sideマライアの記憶
賢者を捜索しているときのマライアの話です。
「うそ、賢者様は死ぬ筈ない」
魔王討伐に向かった賢者が帰って来ないと言う知らせが入ったのは。魔王軍によって破壊された村に来たときだ。
「マライア様、この街も生存者ゼロです」
「そうか・・・」
「マライア様、王命で王城に参れと言う指示が出ました」
「では、前線はお前に任せる。セカルが陥落したと言う噂が届いている。ここもセカルに近いから戦火がここまでくるかもしれない。近隣の街で補給を済ませて警戒に当たれ」
「わかりました」
そう言って私は王城に向かった。
賢者が魔王城から帰って来ないことで国民に不安が募り士気も低くなってきている。
(あのとき無理にでも一緒に行っていれば)
ルイス様は誰もが最強と言う存在だった。誰よりも賢く色んなことを知っていて、多彩な魔法を扱う彼はいつしか賢者と呼ばれ、国民から親しまれた。わたしは小さい頃から賢者様に憧れていた。そして騎士学校を主席で卒業したわたしはルイス様のもとで護衛騎士として働くことになった。ルイス様はわたしを歓迎してくれた。
護衛就任から三か月くらいにルイス様がわたしに相談事をしてきた。その内容は身体強化を教えて欲しいと言う内容だった。実はルイス様は身体強化がそんな得意ではないらしい。私は賢者様にも苦手なことがあることに驚いた。そして私が身体強化を教えることとなった。
「少し上達してきましたね」
「ああ、マライアは指導が上手だな」
「そんな滅相もございません」
「いや、今までで一番わかりやすかった」
ルイス様は基本的に一人でなんでも出来てしまう。一人でやった方が早く終わるのだ。ルイス様は強いから本当は護衛も要らないのだろうけど王様の心が落ち着かないのか(私一人だけど)護衛をつけられている。しかしわたしが動く前には全て終わっていた。だからルイス様の役には立てないと思っていた。でもルイス様にそう言われたとき私は私にもルイス様の手助けができるんだと思った。
私が護衛になって数年経った。近年は魔王の暴虐ぶりが増してさらに凶暴になった。それはアマント帝国にも及んだ、そしてルイス様は魔王討伐に名乗りを挙げたのだった。
「危険です。ルイス様、一人で行くなど」
「君がいても魔王との戦いでは足手纏いになるだけだ」
賢者は強すぎたがゆえ一人だった。英雄級の力を持つ私でさえ歯も立たない賢者と並ぶ魔王など私では1分ともたないうちに消し炭だろう。いや、今思えば、自分を囮にルイス様が逃げる時間くらいは稼げたかもしれない。
ともかく、私や皇帝の抵抗虚しく賢者様は行ってしまった。
止められなかったことを私は後悔している。
皇帝陛下からの勅命は賢者の捜索と代理になりそうな人の捜索だ。
もちろん、ルイス様は見つからないままときが過ぎていった。
「ルイス様・・・」
やはりルイス様はどこにもいない。マライアは影武者用の人を仕立て上げた。捜索をするが一向に見つからない。そしてとうとう捜索が打ち切られた。
帰る最中大きな音がしたので音のした方に走っていく。どうやら冒険者パーティーがビッグボアを取り逃したようだ。ビッグボアが街の方に向かっている。これはまずいかも知れない。そう思い、ビッグボアを追いかけるとビッグボアの進行方向に子供がいた。危ない!
私はビッグボアを両断し、後ろを振り返ると少年を見て固まった。
(ルイス、さま?)
「生きていたのですね。賢者様、いえ、ルイス様!」
間違いないルイス様だ。もう絶対一人にさせませんよ。ルイス様。
こうして私はまたルイス様と再会するのだった。
レン「誰この人?」