序章:悪夢の終わり、そして夢が始まる
久しぶりの新作です。
学園ファンタジーと銘打ちますが、はたしてそのジャンルの通りになることやら……。
初・長編予定です。
よろしくお願いいたします。
まだ昼間だというのに、外は重たい黒い雲で覆われている。そのせいで室内も薄暗く、まるで太陽が沈み切った後のようだ。
──雨が、降りそう。
格子戸の窓から外を見る。雨が降るならば、雨水が室内に入らないよう木戸を閉める必要があるが、その作業をするのが億劫だ。それに濡れたとしても特に問題はないし、そこまで気を回す余裕は正直言ってない。
窓の外から室内へと視線を戻す。外の暗雲とした景色と同様に、目の前の光景も暗雲としていた。
部屋のいたるところに積みあがった人。
そして、周辺に飛び散った液体。鉄錆びた独特のにおいが鼻をつく。
地下室にいる実験体を除けば、この家で生きている人間は、ひとりだけ。あとは見るも無惨な姿となって、屍と化していた。
──地下室の鍵は全部開けた。分家に連絡もした。もう少ししたら人が来る。その前に、これらの魔素を残らず搾り取って……。
やることを頭の中で順序立ててみるが、思考が分散してうまく考えがまとまらない。疲労も相まって、頭痛さえしてくる。なので、早々に考えることをやめた。
ひとまず、目につくことから取り掛かろう。
一度自室に戻り、机の上に置いてあった何の変哲もない小さな木箱を手に取り、戻る。木箱を近くの机の上に乗せ、右目にかけていた眼帯を外した。
その途端、視界に入る魔素の情報量が一気に増え、反射的に目を閉じた。ひとつ、大きく息をついてから再び目を開ける。先ほどまでは見えなかった、濃密なほど混ざり合った魔素が室内に充満しているのが視てとれた。
「吸い取れ」
再びの深呼吸の後、ぽつり、言葉をつぶやく。
すると自分に向かって魔素が一気に押し寄せてくる。その魔素をすべて体内に吸収しないよう気を付けながら、木箱に手をかざす。すると体の外側を伝って、その箱の中へと魔素が一気に移動していくのが感じ取れた。
──どのくらい、そうしていたのだろう。
突如、視界がピカっと光ったかと思うと、天が割れるような激しい音が聞こえてきた。遅れて、屋根に雨音が叩きつけられる音が聞こえる。
はっとして、魔素を断ち切るように右目に眼帯を付けなおした。眼帯を着けたことで魔素の有無が見えなくなったけれども、室内に充満していた魔素はほぼなくなったことを知っている。
眼帯を調整し終えたあと、先ほどまで手をかざしていた木箱を手に取る。今この中には、先ほどまで室内を漂っていた大量の密度の魔素が集まっている。これだけの密度であれば、この魔素が魔石へと変ずるのも時間の問題だろう。
少しして、雷雨の音に交じって人の話し声が微かに交じっているのに気が付いた。おそらく、自分が呼んだ者たちがやってきたのだろう。
体はかなり疲れていた。今すぐにでもベッドに横なってしまえば、昏々と眠り続けてしまうくらいには。
──でも、全部、終わらせないと。
それさえ終わってしまえば、自分が望むことができる。あと少しの辛抱だ。
ドンドンと来訪者がドアを叩く音と大きな声が聞こえる。何人かの声が聞こえるので、もう複数人、この家に着いたようだ。
扉の鍵を開けるために移動する。
そしてその扉が開かれたとき、今度こそ全てが変わることを信じて──。