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5話 契約の証

 遠くで声がする…。


「……カ、…ミ、……カ」


 女の子の声?


「ミカ…」

 この声はリリス…。俺を呼んでいる。


 目を開けると部屋の中央に二人で立ったままだ。

「あれ…、終わったのか…?」

 意識を失っていたのか、眠っていたのかわからないが、頭がぼーっとしている。目の前にいるリリスは俺の名前を呼び続けていた。


「ちょっと!ミカ‼」


 リリスの強い呼びかけで意識がはっきりしてきた。

「あ、あぁ…リリス。大丈夫だ」

 意識が戻ったことを伝える。リリスが潤んだ瞳で俺のことを見ている。俺のことを心配してくれているのかと思ったが、その表情は怒っているように見える。


「ちょっと!…もう終わったから、放してくれるかしら?」


 リリスが何を言っているのかわからなかったが、しばらくして理解できた。俺はリリスを抱きしめたまま意識を失っていたのだ!腰を抱き寄せて体は密着したまま…、リリスの大きな胸は二人の体の間で溢れ出んばかりに盛り上がり窮屈にしている…。


「あっ!ご、ごめん…」

 慌てて腰から手を放してリリスの体を解放すると、謝罪を口にし一歩下がってみせた。

「もう…、こんなに強くしなくてもいいのに…」

 何の不満だかわからないが、リリスは顔を赤くし俯いている…。


「リリス、契約は完了したのか?どうなんだ!」

 先ほどまでの事態を思い出し、堰を切ったように事の結果を確認した。

「終わったわよ。無事にね」

 落ち着いた表情でリリスは続けた。「これ見て」と言って指さしたリリスの胸元には、直径10㎝ほどの円とその中に炎のような柄の黒い模様が描かれていた。「ミカの胸にもあるわよ」と言われ、慌てて自分の胸を見ると…リリスと全く同じ模様があった。


「これって…タトゥー?」


 高校生がゴールデンウィーク明けに胸にタトゥーを彫ってきたなんてことになったら、学校中大騒ぎになって、両親が呼び出されて、そして退学!?…どうするんだコレ?隠せないよこんな目立つやつ…。

「安心して。コレは悪魔と契約者本人にしか見えないわ」

「そうか…よかった…」

 タトゥーによるアウトローで過酷な人生が一気に消え、安堵のため息をついた。

「この契約者の刻印…もし、契約を一方的に破棄したり裏切ったりしたらこの刻印がその身体を焼きつくすわ、気をつけてね」

「き、気をつけてねって…」


 対等の契約だからリリスにも俺にも刻印が刻まれたと説明された。仮に主従関係となると従者にのみ刻印が刻まれるらしい。家族を守って欲しいという俺の願いをリリスが受け入れてくれた証拠でもある。


「それより、あんた…それ…」


 リリスがまじまじと見つめ、指さした先は…俺の股間だ。


 数分前まで、リリスと抱き合って激しいキスをしていた興奮が未だおさまらず、俺の下半身は大きく腫れ上がり、テントの様にズボンの生地を押し上げていた。


「こ、これは…」


 こみ上げる恥ずかしさのあまり、腰を引いて両手で覆った。

「言ってなかったけど、私たちサキュバスは今の儀式のようにして接吻して唾液から精を頂くの。昔は…ずっと昔は、その…今のミカみたいなものから吸ってたんだけど…、だから全く無理ってわけじゃないんだけど…手伝おうか?」

「いえ!結構です!」

 全力で拒否した。結構です!羞恥の極みだ。身体が反応しちゃったのは無意識だしっ!むしろ男としては普通の反応だしっ!今日初めて会った悪魔に貞操観念を崩壊させられるところだった。あぶねぇ!あぶねぇ!

「そうね、ミカには想い人がいるんだもんね」

「そうだ、そうだよ!」

 ムキにならないとこの妙な感情を突っぱねることができなかった。治まれ~、治まれ~。



「それより、オヤジたちが起きてないんだけど、気づかれてないのかな?さっきから大きな音を立ててたとおもうんだけど…」


 リリスが侵入してきた時や、契約の時も…今のやりとりだってそれなりに大きな音が出ていたのに同じ2階の部屋で寝ている両親が何も言ってこないことに疑問を感じた。


「うん、この家に入る時に魔力で眠ってもらったから、あと一時間は起きないと思うよ」

「魔力?」

「そう。私、悪魔だし」


 事前にそこまでやっていたなんて、用意周到!さすが悪魔!と、急に親がこの部屋のドアを開けてこの状況説明にあたふたすることがないことに安心しつつも、また一つ疑問が。

「その『魔力で眠られせる』って、俺はなんで眠くならないの?」

 リリスは一瞬、間をおいてから「わからない」と言った。

「この家全体に魔法かけたから、ミカも眠ってるはずだったんだけどね。だから起きててびっくりしたよ」

 それほどびっくりしていなかったように思うが…。それよりも、悪魔を初めて見ることになった俺の方が驚いたよ。


「まさか、窓の鍵を開けたのも魔法?」

「そうだよ」

 リリスの返事は軽い…。きっと、魔法ってのは悪魔にとって当たり前の物なのだろう。


 この後、リリスがここに来るまでの経緯を聞いた。

 この人界と魔界はいくつものゲートで結ばれているようで、悪魔は自由に行き来できるようだ。

 リリスは普段、魔界で過ごすことが多く、たまに精を得るために人界に来ていたらしい。

 いつもは夜の移動がしやすい田舎町で狩り(?)をすることが多かったようだが、俺『F.O.L』の成熟のタイミングに合わせてこの街まで飛んできたと…。しかし、街の明るさや、不眠の人間たちのせいで狩りができず、精が枯渇寸前となっていた。そしてなんとかこの家に到着したのが3日前ということだった。


「ほんとなんなの?都会の人間って!」

 どうやら、眠らない街はサキュバスにとって天敵のようだ。

「…で、昼間はどうしてるの?魔界に帰るの?」

「この辺りにはゲートがないのよ」

 サキュバスと契約をした事と比較すると、気付くと他愛もない会話をしていた。


「私、そろそろ行くわ」

 時計は午前4時をさしている。外はまだ暗いが、しばらくすると空が明るくなってくるだろう。

 リリスは窓枠に足をかけ、腿から尻にかけての白い肌をこちらに向けて振り返ると「じゃあね」とだけ言って、うす暗い空に飛んで行った。


 俺は一人になって部屋を見まわした。この数時間で起きた劇的な変化…サキュバスとの契約…正直、恐怖も感じるけど…今は寝たいかな。ゴールデンウィークの連休中ということに感謝しつつ、ベッドに倒れて目を閉じた。


 その後数日経っても、リリスは窓から入ってこなかった…。


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