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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
1年生編
11/24

サークル活動②



 そして、2日後。


 授業が終わったユイは、そのまま学生棟へと向かった。

 あの後マールから、紹介してもらったサークル部屋までの道順が書かれた伝言蝶が飛んできた。その紙を片手に、先輩たちの勧誘をすり抜けつつ進んでいく。


 道順に沿って進み、何度目かのドアを開けるとだんだんと人と数が減ってくる。そしていく度目かのドアを開けると、先ほどまでとはうってかわり、静かな空間へと抜けた。景色が大きく変わったわけではないが、人が全然いない。

 静かな廊下を左手に進み、さらにドアを開けた先に、目的の部屋があった。


「……ここ、よね?」


 思わず呟いた声でさえ、静かな廊下に響く。

 マールから教えてもらった目的地の風貌と合致するドアの前に来た。

 ここの空間にもいくつかドアがあるが、深緑の色をした造形が独特なドアはひとつしかない。ドアプレートには「697」と振られているので間違いないだろう。


 ユイは紙をポケットにしまうと、意を決してドアをノックする。

 だが、しばらく経っても応答がない。


 ──誰もいないのかな?


 マールを通してではあるが、ユイが訪れることは伝えられていると思っていたため、思わず首を傾げてしまった。

 もう一度ドアをノックするも、やはり応答はない。

 少し迷った末、ドアノブを捻ってみると鍵がかかっている気配がなく、危うくそのままドアを開きそうになり慌てて手を離す。


 魔法使いであれば、鍵がかかっていようが、魔法を使って開くことができる。そのため、鍵がかかっていたとしてもさほど問題ではない。

 むしろ注意すべきは、鍵が空いている、その状況の場合だ。


 ユイは1歩下がって、ドア全体を見やる。

 一見するとただのドアであるのだが、注意して仔細を確認すると、至るところに魔法の痕跡が見受けられる。


 ──ドアノブ周辺に内側から細い蔦が出てる……開けたら何かの魔法トラップが仕掛けられてるかも。それにドア左の壁の色が他のところと少し違う……そもそもが押して開けるタイプじゃないとか?


 ひとつ気がつくと、どんどん可能性が見えてくる。


 魔法使いの中には、防犯目的として、出入口に魔法トラップを仕掛けることがある。トラップの存在に気づかぬ者や、知っていたとしてもその仕組みを解かないことには出入りができない。

 最近は物理的に強固な錠を作る者たちが増えてきたため、魔法トラップを錠として使うものは少数派だ。しかし未だに一部の魔法使いの中には、オリジナリティを持たせた魔法トラップを作る物好きたちがいる。

 ユイも小さい頃、親戚のひとりが魔法トラップ作りにハマっており、その試作品をいくつか身をもって試させられたことがある。そのせいか、魔法トラップが施されているか否かを見分ける技術を不本意ながら身につけていた。

 だが、あくまでも見極めができるだけで、解除はあまり得意ではない。


 今回の魔法トラップも、そこまで難しくない仕組みのようではあるが、複数個備え付けられているものをひとつずつ解除する気はない。


 ──誰かが来るまで待とう。


 結果、ドアの近くで部屋の主が来るのを待つことにした。




 どのくらい時間が経ったのだろう。

 立っているのも疲れたので、ドア近くの床にそのまま座り、持ち歩いていた教科書を最初から読み直して時間を潰していた。


「あら、あなた1年生? そんなところで何しているの?」


 集中してしまっていたようだ。

 近くに人が来ていたことに気付かなかったので、高めのハスキー声で呼ばれて驚いた。

 そして、顔をあげたところにいた人物を見て、少しの間思考が停止した。


 ユイを見下ろしていたのは、綺麗な金髪の中性的な顔立ちをした人。肩より長い髪は、片側に流して縛ってある。

 ネクタイの色がブルーなので、2年生だろう。

 制服は男性用のものを着用しているが、先ほどの言葉遣いだけみると女性と言われても納得してしまう。

 魔法使いの中には、性別にあまりこだわりがない人たちが多いと聞くが、実際に見た目と話し言葉が違う人に初めてあった。


「ちょっと、聞こえてる?」


 固まっているユイの目の前で、ヒラヒラと手を振る彼。ようやくはっと我に返り、そのまま立ち上がる。


「は、はい。聞こえてます」

「そう、よかった。あなた1年生よね? こんなところで何してるの? もしかして、迷子とか?」

「い、いえ……この部屋の方々を待っていたんです」

「あら、そうなの。あ、じゃああなたがアクラネス兄弟たちの言っていた……」


 納得した顔で、彼はこの部屋の一員だと告げる。


「ごめんなさいね、ずいぶん待たせちゃったんじゃないかしら。授業が思いのほか長引いちゃって……連絡できたら良かったんだけど」

「い、いえ。授業なら仕方ないですし……」

「とりあえず、こんなところで話もなんだから、部屋に入りましょ。もう少ししたらあと1人来るし、揃ってから詳しく話でもしましょうか」


 そう言って、彼はドアノブを無造作に触る。

 ユイは思わず声を上げた。

 先ほど、自分が下した結果が間違いなければ、普通にドアを開けると魔法トラップに引っかかってしまう。部屋の主が知らないわけではないと思うが、思わず声を上げてしまった。


 だけど、ユイの心配は無用に終わった。

 彼はドアノブを捻ることなく、握るとそのまま下へと力を込めた。するとガコン、という音ともに、彼の足元の床が消えた。

 ユイはひと1人分離れた位置にいたので、彼がそのまま穴の中に消えたように見えた。

 どうすればよいかと、消えた床を見下ろすと、そこまで深くないのか床と思われるものが見える。


「そのまま降りてきてちょうだい! 減速魔法を使わなくても、地面は柔らかいから問題ないわよー!」


 先に進んだのだろうか。少し離れたところから声が聞こえる。

 彼の言う通り、ユイはそのまま床の下へと降りた。




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