白い別荘⑥
そのことがあってから沙埜は段々と周りの考えていることが気になり始めた。
今までは仕事に専念していて気が付かなかったが、思い返してみると人との距離が随分と空いているように感じた。
まだ勤め始めて半年も経っていないということもあるが、プライベートなことを話すような相手がこの職場にはいない。
考えるほど周りの人達の関係性と違いがあることがわかる。そして何よりも気になるのは自分に対する冷ややかな視線だった。
気に障るようなことをした覚えはないが、自分がそういった点に鈍感なのではないかとも考える。
そしてある日、沙埜はこんな会話を耳にした。
「小湟さんって何考えてるかわからなくないですか?」
「まじでそれ。てかなんかうざいんだよね、真面目すぎて」
「あーそれめっちゃわかります。なんか私達がちゃんとしてないみたいになるのダルイんですよね~」
「無駄に真面目だから仕事増えるんだよ。こっちは早く帰りたいのにさ」
「藤野さん社員だし変なこと言えないですもんね」
「店長の前で“私丁寧な仕事してます”アピール、あれほんとうざい」
「あーそれ私も思ってました」
「でしょ?絶対みんな思ってるって」
「なんか見た目も地味で話しかけづらいですよね~。話合わなさそう、てか友達いなさそう」
「いや、そもそもあんた話す気ないでしょ」
「まあそうですけど」
沙埜はまたしても心臓がひゅっとなった。陰口を耳にしてしまうことが此処最近はしばしばとある。
そして気が付いた。彼女らは自分が近くにいることを知ったうえで陰口を話している、と。
18時で勤務を終えてロッカーへ向かった。中に入ると他店のスタッフが数人着替えていた。自分と同じくらいの歳に見える女性2人が仲良さげに話しているのが聞こえる。その内容は、今週末に旅行へ出かけることであったり、最近流行りのメイクについてのことだ。
普段ならそんなありふれた会話を聞いても何も思わないところだが、この時の沙埜には引っかかるものがあった。
2人が出ていった後、静かになった部屋で沙埜はロッカーの扉に付いている鏡を見ながら先程ほどいた髪をとかした。
ファンデーションを塗ってアイブローで軽く眉を整えただけの自分の顔がとても貧相に見える。
ただ真面目に仕事に取り組んできた、周りより抜きん出ようとしたつもりはなく、誰かの迷惑になっているなんて考えもしなかった。
そして何よりも、こうして聞かされるまで自分がどう思われているかわかっていなかったことに沙埜は大きく落胆した。