八話
フランにゲランの魔の手が及ぼうとした時、衛兵の1隊がやってきた。
これは偶然ではなく抜け出した下女が呼んできたものだ。
「何をやっている!」
「げ、リオン・・・」
ゲランは驚いたようにリオンを見ている。
リオンはグランの後を継ぎ爵位としては侯爵となっている。
だが、役職は衛兵隊長のままだ。
この国では実績を重視する。
その為、高い爵位の者が高位の役職についているとは限らないのだ。
ゲランの立場は文官の父親の小間使いということになっている。
爵位的にも役職的にもゲランはリオンに睨まれれば黙るしかなかった。
「お前たちはもう行きなさい」
そう言ってリオンは下女達を逃がす。
フランも会釈してその場を去っていった。
「よくやったわ。それにしてもリオン様を捕まえてくるなんてね」
「たまたまよ。でも、リオン様ならお持ち帰りされたい」
先ほどの空気はどこにいったのか、きゃいきゃい言いながら王宮への道を進む。
ゲランの登場で楽しかった休日は最悪だったがリオンの登場で上書きされたらしい。
フランとしてもほっとした。
リオンの話は聞いている。
自分の父親が仕えていた相手であり、今だにフランのことを探していると。
リオンも探している相手が下女として王宮に潜り込んでいるとは思うまい。
1つ安心できる要素が出来てよかった。
こうして休日は終わり、明日からまた忙しい仕事がはじまる。
フランが下女として働きはじめ3か月が経とうとしていた。
下女のままではどうやら捜査をするのは難しいというのを実感した。
そもそも1人になれる機会が少ない。
そして重要な部署に立ち入ることが難しい。
重要な部署の世話をするのは侍女達の仕事だからだ。
だが、侍女になるのも難しい。
侍女になれるのは家柄がはっきりしている者達だけだからだ。
それでもフランは諦めず何とか衛兵の報告書のある部屋に滑り込んだ。
素早く掃除を済ませ報告書の類を調べる。
ほとんどが関係のない報告書だが、自由の火に関する報告書を見つけ出して夢中で読みこむ。
熱中しすぎて部屋に誰かが入って来たのにも気づかないほど。
「そこで何をしている」
声をかけられ振り向くと高貴な身分の人だと一目でわかる。
「すみません。書類を崩してしまって・・・」
苦しい言い訳だとわかっている。
その時、廊下からガチャガチャと言う音が聞こえた。
「しまった。すまんが匿ってくれ」
そう言うと男の人は机の下に隠れてしまった。