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オリビア・カスティル

 ――オリビア・カスティル。


 オリビアはデイヴィッドと別れたあと、どんな人生を歩んだのだろう。現在は生きているのだろうか、それとも……。


「デリク……わしのせいですまない」

「お祖父様、オリビア婦人の居場所が分かったら連絡します。彼女に謝ってください」

「分かった。よろしく頼む……」




 ◇◇◇


 数日後、デリクからオリビアについて調査が終わったと知らせが届いた。


 オリビア・カスティルはデイヴィッドと別れたのちに、エヴァンズ子爵と結婚。残念なことに昨年亡くなってしまっていた。彼女のお墓の場所を特定できたのでデイヴィッドが王都のタウンハウスに到着次第、呪いを解きに行こうと書かれてあった。


(ずいぶん早く見つけられたのね)


 それもそのはずだった。オリビアのお墓に向かう当日、リリアがシュレイバー家のタウンハウスに到着すると、デリクたちと共にこっくりと深みのある赤茶の髪をした青年が出迎えてくれた。彼の丸みのある垂れ目がリリアを捉える。


「はじめましてブレイン嬢。僕はエヴァンズ子爵家、ウィルバートと申します」

「リリア様、ウィルはオリビア婦人のお孫さんです」


 緊張するウィルバートの隣でミシェルが補足する。デイビッドはウィルバートにオリビアの面影を重ねたのか、彼を直視できないようだ。


 どういうことなのかとリリアはデリクに視線を送った。


「俺も驚いた。まさかミシェルと同じクラスにエヴァンズ家のご令息がいるとは思いもしなかったよ」

「僕が祖母のお墓に案内します」

「ありがとうウィル」


 ウィルバートはミシェルに礼を言われ少し赤くなったようだった。




 ◇◇◇


「これが祖母の墓です」


 一歩また一歩、戸惑いながら足を動かすデイヴィッド。墓石の前で膝をつき、刻まれた『オリビア・エヴァンズ』の名前に彼の瞳が揺れた。


「オリビア……すまなかった……」

「シュレイバー侯爵、そのお言葉、オリビア婦人に直接聞かせてあげでください」

「オリビアはもう……」


「召喚に答えよ『オリビア・エヴァンズ』」

 リリアが囁くと地面が眩しく光った。


「――お祖母様……」


 ウィルバートの声を合図にデリクやミシェルは少しずつ目を開いた。魔法陣の中央にウィルバートと同じ赤茶の髪色をした老年の婦人が立っている。

 呪いを可視化すると、デイヴィッドが持つ右半分の魔法陣とオリビアの持つ左半分の魔法陣がピッタリとくっ付き、一つの呪いの魔法陣となった。


「オリビアなのか……」


 オリビアの霊は瞼を震わせ眠りから目を覚ました。デイヴィッドは震える手を彼女に向かって伸ばす。


「オリビア、わしだ。デイヴィッドだ」

「………デイヴィッド」

 朧げだったオリビアの目がカッと見開いた。


「あんた……デイヴィッド!? このバカやろう! 嘘つき! 結婚詐欺師! じじい!」


 デイヴィッドとその後ろで彼を見守っていたデリクたちはポカーンと口を開けた。


「あんたのせいで私がどれだけ傷付いたと思ってるのよ!」

「すまなかった……」

「なんでハゲてないのよ!」

「フサフサですまん……」

「もっとヨボヨボになってなさいよ!」

「適度に鍛えててすまん……」


 オリビア婦人は悪口のボキャブラリーが少ないようで「バカ、アホ」を連呼している。


「はぁ……はぁ……スッキリした!」

「お、お祖母様」

「――ウィル!? やだ、ずっとそこにいたの!? もしかして全部聞いてた?」


 オリビア婦人はやっとウィルバートの存在に気付いたようだ。孫の目の前で醜態を晒し、顔がカァッと赤くなる。今更だが体裁を装え、目を細めて咳払いをした。


「お、おばあちゃまにも複雑な事情があるのですよ。ところで、なぜ私はここにいるのかしら」


「私がお呼びしました。はじめましてオリビア様。魔術師リリア・ブレインと申します。今日はあなたがシュレイバー侯爵におかけした呪いを解くために参りました」


「呪い!? 私がかけたの!? 確かにあの時、怪しい魔術師から呪いの魔法陣が描かれた紙を購入したわ。でも、まさか本当に呪いをかけていたの?」

「はい、そうなんです。シュレイバー侯爵にかけられている呪いが孫の代にまで影響を与えています」


 オリビアは自分が呪いをかけていることすら知らなかったようだ。口に手を当てて驚きのあまり「そんな……」と声を漏らす。


「そこにいるのはデイヴィッドの孫たちね。私のせいでごめんなさい」

「いや、わしが全部悪いんだ。オリビア、デリク、ミシェル……わしのせいですまなかった」


 ひたすら頭を下げるデイヴィッドの姿にオリビアの眉尻が下がった。


「デイヴィッド……あなたとの事はもう過去のことよ。それに、あなたの気持ちが分からなかったわけじゃない。愛してくれていたこと、ちゃんと伝わっていたわ。別れた時は死んでしまいたいほど悲しかったけれど、素敵な方と結婚して、ウィル、あなたという可愛い孫にも会えた。私は良い人生だったと思ってるのよ。ブレイン嬢、早く呪いを解いてもらえるかしら」


「分かりました。では……『解除』」


 呪いの魔法陣が時を遡るように反時計回りに少しずつ消えていく。


「デイヴィッド、お互い歳をとったわね。天国でまた会えたらお茶でもしましょう。ウィル、家族によろしくね。おばあちゃまはいつでもあなたを見守ってる」


「オリビア!!」

「お祖母様!」


 オリビアは穏やかな笑顔を浮かべ、残り僅かな魔法陣とともに姿を消した。



『――デイヴィッド』


 そよ風とともに届いたオリビアの呼び声。もう思い出す事も出来なくなっていた、みずみずしく弾けるようなあの頃の声色。デイヴィッドの脳裏に昔の思い出が色鮮やかに蘇る。それは胸にしまい込んでいた大切な記憶。


「お祖父様……」

 肩を震わせて涙を流すデイヴィッドにデリクとミシェルは寄り添った。

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