決断の記憶
前の話から数日経ちました。
「アルト殿とは、あのAランク冒険者『先導者』アルトのことだったんですか?」
「そうですね。帝国でも有名なんですか」
「魔族が意図的に起こしたスタンピードを止めたと言う話は有名過ぎます」
スタンピードとは地上に魔物が溢れ返ることで食べ物がなくなり、食べ物を求めて街に魔物が攻めてくる現象だ。アル兄は僕がオワリに来る前に起こった、スタンピードで魔法を使い魔族を退け、戦いを終わらせた。アル兄が冒険譚を話す時にはどこかでこのこの話題が出るんだよね。
「一度手合わせをお願いしたいですね」
「アル兄には勝てないですよ」
「・・・いや、これでも結構自信はありますよ」
「アル兄の強さを知らないからですよ」
マライアが少し気まずそうにしている。
「あの・・・前々からから少し思っていたのですが、敬語で話すのやめてもらえますか。否定してるけどルイス様が私に敬語を使うのは違和感があるので・・・」
「まあ、違和感があるなら仕方がないが、これでいい?」
「はい!」
「マライアさんも敬語を使うのやめようよ」
「勘弁してください」
断られてしまった。まあ、気長に待つとしよう。
「それで、話は変わるのですが、鑑定を見て思ったことがあったので質問していいですか」
「いいですよ」
マライアさんは詳細鑑定した結果でわたしが賢者か賢者でないかは区別できないと話した。
「魔法は使えないし、魔力も最近操作できるようになったばかりですよ」
わたしは問題の点を言う。
「確かに魔法は使えないし、魔力最近使える様になったばかりかも知れません。しかし、魔法の適正に関しては、まるっきり一緒だったのです。ある理由から魔法が使えなくなったと言う事例は過去にもあります。レン様は孤児院に来てから喋らなかったと聞きます。心を閉ざし記憶に蓋をするほどの出来事があって喋ることができなかったと考えれば辻褄が合います。それに私の目がルイス様を見間違える筈がありませんから」
わたしはマライアさんが言ったことに驚いた。
(もしかしてマライアさんの言ってることは本当のことなのか?)
マライアさんの言ってることが現実味を帯びてくる。
でも、
「例えマライアさんの話が本当だとしても、魔法すら満足に扱えないわたしでは賢者には到底なりえないよ」
「・・・それはっ」
マライアが黙り込む。
「それに昔の記憶はないがわたしは今の生活が楽しいからね。どっちにしろ帝国に行くことはできないな」
わたしが断ったときマライアはどこかかなしそうな顔をしていた。
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