プロローグ
暗い、暗い…。
遠くから薄い光が差しこみ暗闇を照らす。
水中で沈んでいるような感覚…、微かに聞こえるこもった音は水中のようだ。でも息苦しくはない…ここはどこだろう?
浮き上がる感じでも沈んでいく感じでもなく、浮遊しているのだろうか?
身体を動かそうとすると周囲の空気?水?が重く…。なんだか生温かいゼリーの中にいるようだ。
これは…夢?
そうだ、きっと夢だ。そう思うと不安はなくなり、暗闇さえも心地よく思えた。目を閉じて全身が包まれた温かさに身を任せる。そのうち目が覚めるだろうから、何も心配することはない。呑気に浮遊していると夢の中だというのに寝てしまいそうだ。
「…けて」
微かに人の声がした。女性?
「…すけて…ねが」
また聞こえた声は断片的だが、一人の女性が発しているように感じた。耳に意識を集中して言葉の意味を探ろうとしたが、突然人気配を感じ目を開けると、2メートルほど先に髪の長い女性が現れこちらに向かって手を伸ばしていた。影になって表情は見えない。
俺は助けなければと思い即座に右手を伸ばしたが彼女まで届かない。彼女まで数㎝。泳ぐ様に腕を動かしても彼女に近づけなかった。伸ばした指先がゆっくりと離れていく。流れのような物は感じないが女性の身体は何かの力に押し戻されるように一定の速度で離れていった。
今まで遠くから差していた光が突如、放射状に伸びてきて視界を照らしてきた。遠ざかる彼女を光が覆った時にその姿が明らかになった。
そこに映し出されたのは、黒い翼をもつ黒髪の女性だった。