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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
1年生編
22/24

魔石に憑かれる⑩



 そういわれユイたちは、戻ってきて早々学生会の人たちによる事情聴取を受けた。

 休む間もなく全員で学生棟へと移動する。

 そしてなぜか、事情聴取は全員ではなくひとりずつ部屋を分けて行われることになった。


 ユイは4年の女性の先輩から話を聞かれる。

 今日1日の出来事を順を追って話してほしいと言われ、ユイはその通りに、朝フレインたちと課外行動に行くところから、魔石に憑かれた男子学生たちに襲われたこと、その最中に助けが来たことをできる限り時系列順に話した。ユイの右目については一切触れずに、それ以外の出来事についてを詳細に伝えた。


「……これで、以上になります」


 なるべく詳細に、そして簡潔に話したつもりだったが、おもったより時間がかかったように感じる。

 ユイの話を記録していた先輩は、これで聴取は終わりだと告げる。


「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

「何かしら。私に答えられることであれば」

「なぜ個別で話を聞く必要があるんですか? 全員まとまって話をすれば、早いと思うんですけど……」

「……正直、私もなんでこんなめんどくさいことしているかわからないの。会長や副会長から、話は個別に聞くようにって指示があっただけだから」


 どうやらこの先輩も、なぜ個別の聴取を行う必要があるのか、詳しくはわかっていないらしい。

 これ以上は話を聞けないと思い、ユイは先輩にお礼を言う。


「今日はもう遅いから、早いところ寮に戻ることね。寮長には事情を説明しているから、寮の裏口の鍵は開いていると思う。そこから自室に戻るように」

「……はい、分かりました」


 先輩が先に部屋を出ていく。少ししてから、ユイも部屋を出た。


 ──そういえば、ここは学生棟のどのあたりなのだろう?


 廊下に出て、ふと今自分がどの位置にいるのかと周囲を見回す。

 サークル部屋が密集している場所とは違い、あの女性の先輩は、ユイが今まで足を踏み入れたことがない道順でこの場所まで来ていた。来るときはユイ自身、疲労もたまっており、深く考えずにただ先輩の後をついていっただけなので、どこをどう通ってきたのか覚えていない。

 ユイはひとまず廊下を端から端まで歩いてみる。思ったより短い廊下だったが、上下の階に行けそうな階段は見当たらない。そうなると、どこかのドアから戻る必要がある。


「あの先輩についていけばよかった……」


 一緒に部屋を出なかったことが悔やまれる。

 気を取り直し、ひとつひとつドアを開けて、さらにどこかにつながるドアが室内にないかを探していく。

 廊下の一番端のドアを開いた際に、部屋の中にさらにドアがあったのでユイはそのドアを開いて先に進む。

 だがつながったのは、また見覚えのない廊下。無事にこの建物から出れるのかと不安が一瞬頭をよぎる。

 だけど今回は、この廊下の奥のほうに、誰か人影があるのが見えた。その人に出入り口を尋ねるのが早いだろう。


 ユイはその人影のほうへ歩いていく。

 途中、向こうもユイの存在に気付いたのか、「おーい」と手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。

 近くまで来て、彼がこの学校の学生ではないことに着用している服装で気づいた。


「よかったー。君、学生だよね? 実はさ、同僚を探していたら迷子になっちゃって……出口ってどこかわかる?」


 ユイより頭ひとつ分以上背が高く、どこか人懐っこさを感じる容貌をしている。レイと同じ制服を着ていることから、探している同僚はレイではないかと推測できる。


 ──王立図書館の人が、どうしてここに……?


 疑問を覚えつつも、ユイは自分も迷っていることを伝える。


「あ、マジ? まいったな……トラブルに巻き込まれたって聞いて迎えに来たんだけど……。なんかこの建物のどっかにいるって聞いて探しに来たのに……てか何この建物。いろいろドア開けてたら帰れなくなったんだけど」

「……あの、建物の外で待ってればよかったのでは?」

「……うん、俺も入ってから気づいた。マジで後悔している」


 迷子が2人に増えた。

 ひとまずユイのほうが学生棟の仕組みを理解しているようなので、先導して出口を探していく。



 何個目かのドアを開けた際、ようやくユイも見覚えのある廊下へつながった。

 そこから学生棟の出入り口までは一直線に向かっていく。

 一度見知った場所に出れば、あとは早かった。


「あ、ユイちゃん。お疲れ様」


 出入り口付近で、ようやくフレインたちを見つけることができた。

 

