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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
1年生編
13/24

魔石に憑かれる①



 楽しい時間というものは、あっという間に過ぎ去っていくものだと知った。


 サークル加入後、ユイは授業終わりや空き時間にお邪魔するようになった。

 そして、そこはユイにとって、とても理想的な場所であった。


 人数が少ないということもあるだろうが、勉強に集中しやすい静かさなのだ。それに分からないところは学年の垣根を越え、既知の者が教え合う。お互いに知り得る知識や技術を共有し合える環境だった。


 そして何よりとユイにとって喜ばしいのは、場所を気にせず薬草栽培ができること。

 サークル部屋──フレインたちはよく「隠し部屋」と呼んでいる──は、複数の部屋から成っている。

主に勉強したり休憩したりするメインの部屋と隣接するようにいくつか部屋がある。

 その中のひとつに、薬草栽培専用の部屋があったのだ。


「好きに採取したり、なんなら増やしてもいいからね。自前で魔法薬を作れるし、量が多かったら買取専門のお店に行けば買い取ってくれるから、いい小遣い稼ぎになるよ」


 どうやらフレインの実家が薬草園を経営しているようで、その影響でここでも様々な薬草を育てているのだという。


 ユイも入学してから寮の自室で薬草などを育てていた。主に自分用の薬を調合するためなのだが、毎日服用しているため最低限量が必要になる。

 だが寮の部屋はそこまで広いわけではないし、ルームメイトもいるため、ある程度栽培できるものが限られていた。

 しかしここでは、多種多様の薬草を育てられる環境にあるため、ユイの悩みは即座に解決された。


 そういう意味もあり、ユイにとって、とても充実した日々を過ごすことができるようになっていた。






 ──長雨の時期が過ぎ、蒸し暑い毎日からだんだんと朝晩に涼が感じられるようになる頃には、1年生の半分が過ぎていた。


「課外行動……ですか?」


 授業が終わった夜、全員が隠し部屋に集まったところでフレインが切り出した。

 ユイは課題のレポートに取り組んでいたが、聞きなれない言葉に手を止める。


「そう。まあ勝手にあたしがそう呼んでるだけだけど。ユイちゃんもそろそろ慣れた頃合いじゃない?  このメンバーで、休みの日に外で活動しようかなぁって」

「そういや、2年になってからまだ1回もやってないな」


 イサクも思い出したようにポツリと呟く。


 課外行動とは、その名のごとく、授業外の活動のこと。主にサークルごとの活動のことを指す。

 フレイン曰く、実際の探掘作業を視野に入れ、基本である魔石捜索の基礎や、山や川など自然の中での行動練習を予定しているのだと言う。


「まあ流石に探掘作業は授業でもちゃんとやってないから、先送りにするけど。まずはいろんな場所に行くことが大事ね。探掘する場所は、山や川、浜辺とかあるから、その場その場での動き方を知ることを目的としているんだ」


 実際、魔石探掘は訪れる場所によっては重労働となる。標高が高い山や、断崖絶壁に沿って探掘することもあり、探掘者たちは若いうちから、こうした地形に慣れ親しんでおくことが大事なのである。


「そういう訳で、直近で予定のない休日ある? できれば雪降る前に2回ほどは行きたい予定」


 そう言われ、ユイは自分の予定を確認する。

 授業の補講予定も入っていないはずなので、急な予定など入らない限り問題ないだろう。


「私、予定特にないです」

「りょーかい。イサクは? 補講とかない?」

「あー……なかったはず。ひとまず今月は空いてるか」

「オッケー。じゃあさっそく、4日後の休日に行こうか。2人とも、予定空けててね」


 予定がないと分かると、フレインはあっという間に予定を立てる。

 その後も独り言のように、次々やることを決めていく。


「さすがに今回は軽めの行程がいいよね。日帰りで計画しようか。イサク、今の行き場ってどこか分かる?」

「見てねえから知らない。……あぁ、でも誰かが数日前に山に変わったって言ってたか」

「山か、ちょうどいいんじゃない? ねぇ、ユイちゃん。ユイちゃんって山登りとかしたことある?」


 突然話を振られ、ユイはワンテンポ遅れて答える。


「えっと、ない……ですかね」

「お、じゃあちょうどいいか。イサクは今の行き場を確認しといて。ユイちゃんは山登り初めてだって言うから、事前に用意するものとか一緒に確認しながら準備しよう」


 テンポよく話が進んでいくが、ユイはひとつの疑問を覚える。


「山に行くのって、そんな簡単に日帰りで行けるものなんですか?」


 王都近辺の地理に疎いということもあると思うが、山登りとなると学外に出ることになる。学校近辺に山登りができそうな山があった記憶がない。日帰り計画というが、一体どこへ行くのだろうか。


 そんなユイの様子を見て、フレインはぽんっと手を打つ。


「そっか。ユイちゃんまだあれの存在知らないのか。えっとね、簡単に日帰りで行ける方法があるの。んー……そうね、どんな方法かってのは、当日までのお楽しみにしましょうか」

「先に説明しなくていいのかよ」


 イサクが苦言を呈すも、フレインは「楽しみはあったほうがいいでしょう」と言って詳しく説明することはなかった。ユイも後からでも説明があるということで、それ以上詳しく聞くことはしなかった。


 こうして、あっという間に課外行動の予定が立てられていった。



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