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1話 あの夢に出てきた女性は…

 ピピピ…

 これは目覚ましのアラーム。

 子供の頃からこの音で起きているから反射的に目が覚め、ノールックでアラームを止められる。身体にしみ込んだ朝のルーティンだ。

 部屋のカーテンを開けて窓から外を覗くと快晴の空が広がっていた。春の連休GWだというのに朝の空気はまだ冷たく感じる。

 

 夢の内容を思い出し大きなため息をついた。この夢を見たのは2日連続、ほとんど内容は同じだ。昨日は所詮は夢だからと特に気にしなったのが、連日で同じ夢見ると流石に気になってしまう。


 下の階のリビングに下りると、母親がいつものように慌ただしく出勤の準備をしていた。

「おはよう、ミカ。ちょっと悪いんだけど、朝ごはん勝手に何か食べて。母さん、ちょっと時間なくて…」

 毎朝慌ただしのはどこの家庭でも一緒だろう。我が家は共働き。GWだというのに、休んでるのは俺だけだ。

「うんいいよ、洗濯もやっておくから…俺、学校休みだし」

「あ~、いい息子!こんな出来のいい息子を持って母さん幸せだわ。誰に似たのかしら?きっと、わたしね」

 親父はすでに出掛けている。母も今日も仕事だ。夫婦揃って最近忙しいとぼやいていたので、こんな時くらいは一人息子ががんばろうじゃないの!

「じゃ、あとよろしくね。出掛ける時は戸締りして、学校休みだからって遊んでばかりいないで、ちゃんと勉強もするのよ」

 ありがと~と言う母親の熱いハグを受けて、恥ずかしさのあまり両手で突き返した。

「わかってるよ、俺もう高校性なんだから」

「そうそう、高1男子がんばれ!」

 意味のわからない応援とサムズアップをして笑顔のまま母親は玄関を出ていた。


「はぁ…」


 急に静かになった家で深いため息をついてみる。

 昔から息子と距離の近い母親だったが、そろそろ何とかしてほしいものだ。学校の誰かにでも見られたらマザコンのレッテルを貼られそうだ。まだ入学して一か月しか経ってないのにそういうわけにはいかない。


 誰も居なくなったところでゆっくり朝食を摂り、洗濯機を回して簡単に掃除機をかける。ベランダで洗濯物を干しながら昨晩の夢の事を考えていた。夢であるのは間違いない…でも、なんだか妙にリアルに感じる部分もあって、どうも引っかかっていた。


 引っかかったのはあの黒い翼。鳥というより、もっと骨っぽい…そうコウモリの羽根のように見えた。一瞬だったから…しかも夢の記憶。それと昔聞いた祖父の話だ。


 じいちゃんは昔、子供の頃妖怪が見えたらしい。話すこともできたと自慢していた。子供だった俺はワクワクしてその話を聞いていたが、親父はじいちゃんの作り話だって笑ってた。仮にじいちゃんの話が本当だとすると、俺にも『そういうもの』が見えたりするのだろうか。


 こういうのって“夢占い”の類なのか?でもあのリアルな感じは俺が知っている今まで見たことある『夢』とは何か違っているように思える。そんなときは図書館…よりもネットで。


 いろいろ考えながらノートパソコンを起動してみる。


「検索ワードは…」

 黒い翼、女…妖怪


「妖怪ってより、悪魔かな」

 【黒い翼】【女】【悪魔】


 エンターキーを押すと様々なサイトが検出される。黒鳥のようなイラストやコスプレ衣装…どれも夢で見た記憶とは違っている。検索ワードが違うのか?そう簡単に見つかるものではないと分かっていたが右手でマウスを転がし閲覧を続けると、ある画像で目が止まった。


「こ、こんな感じだったかな」


 そのページには黒い衣装に身を包んだ女性がコウモリのような羽根を付け妖艶に微笑んでいた。


『サキュバス』


 あの夢の女性がサキュバスなのかはわからないが、容姿はこんな感じだった。


 『サキュバスは男性の精を欲し、夜な夜な襲いに来る低級悪魔。その昔、男の不貞はサキュバスの力によるものと信じられていた。昔の人々は、災い事は悪魔の仕業と考えていた。そして、都合の悪いことも全て「悪魔の仕業」として片づけていた。


「そのサキュバスっぽい女がなんで俺の夢に…?」


 偶然かもしれないけど、その画面に出てきた姿は昨晩の女性に瓜二つで、悪魔という文面に妙に納得してしまった。


 その目に留まった『悪魔の伝承まとめサイト』は、諸国に数多く伝わる悪魔の伝承を悪魔ごとに分類し、容姿の特徴から対処法までも記したものだった。もちろんサキュバスの対処方法も。

 【一部の地方では「枕元に牛乳があると、サキュバスはそれを精と間違えて持ってゆく」と言われ、悪魔よけに小皿一杯の牛乳を枕元に置いて眠るという風習があった】


「とりあえず、ためしてみますか?」


 あれが本物の悪魔だと完全に信じたわけじゃない、しかも夢だし…。でも俺は妖怪が見えたじいちゃんの血を継いでいる孫なわけだし、じいちゃんの時代には妖怪と云われてたものが、今では悪魔と呼ばれててもいいわけで…。誰かに相談するのは恥ずかしいし、ちょっと様子見的な軽い気持ちで試してみることにした。


 その晩、枕元にコップ一杯の牛乳を置いてベッドに入った。3日連続で同じ夢を見たら、それは何かの病気だろうか?もし病院に行くなら何科?不安で少し寝付けなかったが、いつの間にか眠っていた。


 翌朝、コップの中身は空になっていた。


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