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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
1年生編
2/24

入学式①


 近くで鳥の鳴き声が聞こえた気がして、ユイ・フェールディングは木戸の外に視線を向けた。

 木戸の向こうの庭には、つい先日開花したばかりの桜の木が見える。鳴き声の主はどこにいるかと左目を細めるも、さすがにその姿を確認することはできなかった。




 「ユイちゃん、入りますよ」


 ドアがノックされる音とともに、叔母であるソフィア・アクラネスが声をかける。

「そろそろ出発するようですよ。準備はできた?」

 開かれたドアの隙間からひょこりと顔をのぞかせる叔母。小柄なため、その仕草がとても可愛らしく目に映る。

「はい、今行きます」

 ユイは返事をするとともに、机の上に置いていた鞄を手にする。大きな荷物はすでに表の馬車に乗せているため、あと必要なものはこの鞄だけだ。


「忘れ物はない? 教科書は全部持った? 杖は? 箒はいらないんだったかしら? ……あぁ、ちゃんと確認したのに、なんだか心配だわ」

 玄関へ向かいながら矢継ぎ早に確認する叔母に、ユイは苦笑しながら大丈夫だと告げる。

「心配し過ぎです、ソフィア叔母様。大丈夫なので、落ち着いてください」

「そう? 何か私の方がすごく心配になっちゃうわ」

 頬に手を当て、大げさなくらい心配そうに眉を下げる。彼女の場合これが平常なので、心配ないと繰り返し伝えるしかない。

「あぁ、そうだわ。ユイちゃん、道中みんなで食べてね」

 そしてふと、思い出したように手に持っていたカゴを手渡す。蓋をずらしてみると、そこにはユイの好物のひとつであるベリーパイがあった。まだほんのり温かみを感じるので、作って間もないのだろう。

「ありがとうございます、叔母様」

 素直に礼を伝えると、叔母はさらに嬉しそうに笑みを浮かべる。


「さぁさ、そろそろ行きましょう。みんなに遅いって怒られてしまうわ」




 2人は屋敷の者たちに挨拶をしながら表へと出る。

 家の門の前には、馬車が2台。その傍には御者と、アクラネス一家が揃っていた。


「あ、やっと来た。早く出ちまわないと、着く頃には暗くなるぞ」

「大方、母さんがあれやこれやと忘れ物チェックしてたんだろう」


 似たような顔の兄弟・エギルとマールが大げさな仕草でやれやれと言う。その様子が先ほどまでの叔母と重なり、今さらながら彼らは血の繋がった家族なのだと実感する。


「エギル、マール。準備ができたなら先に乗っていなさい。ユイ、君も忘れ物はないかね。問題なければ馬車に乗りたまえ」


 叔父のサロモンが御者と話す傍ら、子どもたちへと指示を出す。

 ユイは改めて、ソフィアに出立の挨拶を告げる。

「ユイちゃん、長期休みは遠慮なく、うちに帰ってきてね。事前に連絡をくれたら、ユイちゃんの好物を作って待っているわ」

「……ありがとうございます、叔母様」

 柔らかい笑みを浮かべ、見送ってくれる叔母に、ユイは改めてこの家の温かさを感じた。


 兄弟が乗り込んだ馬車にユイも乗り込む。

 さほど経たないうちに、叔父も乗り込んだ。

「では母さん、この子たちを送ってくるよ。留守を頼む」

「はい、任されました。エギル、マール、ユイちゃん。行ってらっしゃい」

 各々、ソフィアへ返事をし、馬車のドアを閉める。

 サロモンが御者へ合図を送ると、ガコンと大きく揺れ、その後は徐々にスピードを上げながら動き始めた。



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