「ちょっと遅かったわね。何かあった?」

「いえ……ただ知らない部屋だったので、ここまで戻るのに時間がかかっただけです」

「え、学生会の人が案内してくれなかったの? これは後で文句でも言いに行こうかしら」


 そんな会話の隣では、途中から同行していた男性も、安堵の息をついていた。


「レイ、よかった。合流できた……お前、大丈夫か? なかなか帰ってこないと思ったら、巻き込まれてるし……」

「なんでアルロさんのほうが遅いんですか。まぁ、ご心配をおかけしました。この通り、僕は何ともありません」

「それなら何より。今日はもう帰っていいってさ。貸出本の一覧とかも次回来た時にって」

「そうですか。分かりました。……それでは皆さん、僕たちはこれで失礼します」


 律儀に頭を下げるレイに、フレインたちはそろって今日のお礼を言う。ユイも倣ってお礼を言う。

 暗闇に紛れるまで、ユイたちは2人を見送った。


 彼らが完全に見えなくなったころ、ぱんっとフレインが手をたたく。


「さすがに今日はもう休みましょうか。いろいろと聞きたいこととかあると思うけど、いったん全部明日に持ち越し。それでいい?」


 反対の意など出るわけもなく、本日はこれでお開きの動きになった。

 3人で寮までの道を歩いている中、イサクが「あの王立図書館のやつ、お前の兄なんだってな」と思い出したように尋ねた。


「そうそう。びっくりしちゃった。知り合いなのかな、って思ったけど、まさか身内だったなんて」

「……弟です。私も5年ぶりくらいに会いました」

「弟? でも彼は兄だって──」

「弟です」


 大事なことではないが、ユイは自分のほうが姉だと思っているためきちんと訂正する。

 そして話を変えるように、先ほど女性の先輩にも尋ねた疑問を投げかける。

 フレインもイサクもユイと同様に疑問を持っていたようだが、はっきりとした回答はなかったという。


「あたしも詳しいわけじゃないんだけど……今回と似たようなトラブルが、以前にもあったようなの」


 フレインがあくまで可能性という前置きの元話し出す。


「別に今日みたいなこと、全く起きないとは言わないけど……それでも、救援信号が上がるからある程度の被害は抑えられてるようなの。でも今回は、学生会も言っていたけど救援信号が上がってから助けに入るまでかなり時間を要している。普段ならね、そんなことはないはずなのよ」

「……思い出した。確か、俺らが入学する前の年……3年前か? その頃にも同じように課外行動中に魔石に憑かれた人がいるって聞いたことがある」

「そう、そしてその時も救援信号に誰も気づかなかった。あたしが知人に聞いた話によると、何年かに1度のペースで同様のトラブルが起きているという記録があるらしいの。もしかすると学生会は、今回の件も関連性があるって思っているんじゃないかしら」

「……だから個別に聴取ですか? まるで関係者がいると思っているみたいですね」


 フレインの話を聞く限り、学生会は一連のトラブルは偶然ではなく、誰かが意図的に仕組んでいるという方向に向かっているような気がする。

 だが今回以前にも同様のトラブルがあったとして、ユイはもちろんのこと、フレインもイサクもまだこの学校に入学すらしていない。ほかの学生たちですら、今の7年生が入学するより前も起こっているのであれば、学生たちが関与するというのは難しい可能性がある。


「まぁ、あくまで噂。可能性の話よ。結局のところ、真意なんて誰にもわからないわ。明日以降、学生会から何らかの見解は出ると思うから、いったんそれを待ちましょう」


 男子寮・女子寮への分岐路に差しかかり、フレインはそう言って話をしめた。

 ユイはフレインたちとここで別れ、女子寮へと歩いていく。

 等間隔でおかれている街路灯の淡い光があるが、薄暗い道を今日を振り返りながら歩く。


 ──そういえば、フレイン先輩もイサク先輩も、戻ってきてから右目のこと聞いてこない。


 ユイはそっと右目の眼帯に触れる。

 目まぐるしくいろんなことがあり、ただ忘れているだけかもしれない。もしくは聞きたいことはあるけれど、今はまだ黙ってくれているだけかもしれない。

 それでもそんな雰囲気はおくびにも出さず、いつも通り接してくれる2人にユイは感謝した。

 

 

 


 後日。学生会から正式に、トラブルがあった日の情報が通達された。

 結論として、あれは偶然起きた事故として処理されることとなった。

 

 ──フレイン先輩の話を聞いた後だと、本当に事故なのか怪しい気がする……。


 フレインとイサクも、学生会からの情報に眉をしかめていた。

 だがだからと言って、あれが偶然ではないという根拠があるわけではない。調べようにも、転移扉の転移先が変わってしまっているようで、あの時の状況を再現するすべもなくなってしまった。


 何となく大きな違和感を覚えたまま、此度のトラブルは時間とともに、みんなの頭から消え去っていった。




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