそうだ。


 ユイはユリを伴って、寮を出て、食堂へと向かう。道中、何組か新入生と思わしき人たちと先輩の組み合わせを見かけた。どうやら先輩が後輩を案内するのは良くあることらしい。


 食堂へと入ると、ユリはまたもや目を輝かせていた。

 簡単に食堂の案内を済ませたあと、自身の分の夕飯を取り分ける。

 この学校の食堂は様々な料理が並べられており、その中から自分が食べたい物を好きな分だけ取り分けることができる。

 ユイはいつも通り、サラダとフルーツを盆に置き、空いているテーブルへと着く。ユリは何を食べようか、並べられた料理たちの前で、右往左往していた。


 ーー流石に、彼女が食べ終わるのを待っていた方がいいよね……。


 先に席につき、ユリの姿を目で追いながら、ふとそう思う。

 いつも夕飯は1人で摂っているので、相手に合わせると言うことがない。今日もできることなら、さっさと夕飯を済ませ、先ほどまで読んでいた教科書の続きを読みたい。

 けれど、一応ユリの生活面でのサポートを受けたので、初日から別行動をするのもいただけない。

 

「はぁ……」


 人知れずため息がこぼれた。

 いまだに料理の選別に迷っているユリを見やりながら、ユイは改めてこの件を受け持ったことを後悔した。




 

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